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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
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お転婆とお嬢様 2

 馬車に戻ると馬車の衛士さん達が荷物をおろしている所だった。

 爺ちゃんとリサだけにしては荷物が多いな。

 大と小のトランクが一つずつ、それと大きな木箱が二つある。

 

 「ユウ、今回も本や機材を持ってきたから、そっちを運ぶのを手伝ってくれるか」

 「ああ、そういことか。毎回ありがとう、爺ちゃん。この間、お願いしていた本はどう?」

 「注文通りに先史文明関連で、しかも機械工学に詳しい本を入手出来たぞ」


 この本は、以前魔導銃について爺ちゃんと相談した際に、魔導銃の構造を理解する上でどうしても必要だった。

 これで魔導銃の研究も進歩するだろう。

 

 爺ちゃんは小さなトランクを、リサは大きなトランクを持つ。

 リサは自分の胸位の高さがあるトランクを運び始める。

 鍛えているだけあって、難なく運んでるな。


 大きなトランクを見て、疑問が浮かぶ。

 数日の滞在なのにリサのトランクは大きすぎないか?


 「爺ちゃん、今回二人はどの位こっちいるの?」

 「そうか言ってなかったか。ユウ、今回は、リサの避暑も兼ねてるから、一週間の予定だな」


 一週間、それでもリサのトランクは大きすぎないか。


 「リサ、そのトランク大きすぎない?」

 「服が七着、それに化粧品関連……女の子はいろいろ必要なのですわ」


 まあ、とにかく必要なもの入れたら、このトランクになったのか……

 女の子はよく分かんないね。


 それにしても木箱は大きいので、俺が持てて一箱位かな。

 あと一箱は、誰かに頼もうか。


 さっきギャラリーの中で力自慢の人が居たから頼もう。

 俺は爺ちゃんに人を呼んでくる旨を伝えその場を離れる。


 ギャラリーの人達がばらけている中、目当ての人はすぐに見つかった。

 あのスキンヘッドで筋肉隆々な大男の後ろ姿、間違いない。


 「フランツさーん」

 「おう、ユウ。さっきの手合わせ見てたぞ。なかなか体捌きが良くなってるな」


 フランツさんは振り向き、親指を立てグットサインを俺に向けてくれる。


 「ありがとう。呼んだのは爺ちゃん達のというか、俺の荷物になるんだけど、運ぶの手伝ってほしんだ」

 「おう、任せときな!!」


 これで一回の荷運びで済みそうだな。

 相変わらずフランツさんは、爺ちゃんの前ではカチンコチンになっていた。


 衛士の人達は、俺達に挨拶を済ませ、馬車を連れ王都に戻っていった。

 また、一週間後に迎えにくるそうだ。


 家に向かう道すがら、リサにこの村について簡単に案内をした。

 村の規模だったり、観光としてフランツさん手製の丘一面の花畑等々。

 話の途中、リサはあっと思い出したよう俺と爺ちゃんに聞いてきた。


 「先程、先史文明関連の本と言っていた気がしたのですけど……いくらフォローサイト様でも簡単には手に入る物ではございませんわ。どのように入手されたんですの?」


 基本的に先史文明関連の本は、それぞれの国が禁書指定か閲覧制限をかけている。

 リサの疑問も最もだな。


 他に手があるかといえば、爺ちゃん曰く、オークションや闇マーケット位だろうか。

 まあ、こちらの場合はかなりお金がかかる。

 今回はそのオークションで、この本が出る情報を爺ちゃんが掴んでくれた。


 「オークションだよ。わしも少し出したが大半はユウが出資したんだよ」

 「出資って……本自体がかなり高額なのですからそんなお金どこから……」

 「お嬢ちゃん、ユウはこの歳で立派に稼いでるんだぜ。しかも通常の大人以上にな」


 リサは、フランツさんに『お嬢ちゃん』呼ばわりされて少しムッとしている様だが気にしない、気にしない。


 「ユウ、薬師をしていると聞いておりますが、それだけでは到底足らないはずですわ」

 「まあね、そっちの収入も使ったけど、大きかったのは香水の販売権を買ってくれた所があったんだよね。それを今回のオークションに充てたんだよ」


 今回、本の購入で俺は薬師としての約一年の収入と香水の販売権の大半をつぎ込んだ。


 「香水? 販売権? ユウって薬師よね?」

 「まあ、薬師って事も錬金の勉強過程で、調合出来るようになっただけなんだけどね。香水も同じ様なもんだよ」


 リサは薬師と聞いていたのだろう、香水の件は爺ちゃんから聞いていないようで驚いている。


 最近、気付いたが俺達くらいの年齢だとそもそも収入を得ている事の方が少ない。

 元々、うちの場合は欲しいものは、自分で稼いで買えって言う感じだったからな。

 最初の畑の手伝いとかも、欲しいものがあって始めた事だし……。


 「半年位前にさ、調合で香り袋を作ったんだよ。母さんや近所のおばさん方にプレゼントしたら評判良くて、それを聞いた商人が、王都で独占販売したいから契約しないかって話が来たんだよね」


 あの時は、獣や魔物避けといった香りについての調合してた時に、気分転換に良い香りをテーマに作ったら出来たんだよね。

 まさか新たな収入源になるとは思わなかったな。


 「半年前……まさかっ。その香水の名前は『ピクシー』というのではなくて?」


 リサの頬が興奮で紅潮していくのに気が付いた。


 「正解。よく知ってるね。そんな知名度も無いと思っていたけど……」


 リサはササッとトランクの中に腕を突っ込み、一個の瓶を取り出す。

 瓶のラベルには『ピクシー』と書かれていた。


 「知ってますとも!! 今では『ピクシー』は貴族のみならず、街の若い女性を中心にものすごい人気があるんですから。この通り、わたくしも愛用してますわ」


 ははっ、王都でそんな事になってるとは思っていなかった。


 リサによると王都で発売した際は、口コミで広がり続け一、二ヶ月完売したそうだ。

 その後、再販しても即完売の香水らしい。

 最近、商人のおっちゃんが「新作作らないか」って相談を、頻繁にするようになったのもそういうことか。


 「それではユウが、半年前、突如現れた経歴、年齢、性別まで不詳、すべてが謎に包まれた調香師『ウィンド』様なのですわね?」

 「王都では、そんな様付けで呼ばれてるの? たしか商売用に芸名みたいなのを決めてくれって言われて、適当に付けただけだから、もう少しちゃんと名前考えれば良かったなあ」


 いつの間にかリサはトランクを手放し、俺の目の前で片膝をつき、両手を胸元合わせている。

 しかも自信に満ちた目がキラキラ輝いてる。


 「まさか、あ、あの『ウィンド』様に会えるなんて……感激ですわ!!」


 その後、リサに話しかけてもボーッとするのみで反応がかえってこなかった。


 「ほー、その歳で一人の女性を虜にするとは、さすがわしの孫だな。わしですらその歳では出来なかったぞ」

 「さすがフォローサイト様とシリウスの大将の血を受け継いでるだけあるな!!」

 「いやいや、爺ちゃん。そんなつもり無いって……」

 

 爺ちゃん、フランツさん、そんな事言わないでくれ。

 かなり恥ずかしいよ。


 リサは……どこか違う世界に旅立ってる最中だからさっきの会話は聞いていないな、なら良し。

 未だに脳内旅行中のリサは……そっとしておこう。


 「しかし、薬師、調香師、チェスのプレーヤー……。十歳にして、しかも戦闘系職業を抜いても、将来の選択肢が多いな。来年、もしかしたら半年後にはさらに増えるかもしれんな」

 「そうだね。錬金の延長で出来る様になっただけだし、研究対象が変われば増えるかもね」


 爺ちゃんの問に俺も頷く。

 実際、錬金自体がさまざまな分野で利用できるという考えは強い。

 俺も今後は、魔導銃に改良を加えるために鍛冶関係とかを学びたいと考えている。


 その時、リサが俺に急接近してくるのを感じた。


 「ユウ!! いえ、ウィンド様!! わたくし、家に着いたらあなたの工房を拝見したいですわ」


 おっと、旅からやっと帰ってきたか。

 俺の両肩を掴み、ブンブンと揺すってくる。


 「ユ、ユウにしてくれ……『ウィンド』って呼ばれたこと無いから気恥ずかしいよ。あと、工房って言うに汚いとこだけど、あとで案内するね」


 別に危険なものは……あるかもしれないが見せるくらいなら良いだろう。


 リサは喜びのあまり、両手を広げ、回り始めている。

 満面の笑みに俺も見惚れそうになる。


 いかん、このままでは、またリサが脳内旅行をしそうだ。

 俺達はリサの旅立ちを止め、自宅に向かうのであった。


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