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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
10/29

お転婆とお嬢様 1

 今日は爺ちゃんが来る日だ。

 三日後に開かれる俺の十才の誕生会に参加する為に来る予定だ。


 いつものように、俺は商隊が来る時間帯に村の入口で待っている。

 しかし、爺ちゃんは今回の商隊には、相乗りしてないようだ。

 商隊のおっちゃんに聞いてみたが、今回の爺ちゃんは急遽キャンセルしたそうだ。


 この村に来る予定の乗り物なんて他には無いはずだ。

 おかしいな、手紙では今日、村に着くって書いてあったんだが……


 しばらく村の外を眺めていると、馬に乗った兵士三人に、護衛された馬車が一台見えてきた。

 馬車は貴族が乗るような豪華な装飾に屋根付きだった。

 しかも全体を木の壁で覆っているタイプなので中に誰が乗っているのか分からない。

 今まであんな馬車に乗ってきたのは領主くらいだが、領主の馬車と装飾が違っていた。


 馬車は、村の門前にいる俺の前で停まった。

 馬車の戸を開け姿を見せたのは爺ちゃんだった。

 

 「久しぶりじゃな、ユウ。わざわざ、迎えに来てもらって済まなかったな」

 「爺ちゃん、久しぶり!! こんな護衛の人が付いて、しかも貴族が乗るような馬車に乗ってくるなんてどうしたの?」

 「まあ、今回は特別じゃ。同伴の者がいてな、その家族の好意で馬車を出してもらったんだ」


 同伴の者?

 要するに今回は爺ちゃんの他にも人がいるのか。


 爺ちゃんは、馬車に顔を向けた。

 同時に戸から一人の女の子が出てきた。


 女の子の身長は俺より少し上かな。

 赤みがかった金色の髪を眉くらいで切りそろえられ、後ろは腰までまっすぐに伸ばしており、とても綺麗だと感じ一瞬ボーッとしてしまった。

 そして、自信に満ちたちょっとツリ目ぎみな瞳が印象的でとても整った顔立ちをしている。

 服は黒地にスカートが膝下位まであるドレスで、赤の凝った刺繍とラインが縦に入り、女の子にとても似合っていて、可愛さを引き立たせていた。


 ……ここまでは貴族の女の子かなと思えるが、腰に細身の剣――一般的にはレイピアと呼ばれる刀剣の一種――を腰に差していた。


 女の子は俺の目の前に来るまで笑顔を絶やさず歩いてきた。


 「ユウ、この子はエリ――」

 「リサと申します。フォローサイト様の弟子をさせて頂いてます。よろしくお願いいたします」

 「……まぁ、その、なんだ。そういうことだ。リサはわしの弟子だ」


 今、爺ちゃんの話を遮るように自己紹介してきたぞ。

 おそらく貴族のご息女様がお忍びで来ているんだろうな。

 細かいことは気にしない方がこの子の為だろう。


 「よろしく。リサ……さんでいいかな?」

 「リサで構いませんわ。フォローサイト様からユウさんとは、同い年と聞いておりますので……」

 「いいの? それじゃ俺の事も『ユウ』で構わないよ、リサ」


 村でここまで笑顔が可愛い女の子はいなかったな。

 まぁ、この村では若い女性といえば、俺より十才以上歳が離れている。

 そのため同年代の女の子と会うというのもほぼ初めてである。


 真っ直ぐ見つめてくるリサに対して、自分の顔が赤くなっていくのを感じる。

 そういえば爺ちゃんは教え子を増やしたんだろうか?

 教え子を増やしたとは聞いていないが、一人しか教えておらず、確かお転婆な子って言っていた気がする。


 リサからは、お転婆って印象は全く受けない。

 それどころか、清楚とかおしとやかなんて言葉が合いそうだ。

 自信に満ちた目元とレイピアを除けばの話であるが……。


 教え子かどうかは後で爺ちゃんに聞いてみるか。

 その時、リサの隣にいた爺ちゃんが一歩、二歩と俺とリサさんから離れて行くのが分かった。

 

 俺がどうしてかと思っていると――


 「それではユウ、短い滞在ですがよろしくお願いします。……それと失礼します!!」


 掛け声とともにリサは、腰に差していたレイピアを横一閃で俺目掛けて薙ぎ払って来た。

 ちょっと待って、今、殺気があったんですけど。


 俺は、即座にバックステップでレイピアの間合いの外に出た。

 そしてリサに注意を払いながら俺もソードブレイカーの柄に手にやる。


 レイピアを確認すると、さっきまで俺がいたところで止まっていた。

 どうやら寸止めをするつもりだったのか。


 「いきなり何をするんだ、リサ」

 「すごいわ。わたくしの剣に反応出来るなんて……。しかも剣を抜くと同時に、バックステップをしたわね。大人以外でこんな反応をした方は初めてだわ。うふっ、うふふっ……」


 リサは俺の話を聞いていない。

 しかもその暗い笑顔が怖い!!

 さっきまでの天使のような笑顔から一転、どこか病気めいた悪魔の笑顔になっていた。

 同じ人から出る雰囲気がここまで変わるなんて……

 しかもリサさんよ、言葉遣いが変わっちゃってるよ、ですます無くなってるよ。


 後方に退避した爺ちゃんが眉間に手をやり、苦い顔をしてやれやれとため息をついている。

 爺ちゃんはこうなるって事が分かっていたんだな。

 チクショー、それなら前もって教えて欲しかった。


 リサが体を前方に傾け、右手に握るレイピアの剣先を俺にむけ、左手を後方に構える。

 この構え方は、斬るためじゃないぞ、これは突きか?


 「うふふっ、それじゃあ、今度は寸止め無しでいくわ!!」


 予想通り、リサは俺の胸に寸止めなしの突きをしてくる。

 俺は、横に半歩体を傾け、ソードブレイカーで受流す。

 受け流されたと見るやりさは、すぐさま次の突きの為に一歩後退する。

 レイピアの剣先が俺の足へ向く。今度の突きは捌きにくい足元を狙ってくるのか。

 もう勘弁してくれよ……。


 ……五分くらい経っただろうか。

 俺はひたすらリサの繰り出すレイピアの突きを避けていた。

 体術を活かしつつ、あるときはソードブレーカーで、またあるときは魔導銃の銃身で。


 「避けるなぁ!!」

 「避けるって!!」


 リサが当たらない事に苛立ちを感じているのだろう。

 まったく、この戦闘は何時まで続くのか。


 リサは、一旦俺から離れ大きく深呼吸する。

 目つきが変わった気がする。

 あれは、父さんやフランツさん達が何か仕掛けてくる時の目に似ている。


 そしてリサは、次の突きをしてくる。

 突きを避ける最中、俺はリサの唇が動いてるのに気がついた。


 あれは……魔法の詠唱か?


 リサの左手に淡い光が揺らめき出してきた。

 まずい、今までは防戦に徹していたが、魔法が絡んでくるとなると別だ。


 俺は、すぐさま今回初めての攻撃に移る。

 下半身、両足と力を込め、力強く地面を蹴る。

 繰り出されるレイピアをソードブレイカーの鍵部分を使い抑えこみレイピアの突きをいなす。

 そしてそのまま体を捻り、リサの胸元へ潜り込む。

 最後にリサの喉元に魔導銃の銃身を当てる。

 リサは一瞬の事で何が起きたか分かっていないのか、きょとんとしていた。


 「チェックメイト。リサ、俺の勝ちでいいよね?」


 数秒後、自身の負けを認めてくれたのか、レイピアを地面に落とす。


 「……ま、まいり、ました、わ……」


 ふう、終わった、終わった。

 リサは肩で大きく息をしている。

 ちなみに俺の方は、必要最低限の力で避けていただけなので、それほど疲れていない。


 それにしてもリサは剣を使いながら魔法が使えるのか。

 一般的な術師は、魔法を使う為に詠唱及び体内外での魔力操作が必要になる。

 つまり、集中する為に他に何かをする余裕が無いはずだ。


 しかしリサは、戦闘しながら魔法を使えるのが凄すぎる。

 将来、魔法戦士みたいな職業が出来そうだ。


 視線を感じ振り向くと、リサが顔を真っ赤にして俺を見ていた。


 「リサ? 大丈夫か。傷つけたつもりはなかったけど、どっか怪我した?」


 俺がリサの側に近づこうとすると、リサはざざっと後ずさった。


 「だだっ、だっ、大丈夫ですわ。この通り!!」


 真っ赤なリサは自分の腕をブンブンと回している。

 なんでそんなに慌ててるのかは気になるが、大丈夫なら良かった。


 その時、パチパチと周囲から拍手の音が聞こえる。

 周囲には、爺ちゃんや護衛の人達だけではなく、村の人も集まっていた。

 リサは今気付いたようで、レイピアを腰に差し、口元に手を当て最初の天使の笑顔を振りまいている。

 剣を持つ持たないでホントに変わるな、この子。


 「うむ、見事な手合わせだったな。ユウ、リサ」


 爺ちゃんが労いの言葉をくれる。

 この場合は労いでいいんだろうか、俺はある意味襲われた側なんだが……。


 「互いの自己紹介も済んだ所で、そろそろ家に向かうとするか。ギャラリーのみんなもこれでお開きだ」


 爺ちゃん、そんな簡単にさっきの手合わせを済ませないでよ。


 「ちょっと待って。……リサ、それに爺ちゃん、なんでこんな手合わせをやったの?」

 「この手合わせは、私の希望ですわ。フォローサイト様にお願いしましたの」

 「そういうことじゃ。まあ、半分はわしがけしかけたようなもんだがな。はっはっはっ」


 爺ちゃんは笑い飛ばすように話した。


 「リサはな、王都では武術や魔術といった戦闘関連に興味が強くてな。実際、教えたら上達が早かったよ。王都では同年代と試合すれば負け無し。騎士団でも若手の騎士になら引けを取らない能力を持っておる」

 「そんな大げさですわ」

 「ふん、リサよ。王都を立つ前の言葉、わしは忘れておらんぞ」

 「そ、それは……」


 リサは照れた表情からバツが悪い表情に変わっていく。


 「確か……『わたくしに敵う男なんておりませんわ』だったか」

 「やだぁ、フォローサイト様。もうお忘れ下さい。わたくしが愚かでございました」


 今度は顔を真っ赤なって、手で顔を覆っている。

 ホントにコロコロ表情が変わるな。

 見ていて楽しいな。


 「まあ、その奢りを正すためにな。わしの孫と手合わせして、世界は広いと感じさせたかったんだ」

 「それで急な手合わせに発展したのか……なんかなー」

 「フォローサイト様、十分理解いたしましたわ。体力面、技術面とユウはわたくしを圧倒しておりましたわ」


 そう言いながら俺と爺ちゃんの間に入ったリサは俺を見る。

 俺も見つめ返すとリサは真っ赤になりうつむく。

 さっきからどうしたんだ?


 「はっはっはっ。気に入ったようだな。まあ、立ち話も、もう良いだろう。今度こそ家に向かうぞ」


 俺とリサを交互に見た爺ちゃんは、楽しそうに笑いながら馬車に向かっていった。

 俺達も後に続いた。


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