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99 防衛線の後

俺は漣の元へ歩み寄った。


「凄かったよ。さすが漣だ」


「本当によくやった」


そう声をかけると、漣は一瞬目を大きく見開いた。


それから照れ臭そうに頭を掻く。


「へへへ。でもまだまだだよ」


その言葉に俺は笑い、漣の肩へ腕を回した。


そして拳を前へ突き出す。


漣も笑いながら拳を合わせてきた。


ごつん、と拳同士がぶつかる。


それだけで十分だった。


漣の全身は傷だらけだった。


俺はそっと《再生》を使う。


淡い光が漣を包み込んだ。


すると裂けていた皮膚が閉じ、打撲も消えていく。


漣は自分の身体を見回した。


「これって……《再生》?」


俺は頷く。


「便利だろ?」


「便利ってレベルじゃねぇよ……」


漣は呆れたように笑った。


その後、俺はゴブリンキングへ《鑑定》を使った。


すると素材欄に見慣れない文字が浮かぶ。


《魔石》


初めて見る素材だ。


とりあえず《分解》を使う。


巨体が光となって崩れ、一つの大きな魔石が残った。


俺が拾い上げると、漣が苦笑する。


「佐伯さんで驚くのは疲れたよ」


「目標はまだまだ遠そうだ」


何だかよく分からないことを言っている。


俺も思わず笑った。


そのまま雪乃さんたちの元へ向かう。


だが、そこで俺は足を止めた。


状況が深刻だった。


ユリウスさんの左足が無い。


デビットさんの右腕も失われている。


二人とも顔面蒼白だった。


周囲では冒険者たちが必死に応急処置をしている。


ユリウスさんに抱きついて泣いている女性がいる。


どうやら恋人らしい。


デビットさんの周囲には大柄な男たちが集まっていた。


後で聞いた話だと、彼らはデビットさんのパーティメンバーだという。


俺は何も言わず二人へ近づいた。


そして《再生》を使う。


淡い光が二人を包む。


失われた左足。


失われた右腕。


それらが見る見るうちに再生していく。


周囲から息を呑む音が聞こえた。


誰一人声を出せない。


冒険者たちは目を見開き、その場で固まっている。


まるで神話でも見ているような表情だった。


当のユリウスさんとデビットさんも同じだった。


失ったはずの手足を触りながら震えている。


しばらくしてユリウスさんが口を開いた。


「カズキ……お前の力か?」


俺は肩をすくめる。


「運が良かったんじゃないか?」


「俺もここまで綺麗に治るとは思わなかった」


ユリウスさんは俺をじっと見つめた。


そして小さく笑う。


「そうか」


「じゃあエルニア様のご加護だな」


「そうかもな」


「教会には多めに寄付しないとな」


そう言うとユリウスさんは大笑いした。


デビットさんは跪いたまま祈り続けている。


本気で神の奇跡だと思っているらしい。


雪乃さんが俺を見る。


先ほどまで泣いていたはずなのに、今は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「本当に、不思議なこともあるものですね」


意味深な言い方だった。


俺は苦笑する。


「激戦でしたからね」


「頑張った人にご加護があったんでしょう」


そう言いながら、こっそり雪乃さんにも《再生》を使った。


彼女の疲労も傷も綺麗に消える。


雪乃さんは何も言わなかった。


ただ少しだけ優しく微笑んだ。


そこへカミルさんたちがやって来る。


「本当の救世の冒険者だな」


「噂には聞いてたが、強すぎるだろ」


「何でそんなに強いんだ?」


質問攻めだ。


そこで俺はふと思い出した。


「ジャック武具店で武器を新調したばかりだからな」


そう言って棍棒の焼き印を見せる。


「俺たちはみんなジャック武具店の装備なんだ」


すると雪乃さんが小剣を見せた。


漣もガントレットを掲げる。


周囲の冒険者たちが歓声を上げた。


「やっぱりジャック武具店はすげぇ!」


「俺も買い替える!」


「今度行くぞ!」


やりましたよ、ジャックさん。


エリスさん。


宣伝成功です。


そんなことを考えていると、門の方から大きな声が聞こえた。


「おーい!無事かー!」


顔を上げる。


門の上にゼシカさんがいた。


その隣には真紀さんと茉奈ちゃんもいる。


その瞬間、《エコー》で茉奈ちゃんの声が響いた。


『ゼシカ様もこちらで支援してくださっていました』


『多数の魔法攻撃は、真紀お姉ちゃんとゼシカ様によるものです』


なるほど。


あの大規模魔法はゼシカさんも加わっていたのか。


俺は素直に感謝した。


その後、全員でゼストの門まで戻る。


そこでゼシカさんが声を上げた。


「皆の者、ありがとう!」


「自治区長も大変感謝しておられる!」


「街の管理と警備でここには来られないが、後日褒賞を出すとのことだ!」


歓声が上がる。


ゼシカさんは続けた。


「この戦いに参加した冒険者の名は全て記録している!」


「後日、冒険者ギルドへ報酬を受け取りに来てくれ!」


「また、倒したゴブリンの処理はギルドが引き受ける!」


「今日はゆっくり休んでくれ!」


「おおおおおお!!」


冒険者たちの声が響く。


勝利の歓声だった。


皆が門の中へ戻っていく。


するとゼシカさんが俺を呼び止めた。


「カズキ」


「明日でいい。少し話がある」


「パーティメンバー全員を連れて冒険者ギルドへ来てくれ」


「自治区長も同席する」


自治区長まで?


ただの褒賞の話だけとは思えない。


俺は小さく頷いた。


「分かりました」


ゼシカさんも頷き返す。


どうやら明日も店を休むことになりそうだ。


だが――。


自治区長がわざわざ会いたがる理由。


それだけは少し気になっていた。


夕暮れに染まるゼストの街を見上げながら、俺は静かに息を吐いた。


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