94 ゴブリン襲撃
俺たち五人は冒険者ギルドへ入った。
漣と真紀さんは物珍しそうに周囲を見回している。
俺は顔見知りの冒険者たちへ軽く挨拶をしながら、受付にいるエリーナさんの元へ向かった。
「おはようございます」
「おはようございます、カズキさん」
エリーナさんは少し疲れた顔をしていた。
どうやら昨夜は大変だったらしい。
そして俺たちは、昨日起きたマナ襲撃事件の顛末を聞くことになった。
話によると――。
マナが襲撃されたと知った瞬間、ゼシカさんをはじめとする冒険者ギルド関係者と、ユリウスさんたち冒険者が激怒。
実行犯たちは即座に拘束され、厳しい尋問が行われた。
その結果、早い段階で黒幕が商業ギルドだと判明。
さらに自治区長へ報告が上がると、自治区長も激怒。
その場で商業ギルド壊滅命令が下されたらしい。
冒険者たちと自治区兵、自警団が一斉に動き、商業ギルドを制圧。
その後の尋問で、本当の黒幕が判明した。
タリス子爵。
奇跡の菓子を狙った犯行だったらしい。
そして商業ギルド長以下、関係者たちは処刑された。
話を聞き終えたところで、漣が口を開いた。
「タリス子爵って、あいつか?」
真紀さんが頷く。
「辺境伯の腰巾着よ」
どうやらギルモア辺境伯の取り巻きらしい。
それを聞いたエリーナさんが表情を曇らせた。
「それなら、辺境伯が裏で糸を引いている可能性もありますね」
「この件は上へ報告しておきます」
俺たちは頷いた。
その後もしばらく雑談していた、その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開く。
「大変だ!」
飛び込んできたのはデビットさんだった。
「旧アルベール領の方からゴブリンの大軍が来るぞ!」
ギルド内が一瞬で静まり返る。
次の瞬間。
雪乃さんが立ち上がった。
「先に確認してきます」
そう言い残し、風のように飛び出していく。
速い。
本当に速い。
俺たちも慌てて後を追った。
冒険者たちも続々と外へ飛び出す。
エリーナさんは奥へ向かいながら叫んだ。
「上へ報告します!」
俺たちは旧アルベール領側の門へ向かった。
門へ到着すると、雪乃さんが既に待っていた。
息一つ乱れていない。
「どうでした?」
俺が尋ねる。
雪乃さんは真剣な表情で答えた。
「大軍です」
その一言で空気が変わった。
「約三千」
周囲から息を呑む音が聞こえる。
「中央に主力部隊」
「左右に各五百規模の部隊」
「後方にはさらに千近い軍勢が控えています」
そして雪乃さんは続けた。
「普通のゴブリンだけではありません」
「大型種を多数確認」
「さらに後方に、明らかに格上の個体がいます」
その報告を聞いたユリウスさんたちの顔色が変わった。
「おい……」
「まさかゴブリンキングか?」
「ゴブリンジェネラルもいるぞ」
「ロードもいるな」
「マージまで混じってやがる」
「終わった……」
「ゼストが飲み込まれるぞ……」
普段豪快な冒険者たちが青ざめている。
それだけ異常な軍勢なのだろう。
だが――。
俺は笑った。
「ゼスト防衛戦だ」
そう言うと、四人を見る。
「やるぞ」
四人が力強く頷いた。
俺は漣と真紀さんを見る。
「ぶっつけ本番で悪い」
「中央主力に《ファイアストーム》を重ね掛けしてくれ」
二人の目が見開かれる。
「例のやつか」
「いきなり本番?」
「だからこそだ」
俺は笑う。
「派手に頼む」
二人も笑った。
「任せろ」
「やってやるわ」
そして俺は続ける。
「俺が右軍を引き受ける」
雪乃さんの顔色が変わる。
「一人でですか?」
「大丈夫」
俺は即答した。
「俺の強さは知ってるでしょ?」
それでも雪乃さんは不安そうだった。
だから俺は続ける。
「雪乃さんと漣は左軍」
「二人が本命だ」
「突破したら中央を挟撃してくれ」
「真紀さんとマナは後方支援」
「二人の火力が要になる」
するとマナが眉をひそめた。
「それだと佐伯さんだけ……」
真紀さんも続く。
「自分を囮にする気でしょ?」
図星だった。
だが言う訳にはいかない。
「そんな訳ないじゃん」
俺は笑った。
「全員で生き残るための最善策だよ」
すると漣が俺の肩を叩いた。
「だったら俺と雪乃さんで速攻終わらせる」
「すぐ追いつくからな」
そう言って拳を突き出す。
俺も拳を合わせた。
「無理するなよ」
「そっちこそ」
そこへ真紀さんとマナも拳を重ねる。
最後に雪乃さんがゆっくり近付いてきた。
そして拳を合わせる。
真っ直ぐ俺を見つめながら。
「必ず戻ってきてください」
静かな声だった。
「あなたがいなくなったら……私は困りますから」
俺は微笑む。
「雪乃さんこそ」
「無理はしないでください」
「俺も、あなたがいない未来は考えられません」
一瞬だけ雪乃さんが目を見開いた。
そして小さく頷く。
俺たちはそれぞれの持ち場へ向かった。
迫り来る三千のゴブリン軍。
ゼストの命運を懸けた戦いが始まろうとしていた。




