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93 ジャック武具店

俺たち五人はジャック武具店へ向かった。


店に入ると、おかみさんのエリスさんが店番をしていた。


「エリスさん、ご無沙汰しています」


そう声をかけると、エリスさんは一瞬目を丸くした。


次の瞬間、


「あんた! カズキさんたちだよ!!」


と叫びながら店の奥へ駆けていく。


すると奥から、


「なにぃ!?」


という大声が聞こえたかと思うと、ジャックさんが転げるように飛び出してきた。


手には妙な棍棒を抱えている。


鉄製の棍棒だが、先端には無数の棘が生えており、見た目だけで凶悪だ。


「カズキさん!」


「待ってたんだよ!!」


「これだ! これを持っていってくれ!!」


いきなり棍棒を押し付けられ、俺は訳が分からず固まった。


するとエリスさんが呆れたようにため息を吐く。


「あんた、いきなりじゃカズキさんが困るでしょ」


「ごめんなさいね、カズキさん」


「この人、興奮しちゃってるのよ」


俺は苦笑した。


エリスさんは続ける。


「前にも言ったでしょ?」


「カズキさんたちがウチの武器を使ってくれたおかげで、お店が大繁盛なの」


「そのうえ、もっと宣伝してもらうんだって張り切っちゃってね」


「ここ最近は三人の新作武器作りばっかりしてたのよ」


「雪乃さんとマナちゃんの武器はすぐ出来たんだけど、カズキさんの棍棒だけは納得いかなかったみたいで」


「つい先日、『ついに完成した!』って騒いでいたところなの」


なるほど。


それでこのテンションか。


ジャックさんは得意げに雪乃さんの小剣を取り出した。


銀色の刀身は美しく磨かれており、軽く振っただけで風を切る音が響く。


「この小剣には敏捷性を高める付与を施してある」


続いてマナの弓を見せる。


美しい木目に繊細な装飾が施されており、芸術品のような仕上がりだった。


「こっちは力を高める付与だ」


「弓の威力がかなり変わるぞ」


そして最後に、俺の棍棒を持ち上げる。


見た目だけで凶器だった。


「で、こいつには力を上げる付与を施してある」


「まぁ、使う人間の能力によって効果は変わるけどな」


「そこは使ってのお楽しみだ!」


ジャックさんは豪快に笑った。


俺は棍棒を受け取りながら尋ねる。


「能力を上げるって……?」


するとジャックさんが目を丸くした。


「言ってなかったか?」


「俺は鍛冶師だけど付与術師でもあるんだ」


初耳だった。


「付与術は消耗が激しいから滅多にやらねぇんだけどな」


そう言って肩をすくめる。


ありがたい話だ。


せっかく作ってもらったのだから大事に使わせてもらおう。


「ありがとうございます」


「それで、おいくらですか?」


そう言って財布を出そうとした瞬間。


ジャックさんが怒鳴った。


「馬鹿なこと言うな!!」


思わず肩が跳ねる。


「カズキさんたちから金なんか取れるか!」


「その代わり、焼き印は入れてあるからな!」


「ジャック武具店の宣伝を頼むぜ!」


そう言ってウインクする。


俺は苦笑した。


その後、漣のガントレットと真紀さんの杖、それから二人の装備一式を新調したいことを伝える。


ジャックさんは二人をじっと見た。


「カズキさんたちの紹介だ」


「断らねぇよ」


「断らねぇけど……訳ありかい?」


俺は小さく頷く。


「大事な仲間です」


「よろしくお願いします」


そう言って頭を下げると、


「カズキさんの頼みなら理由なんか聞かねぇ」


とジャックさんは笑った。


「もちろん最上級のもんを用意させてもらう」


「その代わり、お前さんたちも宣伝頼むぜ!」


そう言って持ってきたのは真っ赤なガントレットと、先端に紫色の宝玉が埋め込まれた杖だった。


「ガントレットは力強化」


「杖は魔法攻撃力強化だ」


漣と真紀さんの目が輝く。


防具も俺たちと同じものを用意してもらった。


二人とも完全に夢中になっている。


俺は何としても代金だけは払うと譲らなかった。


最終的にジャックさんとエリスさんが折れ、代金を受け取ってくれることになった。


俺は金貨五枚を差し出す。


すると二人は目を見開いた。


「多すぎる!」


「正規価格でも銀貨八十枚程度だよ!」


だが俺は首を振る。


「最初の装備から今日まで」


「俺たちは何度も助けてもらいました」


「これはそのお礼です」


そう言って笑う。


「その代わり、次に装備を替える時はサービスしてください」


一瞬、二人は黙った。


そして、


「はっ!」


とジャックさんが笑う。


「次はもっとサービスしてやる!」


エリスさんも笑った。


「他の店で買ったなんて聞いたら許さないからね!」


二人の目には涙が浮かんでいた。


俺たちは改めて礼を言い、ジャック武具店を後にした。


冒険者ギルドへ向かう道中。


漣は何度もガントレットを眺めている。


真紀さんも杖を抱きしめるように持っていた。


「夢みたいだな……」


漣がぽつりと呟く。


「私も」


真紀さんも頷く。


「こんな装備、今まで見たことない」


「それに……」


真紀さんは少し言葉を詰まらせた。


「私たち、追い出されてからずっと二人だったじゃないですか」


「正直、歓迎されることなんてないと思ってたんです」


その言葉に漣も静かに頷く。


だからこそ、今日のことが嬉しかったのだろう。


俺は二人を見て笑った。


「再会祝いだよ」


「遠慮しないで使ってくれ」


すると真紀さんが申し訳なさそうな顔になる。


「でも、こんな高価なものを……」


「ちゃんと返しますから」


俺は首を振った。


「返さなくていい」


「仲間へのプレゼントだ」


そう言ってから、少し悪戯っぽく笑う。


「それに店で儲かってるからね」


「な、マナ?」


マナは胸を張った。


「はい!」


「ガンガン稼いでます!」


その自信満々な言い方に、全員が吹き出した。


街の通りに笑い声が響く。


こうして五人並んで歩いていると、まるで離れ離れだった時間など無かったように思えた。


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