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90 女子会と男子会

私は雪乃さんの部屋に泊めてもらうことになった。


今は私と雪乃さん、茉奈ちゃんの三人で女子会の真っ最中だ。


近況報告はさっき済ませた。


それでも私は、どうしても気になっていることがあった。


今日一日、雪乃さんの様子を見ていて確信したことだ。


佐伯さんの話をする時の雪乃さんは明らかに違う。


目が輝く。


表情が柔らかくなる。


声まで少し弾む。


まるで好きな人の話をする女の子そのものだった。


だから私はストレートに聞いてみた。


「ところでさ」


「雪乃さんって佐伯さんと付き合ってるの?」


雪乃さんの肩がびくっと跳ねた。


「な、な、な、なんで!?」


「な、なんでそうなるのよ!」


顔は真っ赤。


視線は泳ぎまくり。


分かりやすすぎる。


その後、小さな声で続けた。


「そんな訳ないじゃない……」


そう言うと俯いてしまった。


すると茉奈ちゃんが私に目配せした後、雪乃さんをそっと抱きしめる。


雪乃さんは茉奈ちゃんの肩に額を預けるようにして呟いた。


「佐伯さんは……私のことを女として見てくれないよ……」


「私なんかより、もっと素敵な人はいくらでもいるし……」


「私は特別綺麗なわけでもないし……」


「頼りになるわけでもないし……」


「こんな女のことなんか……」


声はどんどん小さくなっていく。


私は思わず眉をひそめた。


自己評価が低すぎる。


雪乃さんは綺麗だ。


優しい。


気配りもできる。


女の私から見ても十分魅力的だ。


なのに本人だけがそれを信じられていない。


茉奈ちゃんが優しく背中を撫でる。


すると雪乃さんはさらに小さな声で続けた。


「それに……」


「今の関係が壊れるのも怖いの……」


「三人で一緒にいるのが楽しくて……」


「もし私だけ違う気持ちだったらって思うと……」


そこで言葉が止まった。


なるほど。


そういうことか。


自信がないだけじゃない。


失うのが怖いんだ。


今の幸せな関係を。


だから踏み出せない。


だから余計に苦しい。


そんな風に見えた。


それにしても。


佐伯さんも罪な人だ。


こんな素敵な人をここまで不安にさせるなんて。


そう思ったが、すぐに考え直す。


佐伯さんが雪乃さんを見る時の目。


あれは本当に家族を見る目だけだろうか。


むしろ逆じゃない?


いや待って。


あの二人。


両想いじゃない?


なんなの、このじれったさ。


中学生の初恋か!


そう思っていると、茉奈ちゃんが私を見て首を横に振った。


「まだもう少し、そっとしてあげて」


「ついこの間、やっと気持ちを伝えられたばかりなんだから」


すると雪乃さんが顔を上げた。


「え?」


「いつ?」


「私が?」


「誰に?」


本気で分かっていない顔だった。


茉奈ちゃんは呆れたようにため息をつく。


「廃村の小屋に迎えに行った日」


「雪乃さん、佐伯さんに言ったじゃない」


「私の前からいなくならないでって」


「大切な人だって」


「どう見ても告白だったよ」


雪乃さんが固まった。


数秒後。


顔を真っ赤にして小さく呟く。


「え……」


私は思わず天井を見上げた。


いやいやいや。


それ完全に告白だから!


聞けば聞くほどそうだった。


だから思わず口に出る。


「いや、お互い大好きじゃん……」


茉奈ちゃんも大きく頷いた。


「真紀お姉ちゃんもそう思うでしょ?」


「私もそう思う」


だが雪乃さんは首を振る。


「私は……でも……」


「佐伯さんはそんなつもりじゃないよ……」


「友達とか家族とか……そういう風にしか……」


少し沈黙してから続ける。


「でも、それでもいいの」


「佐伯さんの隣にいられるなら……」


危うく叫びそうになった。


乙女か!


いや乙女だった。


想像以上に重症だった。


この二人。


思った以上に手強そうだ。


☆★☆★☆★☆★☆★


俺は佐伯さんの部屋に泊めてもらうことになった。


正直、嬉しかった。


ゆっくり話したかったからだ。


俺は聞いてみた。


「あの後、レベルアップしてるんですか?」


すると佐伯さんが笑う。


「さっきから気になってたんだけどさ」


「藤堂君って丁寧な話し方、苦手だろ?」


図星だった。


「だったら普通に話してよ」


「神代君たちと話す時みたいに」


「そっちの方が藤堂君らしい」


やっぱりこの人は話が分かる。


「じゃあ俺のことは漣って呼んでよ」


佐伯さんは頷く。


「分かった、漣」


そう呼ばれた瞬間、なんだか嬉しくなった。


「それでレベルだったね」


「今は四十八かな」


俺は固まった。


高すぎる。


「以前ちょっと無茶な戦いをしてたからね」


「今も休みの日は三人で魔物狩りに行ってるし」


「マナが三人でいたいって言うから」


そう言う佐伯さんは本当に嬉しそうだった。


家族なんだな。


この三人。


そう思った。


すると今度は俺の番だった。


「漣も強くなったね」


「レベル三十九だったよ」


驚いた。


そんなに上がっていたのか。


でも同時に悔しくもなる。


差がついている。


その顔を見ていたのだろう。


佐伯さんが苦笑した。


「俺は《経験値倍化》持ちだから」


「成長速度は反則なんだよ」


反則どころじゃねぇ。


チートだろ。


思わず笑ってしまう。


そして思い出した。


「そういえば神託の宝珠に触れたんだ」


「でも佐伯さんの鑑定より情報少なかった」


「受動スキルも武器スキルも見えなかったし」


「それにアルセニア教って他じゃ聞かないんだよな」


すると佐伯さんの顔が真剣になる。


「実は俺」


「アルセニア教をかなり警戒してる」


静かな声だった。


「エルニア教は力を持ってる」


「魔物肉の流通も教会の支援が大きかった」


「でもアルセニア教は違う」


「召喚した張本人のはずなのに、外に出ると痕跡がほとんどない」


「それが気味悪い」


少し間を置いて続けた。


「正直な話」


「俺はあいつらを信用してない」


その言葉は重かった。


俺も同じだった。


少し考え込んでいると、佐伯さんが空気を変えるように笑う。


「明日さ」


「漣と真紀さんを鑑定してもいいかな?」


「自分の力を正確に知った方が動きやすいし」


「それに仲間の成長を見るのは嬉しいからね」


俺は思わず笑った。


実はずっと頼みたかった。


でも遠慮して言えなかった。


それを先回りされた。


本当に敵わない。


それに。


あの時。


神代たちの前で何もできなかった俺に。


初めて方向性を示してくれたのがこの人だった。


だから今の俺がある。


「頼む」


「俺、自分がどこまで強くなれたのか知りたい」


そう言うと佐伯さんは嬉しそうに笑った。


「任せて」


その言葉を聞いて、なんだか安心した。


昔と同じだ。


佐伯さんは相変わらず俺たちの背中を押してくれる。


仲間として。


そして少しだけ。


兄貴分みたいに。


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