↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/112

87 再会の兆し

俺たちはのんびりとギルニス自治区へ向かう旅を続けていた。


辺境伯の監視から離れるための旅だ。


急ぐ理由はない。


俺と真紀、二人だけの旅だった。


道中では魔物を討伐し、立ち寄った村や街で素材や肉を売る。


その金で気になったものを買い、見知らぬ土地を歩く。


そんな気ままな旅だった。


だが、決して楽な旅ではない。


野宿も多かった。


雨の日もあった。


魔物の群れに囲まれたこともある。


何日も人里が見えない荒野を歩いたこともあった。


それでも苦ではなかった。


真紀がいたからだ。


夜、焚き火を囲んで他愛もない話をする。


見知らぬ街で変な料理を食べて笑う。


そんな時間が楽しかった。


途中、ゼストという街で流行っているというドライフルーツを見つけた。


食べてみる。


知らない果実の味だった。


だが――


作り方は間違いなく俺たちの知るドライフルーツだった。


「もしかしたらさ」


俺は呟いた。


「俺たち以外にも召喚された奴がいるのかもしれないな」


真紀は肩を竦める。


「たまたまでしょ」


「それだけで期待しない方がいいよ」


相変わらず現実的だ。


だが俺は少しだけ期待してしまった。


さらに驚いたのは魔物肉だった。


噂を聞いて食べてみたら本当に美味かった。


真紀ですら一口食べた瞬間に目を丸くしたほどだ。


魔物肉を食べる。


ドライフルーツを作る。


どちらも俺たちの世界の発想だ。


偶然にしては出来すぎている。


そんな思いを抱えながら旅を続けた。


気付けばギルセニアを出てから一か月半。


ようやくギルニス自治区へ辿り着いた。


長い旅だった。


だが不思議と悪い気はしなかった。


さて。


ここには「救世の冒険者」と呼ばれる人物がいるらしい。


魔物肉を流通させ、多くの領地を飢えから救った人物。


さらに今は新しい事業を始めようとしているという。


話を聞けば聞くほど変わった人物だった。


金儲けが目的ではない。


食文化の改善。


雇用促進。


街づくり。


そんな話ばかり出てくる。


正直、俺にはよく分からない。


だが真紀は違った。


「これ……」


真紀の目が輝く。


「日本人の発想だよ」


「人を雇う」


「仕事を作る」


「お金を回す」


「街を豊かにする」


「そして人が集まる」


「完全に現代日本の考え方じゃない」


興奮した様子で語る。


「もしかしたら本当にいるかもしれない」


「私たち以外の異世界人が」


俺はそんな真紀を見ながら笑った。


もし本当にいるなら会わせてやりたい。


それだけだった。


ゼストの街で聞き込みを始めた。


だが意外にも「救世の冒険者」の正体を知る人は少ない。


名前は有名だ。


だが本人の情報は出てこない。


まるで伝説だけが独り歩きしているようだった。


そんな時だった。


市場の一角に異様な光景を見つけた。


行列だ。


ただの行列ではない。


通りの先まで人が続いている。


最後尾が見えない。


周囲の店も繁盛しているが、明らかに格が違う。


俺は近くの男に声を掛けた。


「あの行列は何なんだ?」


男は怪訝そうな顔をした。


「兄ちゃん、知らねぇのか?」


「あれが今一番有名な店だよ」


「ドライフルーツ屋だ」


そこから男は興奮気味に話し始めた。


休業。


再開。


新商品。


クッキー。


プリン。


奇跡の菓子。


王国の至宝。


聞けば聞くほど俺たちの知るものばかりだった。


そして確信に変わる。


これは偶然じゃない。


誰かがいる。


俺たちと同じ世界の人間が。


真紀も同じ結論に至ったらしい。


俺たちは顔を見合わせる。


その時だった。


違和感を覚えた。


店の周囲に数人の男がいる。


客ではない。


買い物客でもない。


冒険者でもない。


彼らは商品にも行列にも興味を示していない。


ただ店だけを見ている。


一人が離れれば別の一人が現れる。


位置を変えながら常に監視している。


視線が鋭い。


腰には武器。


服装は一般人を装っているが隙がない。


俺は思わず眉をひそめた。


「なんだ、あいつら……」


ただの見物人じゃない。


何かを探っている。


あるいは誰かを狙っている。


そんな空気を感じた。


俺が警戒を強めた時だった。


ぐいっと服を引っ張られる。


「おい、いてぇって」


振り返る。


真紀だった。


顔色が変わっている。


目が大きく見開かれていた。


唇が震えている。


そして――


泣いていた。


「真紀?」


返事がない。


震える指だけが店を指している。


俺はその先を見る。


忙しそうに店の中を走り回る少女。


客へ商品を渡している。


笑顔だ。


その顔を見た瞬間。


心臓が止まりそうになった。


あり得ない。


そんなはずがない。


だって俺たちは知っている。


あの日。


あの場所で。


あの子は――


「……茉奈ちゃん?」


声が掠れた。


少女は気付かない。


笑いながら客と話している。


元気そうだった。


生きていた。


間違いなく。


俺たちの知る茉奈ちゃんだった。


真紀が堪えきれず涙を零す。


俺も言葉が出なかった。


一か月半。


異世界を彷徨い続けた。


何度も仲間たちのことを考えた。


もう二度と会えないかもしれないと思った。


その仲間が。


今。


目の前にいる。


俺たちはただ呆然と立ち尽くしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。