↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/111

85 レストラン計画

俺は一度深呼吸をしてから口を開いた。


「私たちは、自分たちが経営するレストランを作りたいと考えています」


会場が静かになる。


全員がこちらを見ていた。


俺は続ける。


「ですが、私たちは料理人ではありません」


「経営者であり続けたいと思っています」


何人かが首を傾げた。


無理もない。


この世界では、店主がそのまま職人であることが多い。


「だからこそ、調理を担当する人材を育てたい」


「店を運営する人材を育てたい」


「そして、その人たちが働き、給料を得て、家族を養える仕組みを作りたい」


自治区長の表情が変わった。


少し真剣になった。


「そのために、まず十名ほど雇用したいと考えています」


「調理担当、接客担当、経理担当です」


「経験は問いません」


「必要なのは誠実さと責任感だけです」


誰も口を挟まない。


俺は続けた。


「そしてもう一つ」


「私たちは、自分たちだけが儲かる仕組みを作りたいわけではありません」


その言葉に視線が集まる。


「パン屋にはパンの製法を」


「精肉店には加工肉の製法を」


「それぞれ提供します」


ざわり、と空気が揺れた。


俺は構わず続ける。


「もちろん、技術提供料はいただきます」


「ですが、それだけです」


「その後の売上を要求するつもりはありません」


今度は明確なざわめきが起きた。


ハンスさんが眉をひそめる。


「……本気で言ってるのか?」


「そんな商売聞いたことがねぇぞ」


俺は頷いた。


「本気です」


「なぜなら目的が違うからです」


会場が静まり返る。


「私たちの目的は、この街の雇用を増やすこと」


「この街の食文化を変えること」


「そして、人が集まる街にすることです」


自治区長が腕を組んだ。


興味深そうな目で俺を見ている。


俺はさらに続ける。


「人が働けば金が動きます」


「店が増えれば客が集まります」


「客が集まれば街が豊かになります」


「そして豊かになった街は、さらに人を呼び込みます」


誰も口を挟まない。


大広間は静まり返っていた。


「私たちが作りたいのはレストランではありません」


「人が働き、人が食べ、人が笑う仕組みです」


その言葉に自治区長がゆっくり息を吐いた。


「なるほど」


小さな声だった。


だが全員が聞いていた。


「私は勘違いしていたようだ」


自治区長はそう言った。


「君は料理人ではない」


「商人でもない」


「街づくりをしているんだな」


その言葉に会場がざわめく。


俺は苦笑した。


そんな大層なつもりはない。


ただ、知っていることを広めているだけだ。


だが自治区長は真剣だった。


「正直に言おう」


「私は最近ずっと頭を悩ませていた」


自治区長の表情が曇る。


「ギルモアから逃げてくる者が増えている」


「住む場所は何とかなる」


「食料も何とかなる」


「だが仕事がない」


「仕事がなければ人は荒れる」


「治安も悪くなる」


「街も疲弊する」


静かな声だった。


だからこそ重かった。


「だが君の計画は違う」


「新しい仕事を生み出す」


「しかも一つではない」


自治区長は指を折る。


「パン屋」


「精肉店」


「レストラン」


「運搬」


「農業」


「そして今後増えるであろう関連産業」


「一つの店ではない」


「一つの産業だ」


俺は少し驚いた。


そこまで考えていたのか。


自治区長は立ち上がった。


「自治区長の名において命じる」


空気が張り詰める。


「冒険者ギルドはカズキ殿の計画を全面支援せよ」


「人材募集」


「店舗選定」


「事業支援」


「可能な限り協力すること」


そして一拍置く。


「また、この計画を妨害する者があれば、自警団と連携し厳正に対処せよ」


「よいな」


ゼシカさんが立ち上がる。


ジョージさんも。


エリーナさんも。


ユリウスさんたちも。


全員が頭を下げた。


「御意」


力強い声が響く。


その瞬間だった。


俺はようやく実感した。


このレストラン計画は、もう俺たち三人だけの話ではない。


街を巻き込んだ計画になったのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。