83 試食会前夜
俺たちは試食会の材料を調達するため、市場へ向かった。
卵、ミルク、チーズ。
必要な食材を買い揃えた後、ついでに雑貨屋へ立ち寄る。
目的はもちろん――米だ。
「お米ってありませんか?」
店主は最初、何のことかわからないという顔をしていたが、しばらく考えた後で手を打った。
「あー、あの家畜のエサのことか?」
「うちじゃ扱ってないよ」
「農家が作って、自分のところの家畜に食わせてるからな」
その言葉を聞いた瞬間。
俺たち三人は顔を見合わせた。
あった。
米があった。
「やった!」
「本当にあった!」
「お米だ!」
思わず声を上げてしまう。
店主は苦笑しながら言った。
「相変わらず、カズキさんたちは変なものを欲しがるね」
「近いうちに仕入れておいてやるよ」
俺たちは何度も礼を言って店を後にした。
家に戻ると、そのままマナの≪テレポート≫で廃村へ向かう。
到着するなり、
「米ありましたね!」
「やっとお米が食べられる!」
「私、卵かけご飯が食べたい!」
三人で大騒ぎになった。
ひとしきり喜んだ後、俺は試食会の話を切り出す。
「まずクッキーとプリンは確定だ」
二人が頷く。
「それ以外にも何品か持っていく」
「パンの種類を増やそうと思う」
「ミルクパンとチーズパンだ」
「賛成!」
「絶対美味しいです!」
二人とも嬉しそうだ。
俺はさらに続ける。
「それから茶わん蒸しと、だし巻き卵」
今度は歓声が上がった。
そして奥から魔物肉を取り出す。
「さらに、これだ」
「ハムとベーコン」
二人の目が輝いた。
離れていた二日間、一人で仕込んでいたものだ。
喜んでくれているのを見ると苦労した甲斐がある。
「それとマヨネーズも作る」
そう言って樽を軽く叩いた。
中には以前仕込んでいたブドウ酢が入っている。
「今回はここまでにする」
マナが首を傾げた。
「意外と少ないですね」
俺は笑う。
「試食会だからな」
「全部出して驚かせるより、これだけで十分だ」
「まだ他にも色々考えてる」
「でも、それはまた今度だ」
雪乃さんとマナが顔を見合わせて笑う。
「商売人らしいですね」
雪乃さんの言葉に俺も苦笑した。
「その代わり、一品一品の完成度は上げるぞ」
「自治区長が来るんだからな」
「出し惜しみはしない」
そして俺は続ける。
「それに、そろそろ次の段階へ進みたい」
「次の段階?」
雪乃さんが首を傾げる。
「レストランだよ」
俺の言葉に二人が頷いた。
レストラン計画。
経営は俺たちが行う。
だが実際の運営は人を雇うつもりだ。
俺たちだけで全てを回せるわけじゃない。
それに雇用が生まれれば街も活気づく。
ここで成功すれば、いずれ他領にも広げられるかもしれない。
それが俺たちなりに出した答えだった。
「そのためにも、冒険者ギルドとの信頼関係は大事ですね」
雪乃さんが言う。
俺は大きく頷いた。
「ああ」
「だから今回は、俺たちの考えをしっかり知ってもらう」
そこからは怒涛の仕込み作業だ。
クッキー。
プリン。
ミルクパン。
チーズパン。
茶わん蒸し。
だし巻き卵。
そしてハムとベーコン料理。
俺はまずマヨネーズを作った。
卵とブドウ酢に少しずつ油を加えながら混ぜ続ける。
ひたすら混ぜる。
普通なら腕が悲鳴を上げる作業だろう。
だが俺には≪剛腕無双≫がある。
疲れる気配すらない。
あっという間に完成した。
続いてミルクパンとチーズパンを焼く。
そして最後はハムとベーコン料理。
ハンスさんを試食会へ呼んだ理由もこれだ。
ハムとベーコン作りを彼に任せたい。
最初に魔物肉流通へ協力してくれた恩返しでもあるし、何より俺たちだけでは生産量に限界がある。
専門家に任せた方が、より多くの人へ届けられる。
だからこそ。
絶対に欲しいと思わせる料理が必要だった。
ふと見ると、雪乃さんが焼いたパンが並んでいる。
一つ手に取り、切れ目を入れる。
そこへハムとマヨネーズを挟む。
一口。
「うまい……」
思わず呟いた。
これだ。
ハムの便利さも、マヨネーズの美味さも伝わる。
試食会の目玉にしよう。
ベーコンはポジャイモと一緒に炒めた。
シンプルだが、ベーコンの旨味がよくわかる。
これも悪くない。
そうこうしているうちに、全ての仕込みが終わった。
気付けば外は暗い。
「だいぶ遅くなりましたね」
雪乃さんが言う。
「今日は店も休みだし、このまま少し休んでから冒険者ギルドへ行こうか」
マナも賛成した。
結局、俺たちはそのまま廃村で雑魚寝することになった。
横になる。
すると、すぐ近くに雪乃さんがいることを意識してしまった。
駄目だ。
意識するな。
そう思えば思うほど気になる。
視線を向けそうになって慌てて天井を見る。
落ち着け、俺。
本当に落ち着け。
そう自分に言い聞かせながら目を閉じる。
……これ、ちゃんと眠れるだろうか。




