79 思い合う気持ち
マナの≪テレポート≫で家に戻ってきた。
着いた先は店の奥の部屋だった。
到着するなり、マナが明るい声で話しかけてくる。
「佐伯さん、無事だったね」
「コンブ干してたね」
「魔物との戦いも圧巻だったね」
私は今日の佐伯さんの姿を思い返していた。
無事ではあった。
けれど、決して元気そうには見えなかった。
コンブを干しながら空を見上げては溜息をつき、魔物との戦い方もどこか無理をしているように見えた。
心配になることばかりだった。
するとマナがふいに、
「今日は眠れそう?」
と優しく聞いてくる。
私は小さく頷いた。
「じゃあ、また明日、佐伯さんのところに行こうね」
「今日は早く寝るんだよ」
「おやすみ!」
そう言うと、マナは自分の部屋へ戻っていった。
私も自室に戻り、着替える。
本当にマナにはお世話になりっぱなしだ。
感謝しながら久しぶりにベッドへ横になる。
今日見た佐伯さんの姿を思い浮かべているうちに、瞼が重くなっていく。
――久しぶりに眠れそうだ。
☆★☆★☆★☆★☆★
次の日の朝。
「いつまで寝てるの? 雪乃さん!」
「佐伯さん、出かけちゃうよ!」
というマナの声で目を覚ました。
私は飛び起きる。
身支度を整え、恐る恐る水に映る自分の顔を見る。
目の下の隈は少し薄くなり、顔色も昨日よりずっと良い。
まだ万全ではないが、一日待ってもらって正解だったかもしれない。
そう思っていると、
「雪乃さん! 行くよ!」
とマナの声が飛んできた。
私は慌てて部屋を出る。
マナの≪テレポート≫で、昨日と同じ場所へ移動した。
小屋の近くまで行くと、佐伯さんがコンブの状態を確認している。
私はしばらくその姿を見つめていた。
するとマナが、
「心の準備はできた?」
と聞いてくる。
私は静かに頷いた。
次の瞬間、
「佐伯さん、お久しぶりです!」
とマナが元気よく声をかけた。
佐伯さんは振り返り、私の姿を認めると視線を落とし、
「こ、こちらこそ……お久しぶりです」
と、どこか他人行儀な挨拶を返してきた。
その距離感に心が折れそうになる。
それでも私は気持ちを奮い立たせた。
「お久しぶりです、佐伯さん」
「少しお話ししたいのですが、よろしいですか?」
すると佐伯さんは、
「はい、わかりました」
と答え、小屋の扉を開けた。
私たちは中へ入り、席に着く。
小屋の中は綺麗に整頓されていた。
だが生活感がまるでない。
まるで私たちが引っ越した日のまま時が止まっているようだった。
私は恐る恐る尋ねる。
「失礼ですが、佐伯さん、お食事は?」
すると佐伯さんは、
「あ、何か食べますか?」
と立ち上がりかけた。
マナがすかさず突っ込む。
「そうじゃなくて、佐伯さんがちゃんと食べてるかってこと」
佐伯さんは頭を掻きながら、
「そういえば、しばらく食べてないですね」
「ははは……」
と力なく笑った。
私は胸が締め付けられた。
そして意を決して尋ねる。
「なぜ、佐伯さんは出て行ったのですか?」
佐伯さんは少し俯き、
「なぜって……雪乃さんを傷つけてしまったからです」
と答えた。
その瞬間、私は立ち上がっていた。
「私は傷ついていません!」
佐伯さんが驚いて顔を上げる。
私は涙を浮かべながら続けた。
「傷ついたのは、佐伯さんがいなくなったからです!」
「佐伯さんがいない生活なんて、私には耐えられません!」
言い終えた瞬間、涙が溢れた。
佐伯さんは目を見開き、言葉を失っている。
やがて落ち着きを取り戻したのか、
「それでも俺は雪乃さんを傷つけて――」
と言いかけた。
私は首を振る。
「だから、傷ついていないって言っているじゃないですか!」
そう言って私は佐伯さんに抱きついた。
「私の前からいなくならないでください」
「私には、あなたが必要です」
「以前、あなたが言ってくれたように……」
「あなたも、私にとって大切な人なんです」
そこまで言うと、もう涙が止まらなかった。
しばらく抱きついたまま泣いていると、マナが静かに口を開く。
「ねえ佐伯さん」
「佐伯さんは、あの件で雪乃さんに傷つけられたの?」
佐伯さんは、
「へ?」
と間の抜けた声を出した。
そして首を横に振る。
「傷つけたのは俺だ」
「雪乃さんじゃない」
「大切な人を傷つけてしまったと思って……情けなくて……」
そう言いながら、涙を堪えていた。
それを見たマナは泣き笑いを浮かべる。
「じゃあ、お互い勘違いだったんじゃん」
「あの件で誰も傷ついてなかったんだよ」
マナもずっと不安だったのだろう。
私たちはしばらく三人で泣いた。
やがて落ち着くと、マナが笑いながら言う。
「じゃあ佐伯さん、帰ろうか?」
佐伯さんは小さく頷いた。
そして帰る前に、マナが念を押す。
「二度と雪乃さんの前からいなくなっちゃダメだよ」
「雪乃さんは、佐伯さんがいなくなるのが一番傷つくらしいから」
すると佐伯さんは苦笑しながら、
「はい」
「ごめんなさい」
と、私たち二人に深く頭を下げた。




