77 (閑話)新しい旅立ち
佐伯たちが廃村へ戻り、雪乃とマナが二人で店を切り盛りし始めた頃――。
神代たちもまた、新たな旅立ちの準備を進めていた。
「それにしても、別々の任務になるとはな」
神代がそう言うと、漣と真紀が苦笑する。
すると太陽と若葉が肩をすくめた。
「まあ、謁見の時以来、辺境伯は一度も姿を見せてないしね」
「漣と真紀が怖いんじゃない?」
二人が笑いながら言うと、真紀は鼻を鳴らした。
「だって、あいつがふざけたこと言うから、ちょっと脅しただけじゃない」
そう言って漣に視線を向ける。
「ねぇ、漣?」
「脅したうちに入らねぇよ、あんなもん」
漣は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
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数日前。
領都ギルセニアへ到着した俺たちは、到着早々、城へ呼び出された。
ヨシュア曰く、辺境伯への帰還報告が必要らしい。
正直、辺境伯には良い感情を持っていない。
それでも渋々、ヨシュアに連れられて城へ向かった。
豪華な廊下を進み、大きな扉が開かれる。
その先には、玉座に腰掛けた辺境伯の姿があった。
俺たちは前へ進む。
ヨシュアだけが跪いた。
周囲からは、
「無礼者!」
「跪かんか!」
などと怒号が飛んでくる。
だが、知ったことではない。
俺たちは黙って辺境伯の言葉を待った。
しばらくして辺境伯が口を開く。
「まあよい」
「こやつらは礼儀を知らぬ人種らしいからな」
鼻で笑いながらヨシュアを見る。
「帰還が予定より遅れた理由は何だ?」
ヨシュアが頭を下げた。
「逃走者が三名おりました」
「その捜索に時間を要しました」
辺境伯は興味なさそうに頷く。
「そうか」
それだけだった。
(トーマスの後始末で散々苦労したんだろうが)
神代はそう思ったが、口には出さなかった。
すると辺境伯が再び口を開く。
「逃走したのは商人、運搬屋、斥候だったな?」
「御意」
ヨシュアが答える。
辺境伯は鼻で笑った。
「斥候は惜しかったが、商人と運搬屋は構わん」
「どうせ戦えんジジイとガキだろう」
その瞬間だった。
真紀の表情が消えた。
「おい」
低い声が響く。
「今、なんて言った?」
次の瞬間、真紀の掌に巨大な火球が現れた。
火球は辺境伯の脇へ飛び――
轟音と共に壁を吹き飛ばした。
石片が飛び散る。
辺境伯の顔が青ざめた。
「次は当てるぞ」
真紀の冷たい声が響く。
護衛兵たちが慌てて動いた。
「貴様!」
剣を抜き、真紀へ向かう。
だが、その前に漣が立ちはだかった。
拳が振るわれる。
護衛兵たちは次々と床へ沈んだ。
全員を叩き伏せた後、漣は辺境伯へ歩み寄る。
「漣殿! おやめください!」
ヨシュアが必死にしがみつく。
しかし漣は止まらない。
辺境伯の胸倉を掴み、そのまま横へ投げ飛ばした。
そして玉座を殴りつける。
轟音。
玉座が粉々に砕け散った。
漣は辺境伯を見下ろした。
「あんま舐めたこと言うなよ」
「俺たちは元の世界へ帰るために協力してやってるんだ」
「仲間を馬鹿にするなら、次はお前がこうなるぞ」
辺境伯は顔面蒼白のまま震えていた。
そこで神代が前へ出る。
「今日はこの辺で終わりにしようか、辺境伯さん」
「用があるならヨシュアを通してくれ」
そしてヨシュアを見る。
「次はどこへ行けばいいんだ?」
ヨシュアは慌てて一礼した。
「こちらです」
俺たちはそのまま謁見の間を後にした。
なお、辺境伯の足元に水たまりができていた気がするが、誰も触れなかった。
その後、俺たちはアルステア教会へ向かった。
目的は『神託の宝珠』だ。
順番に触れてみたが、正直驚きはなかった。
佐伯さんに鑑定してもらった後だったからだ。
むしろ驚いたのは性能だった。
分かるのは、
職業
能力
レベル
固有スキル
のみ。
受動スキルも、
武器スキルも、
魔法スキルも見えない。
全員一致の感想は同じだった。
「佐伯さんの≪鑑定≫の方がすごくない?」
本当にあの人、何者なんだろう。
商人とは思えない。
強さも能力も規格外だった。
また会いたいな。
そんなことを考えながら、俺たちは冒険者登録を済ませた。
鉄級から始まり、魔物討伐を続けた結果、今では銅級になっている。
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そして昨日。
ヨシュアから新たな任務が告げられた。
神代、太陽、若葉。
三人は旧エドワード領へ向かい、魔物と魔族討伐に参加。
漣と真紀。
二人はギルニス自治区へ向かう。
完全な別行動だった。
理由を聞くと、ヨシュアは困った顔をした。
「漣殿と真紀殿を辺境伯から遠ざける意図があります」
「それと、ギルニス自治区は領内最大の懸案事項です」
「もし解決できれば、再び五人で行動できるでしょう」
渋々ながらも了承した。
ちなみにヨシュアは旅の途中で少し分からせてやった。
最近はだいぶ話が通じるようになっている。
そんなこんなで準備も整った。
神代が仲間たちを見回す。
「さて――行くか!」
その言葉を合図に、
俺たちは二手に分かれて旅立った。




