74 銀級昇格
翌日。
俺たち三人は冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入るなり、ヨーゼフさんがこちらに手を振る。
「おう、カズキ!」
近づいていくと、ヨーゼフさんは革袋を差し出した。
「昨日の査定が終わったぞ」
受け取って中を確認すると、金貨が五枚入っている。
思わず目を見開いた。
「すごい金額ですね……」
そう言うと、ヨーゼフさんは豪快に笑った。
「あんだけの量だったんだ。妥当な額だろ」
確かに薬草類も魔物素材も大量だった。
礼を言って革袋をしまい、今度はギルドカウンターへ向かう。
エリーナさんが待っていた。
「お待ちしていました。昇格手続きを行いますね」
銀級への昇格手続きは驚くほど簡単だった。
書類を確認し、登録証を更新するだけで終わる。
これで終わりかと思った、その時だった。
突然ゼシカさんが現れ、ギルド中央の一段高い場所へ上がる。
そして大声で宣言した。
「諸君!」
ギルド内が静まり返る。
「今回、飛び級で昇格した者が現れた!」
冒険者たちの視線が集まる。
「カズキ、ユキノ、マナの三名だ!」
「鉄級から銀級への異例昇格である!」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、歓声が上がった。
「おおっ!」
「すげえな!」
「飛び級かよ!」
周囲の冒険者たちが拍手を送ってくる。
俺たちは照れくさくなりながらも手を挙げて応えた。
その後、ゼシカさんから
「少し話がある。付き合え」
と言われ、応接室へ案内される。
しばらく待っていると、ゼシカさんとエリーナさんが入ってきた。
席についたゼシカさんが、早速本題を切り出す。
「昨日、あの後で自治区長に魔物肉の件を報告した」
「非常に喜んでおられたぞ」
「大いに進めてくれとのことだ」
そして腕を組みながら続ける。
「よって冒険者ギルドは、今後お前たちを全面的に支援する」
「窓口はエリーナだ」
「専属担当として動いてもらう」
エリーナさんが一礼する。
「今後ともよろしくお願いしますね」
俺たちは顔を見合わせ、揃って頷いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
するとゼシカさんが満足そうに笑う。
「それと、魔物肉についてだ」
「エルニア教も全面支援を決定した」
「神のご加護で救われる命があるなら喜んで協力する、とのことだ」
それは嬉しい話だった。
今までは半ば勝手に聖水を使っていたが、これで正式な協力体制になる。
ゼシカさんはさらに続けた。
「ただし、素人に魔物解体をさせる訳にはいかん」
「危険も伴う」
「よって、聖水で瘴気を除去できることは秘匿事項とする」
俺たちは黙って耳を傾ける。
「魔物は今まで通り素材回収名目で冒険者ギルドが買い取る」
「その後、ギルド側で聖水を使用し、食用化した肉を肉屋へ卸す」
「これは自治区長の方針だ」
「お前たちも他言無用にしてくれ」
なるほど。
自治区長はかなり先まで考えているらしい。
感心していると、ゼシカさんがふと思い出したように言った。
「そうだ」
「自治区長から礼も預かっている」
そう言って、パンパンに膨らんだ革袋を差し出してくる。
俺は慌てて受け取った。
中を覗く。
そして固まった。
金貨がぎっしり詰まっていた。
思わずゼシカさんを見る。
するとゼシカさんはニヤリと笑った。
「金貨五十枚だ」
「それだけ感謝しているということだな」
雪乃さんとマナも目を丸くして革袋を見つめている。
するとゼシカさんが雪乃さんを見て笑った。
「ユキノだったな」
「良い旦那を見つけたものだ」
「大事にしてやれよ」
雪乃さんは顔を真っ赤にした。
だが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「はい!」
元気いっぱいの返事だった。
そういえば俺たち、夫婦設定だったな。
そんなことを考えていると、隣でマナが肩を震わせている。
笑いを堪えているらしい。
案の定、雪乃さんがジト目で睨んでいた。
最近、この光景をよく見る気がする。
話が終わり、俺たちは礼を言って部屋を出ようとした。
すると背後からゼシカさんが声を掛けてくる。
「ああ、そうだ」
振り返ると、ゼシカさんは悪戯っぽく笑っていた。
「自治区長にパンの話もしておいた」
「そしたら大層悔しがっていてな」
「たぶん、そのうちお前たちの前に現れるぞ」
「パン目当てでな」
思わず苦笑する。
自治区長ってそんな人なのか。
「気を付けておけよ」
そう言ってゼシカさんは豪快に笑った。
その後、俺たちはジャック武具店へ向かった。
出店の挨拶をするためだ。
だが、なぜかこちらがお礼を言われることになった。
「いやぁ、本当に助かってるよ!」
「最近、店が大繁盛なんだ!」
どうやら俺たちの活躍が口コミで広がり、武具店にも客が増えているらしい。
「近いうちに店へ顔を出すよ」
そう約束してくれた。
そして俺たちは新しい店へ戻る。
いよいよ開店準備の始まりだ。
三人で顔を見合わせる。
ここからが、本当の意味での新しい生活のスタートだった。




