70 試食会の始まり
その後、俺たちは≪分解≫を使わず、魔物の死体を回収した。
農場の男性と冒険者ギルドへ討伐の証明をしてもらうためだ。
グレートボアの死体を並べると、農場の男性は目を大きく見開いた。
「こんなにいたのか……」
呆然と呟いた後、討伐証明書にサインをしてくれる。
その後、農場から荷馬車を借りた。
荷台にはグレートボアが山積みになっている。
普通なら何人かで引かなければ動かせない重さだろう。
だが、≪剛腕無双≫を持つ俺には大した問題ではなかった。
荷馬車を引いて歩き出す。
すると農場の男性がぽかんと口を開けた。
「兄さん……あんた化け物か?」
失礼な。
そう思ったが、荷台いっぱいのグレートボアを積んだ荷馬車を軽々引いているのだから、普通はそう思うかもしれない。
ふと横を見る。
雪乃さんとマナが大笑いしていた。
どうやら相当面白かったらしい。
二人が笑ってくれるなら、化け物呼ばわりも悪くない。
そんなことを思いながら、俺たちは冒険者ギルドへ戻った。
ギルドへ到着すると、エリーナさんが目を丸くした。
「えっ!? こんなにいたんですか?」
「グレートボアが?」
慌ててヨーゼフさんを呼びに行く。
しばらくして現れたヨーゼフさんは、頭を掻きながら言った。
「今度は買い取り追加か?」
「はい。ただし、こちらは解体込みでお願いします」
そう伝えると、ヨーゼフさんは露骨に渋い顔をした。
「面倒なもん持ってきやがって……」
ぶつぶつ言いながらも引き受けてくれる。
その後、討伐依頼の完了報告を済ませ、ギルド内で昼食を取っていると、エリーナさんがやって来た。
「お待たせしました」
「準備が整いましたので、こちらへどうぞ」
俺たちはエリーナさんに案内され、応接室のような部屋へ通された。
中には三人の人物がいた。
エリーナさんが順番に紹介していく。
「こちらが当ギルドの長、ゼシカ・ブラウン様です」
青いショートヘアが印象的な長身の女性が軽く会釈する。
「こちらが商業部門長のジョージ・コナーさんです」
細身で知的な雰囲気の男性が立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「最後に、ニールセン不動産のエリオット・ニールセン殿です」
小柄な初老の男性も同じように会釈する。
俺も頭を下げた。
「冒険者のカズキです」
「こちらは妻のユキノと娘のマナです」
紹介を終えると着席を促される。
席に着くと、エリーナさんが議題を説明した。
「本日は三つの議題がございます」
「一点目は、カズキさんたちのランクアップについて」
「二点目は、新しく始める商売についてのご相談」
「三点目は、その商売を行うための店舗紹介についてです」
「よろしいでしょうか?」
そう言われ、俺たちが頷く。
ジョージさんとエリオットさんも頷いた。
すると、ゼシカさんが腕を組んだまま口を開いた。
「ランクアップは議題にならないだろう」
いきなりだった。
部屋の空気が少し止まる。
「エリーナから話は聞いている」
「実績も十分」
「それに今日の依頼も問題なく達成してきた」
「報告以上の数のグレートボアを相手にな」
そう言って俺たちを見る。
「銀級昇格で問題ない」
「次の議題へ進めろ」
あまりにも即断だった。
エリーナさんは苦笑しながら頷く。
「承知しました」
「では後ほど昇格手続きを行います」
「皆さん、それでよろしいですね?」
俺たちは顔を見合わせた後、頷いた。
どうやら銀級冒険者になったらしい。
エリーナさんが次の議題へ進めようとした、その時だった。
「で?」
ゼシカさんが身を乗り出す。
「カズキたちは何を売る気なんだ?」
完全に興味津々である。
俺は思わずエリーナさんを見る。
エリーナさんはゼシカさんをじっと睨んでいた。
だが俺と目が合うと、すぐに営業用の笑顔へ切り替わる。
「どうぞ、お話しください」
そう促される。
ここで失敗すれば商売の話は進まない。
逆に気に入ってもらえれば、一気に道が開ける。
俺は持ってきた試作品に目を向けた。
どうやら――試食会の始まりのようだ。




