07 国の状況説明③
「それでしたら、一つ確認したいことがあります」
俺はヨシュアへ視線を向けた。
「先ほどから戦え、戦えと仰っていますが、我々は戦闘経験などありません」
学生時代に柔道で日本学生代表に選ばれたことがあるといっても遠い昔の話。
少なくとも俺が社会人になってから、キーボード以外の武器を使ったことがない。
「そのような人間が、いきなり魔物と戦えるものなのでしょうか」
ヨシュアは特に気にした様子もなく答えた。
「その点は問題ありません」
問題ないらしい。
随分と自信満々だ。
「ここはギルモア領南部にある廃村です」
「ここから北へ十日ほど進んだ場所に、ギルモア領の領都ギルセニアがあります」
「明日より、そこへ向けて移動を開始します」
ヨシュアは淡々と説明を続ける。
「移動中に戦闘訓練を行います」
「武器の扱い方、戦い方、生存術などを学んでもらう予定です」
「もちろん、魔物との実戦も経験していただきます」
高校生たちの表情が引き締まる。
対して俺は眉をひそめた。
実戦。
随分と軽く言う。
「実戦経験を積めばレベルが上がります」
ヨシュアは当然のように続けた。
「レベルが上がればステータスも向上し、使用できるスキルも増えます」
レベル。
ステータス。
スキル。
とうとう来た。
完全にゲームの世界だな。
俺の心の中の感想など気にすることなく、ヨシュアは続ける。
「先ほどシルビア大司教殿が確認した内容は簡易的なものです」
「ギルセニアの教会にある『神託の宝珠』へ触れることで、詳細なステータスを確認できます」
「また、冒険者ギルドへ加入してもらいます」
高校生たちの顔が明るくなる。
冒険者ギルド。
どうやら彼らの好きな単語らしい。
「冒険者として身分を得れば各地への移動も容易になります」
「その後は、それぞれの能力に応じた任務を遂行していただきます」
説明が終わったところで、辺境伯が鼻で笑った。
「もっとも――」
口元が歪む。
「運搬屋と商人は冒険者は厳しいかもしれんな」
広間の視線が小学生の少女と俺へ向く。
「商業ギルドの方がお似合いではないか?」
辺境伯は面白そうに笑った。
ヨシュアも否定はしない。
むしろ当然だと言わんばかりに頷いている。
そして俺を見た。
反応を窺っているのだろう。
俺は何も言わない。
この世界の商人がどれほどの地位なのかも分からない。判断材料が足りなかった。
こんな挑発に乗るほど若くはない。
もっとも、気分が良いわけでもなかったが。
辺境伯は肩をすくめた。
「我らが求めたのは戦える人材だ」
「先ほど役立たずと言ったのも、そのためだ」
そして俺たちを見回す。
「これで理解してもらえたかな?」
理解はできた。
納得はできないが。
少なくとも俺には、部下へ暴言を吐いた管理職が後から言い訳しているようにしか聞こえなかった。
完全にパワハラ加害者の弁明である。
俺は周囲を見渡した。
何か質問がある者はいないか確認する。
剣聖と拳聖の高校生は、不安よりも興奮が勝っているようだった。
信じられない話の連続だというのに、その目には好奇心が宿っている。
若いな、と俺は思った。
槍聖の高校生も真剣な表情だ。
巫女や魔導士と呼ばれた女子生徒たちも、不安はありながらどこか期待を抱いているように見える。
対照的に、小学生の少女は相変わらず青い顔をしていた。
今にも泣き出しそうだ。
そしてスーツ姿の女性。
彼女だけは冷めた目で辺境伯、シルビア大司教、ヨシュアを順番に見ていた。
俺と同じことを考えているのかもしれない。
誰も口を開かないことを確認すると、ヨシュアが締めくくる。
「出発は明日の早朝です」
「本日は各自の装備を整えた後、休息を取っていただきます」
そう告げて、この日の説明会は終了となった。




