06 国の状況説明②
魔物。
勇者。
まるでゲームや小説の中の話だ。
現実味がない。
いや、そもそもここが異世界だという話自体が現実味の欠片もないのだが。
俺が考え込んでいると、辺境伯が再び口を開いた。
「召喚の術についても説明しておこう」
広間の視線が辺境伯へ集まる。
「この術は、指定した場所にいる人間を異世界から呼び寄せるものだ」
「指定できるのは人数のみ」
「誰を呼ぶかは選べぬ」
高校生たちが顔を見合わせる。
辺境伯は続けた。
「そなたらを選んで呼んだわけではない」
「十メートル四方ほどの範囲にいた人間の中から、術によって選ばれた者が召喚された」
そして大きく頷く。
「つまり、そなたらは神に選ばれ、この世界へ来たのだ」
神に選ばれた。
そんな言葉を聞いて喜ぶほど、俺は若くない。
むしろ気になることが増えた。
俺は手を挙げた。
「今までのお話を伺い、いくつか確認したいことがあります」
辺境伯が口を開こうとしたその時だった。
後ろに控えていた護衛の男が一歩前へ出る。
「辺境伯様は過去の惨劇を思い出され、お疲れのご様子です」
男は辺境伯へ一礼した。
「代わりに私がお答えしましょう」
そして俺へ向き直る。
「ヨシュア・ブランドン。ギルモア守備隊隊長を務めております」
軍人らしい隙のない動作だった。
俺も軽く頭を下げる。
「佐伯一樹と申します」
そして早速質問した。
「まず、魔物とは何なのでしょうか」
ヨシュアはわずかに眉をひそめた。
「そこからですか」
当たり前だ。
俺たちは異世界人なのだから。
「魔物とは、魔族が使役する化け物の総称です」
「知能は高くありませんが、人間より遥かに強い力を持つものもいます」
「中には怪しげな術を使う個体も存在します」
「姿形は様々です。獣に似たものもいれば、人型に近いものもいる」
俺は頷いた。
続けて尋ねる。
「では魔族とは?」
「邪神を崇拝する者たちです」
ヨシュアの声が硬くなる。
「我らが信仰する神と敵対し、人類を敵視している存在です」
なるほど。
少なくとも、この国ではそう認識されているらしい。
俺は次の質問を投げた。
「つまり、その魔族や魔物と我々に戦え、と」
「その通りです」
ヨシュアは即答した。
そして付け加える。
「加えて、この国を腐敗へ導く王族とも戦っていただきます」
広間がざわついた。
王族とも戦う。
つまり内乱だ。
俺は小さく息を吐く。
「拒否権はありますか」
一瞬の沈黙。
そしてヨシュアは断言した。
「ありません」
高校生たちの表情が強張る。
俺はさらに尋ねた。
「なぜですか」
ヨシュアは当然のように答えた。
「そなたらは神に選ばれたからです」
意味が分からない。
神に選ばれたことと、戦う義務があることは別問題だろう。
だが、その理屈がこの世界では通用するらしい。
俺は次の質問を口にした。
「では、我々を元の世界へ帰すことは可能なのですか」
ヨシュアは少しだけ考えるような間を置いた。
そして答える。
「可能です」
広間の空気が一変した。
高校生たちの顔が明るくなる。
「本当か!?」
「帰れるのか!?」
しかし次の言葉が、その希望を叩き潰した。
「ただし」
ヨシュアの声は冷たかった。
「結果を出した者のみです」
「我らの求める成果を示した者だけを帰還させます」
高校生たちの表情が凍り付く。
俺は黙ってヨシュアを見つめた。
頭の中で情報を整理する。
異世界へ強制召喚。
拒否権なし。
戦闘への参加を強制。
成果を出さなければ帰還不可。
言葉を選んでいるだけで、本質は単純だった。
――これは拉致監禁だ。
しかも武力を背景にした脅迫付きの。
少なくとも、歓迎会ではない。
そんな感想を抱きながら、俺は静かにため息をついた。




