05 国の状況説明①
辺境伯は静かに目を閉じる。
その表情には疲労と怒りが滲んでいた。
「まずは、この国の現状を話そう」
重々しい声が広間に響く。
「――この国は腐敗している」
その言葉に、高校生たちが顔を見合わせた。
辺境伯は構わず続ける。
「元々、我がギルモア領は隣接する三つの領地と協力関係を築いていた」
「アルベール伯爵領」
「レイモンド伯爵領」
「エドワード伯爵領」
「そして我がギルモア領だ」
「四領は交易を行い、人々は互いの領地を行き来しながら平穏に暮らしていた」
辺境伯は拳を握り締めた。
「だが六か月前、その平穏は終わった」
広間の空気が張り詰める。
「エドワード領が滅んだのだ」
小学生の少女が息を呑む音が聞こえた。
「敵は魔物」
「わずか一か月足らずで領地は壊滅した」
俺は眉をひそめる。
魔物。
ゲームや小説では聞き慣れた言葉だが、現実に聞くと妙な違和感があった。
辺境伯は続ける。
「魔物討伐は本来、国の役目だ」
「我ら領主は領地防衛の兵は持つ。しかし討伐軍は持たぬ」
「国が各領の軍備増強を反逆行為と定めているからだ」
「その代わり、我らは国へ多額の税を納めている」
なるほど。
権力集中のために軍事力を国が管理しているのか。
理屈としては理解できる。
「故に我らは王宮へ救援を求めた」
「王宮は了承した」
「国軍を派遣すると約束した」
辺境伯の声が低くなる。
「だが――来なかった」
広間が静まり返る。
「一か月経っても」
「二か月経っても」
「国軍は現れなかった」
その後、アルベール領から救援要請が届いたという。
魔物の侵攻。
辺境伯は再び王宮へ訴えた。
だが結果は同じだった。
国軍は来ない。
そしてアルベール領も滅んだ。
「今やエドワードとアルベールは魔物の巣窟となっている」
辺境伯は苦しげに言った。
「逃げ延びた民もいる」
「だが多くは魔物に喰われた」
広間の空気が重くなる。
誰も言葉を発しない。
「これに激怒したレイモンド伯爵は王宮へ直接抗議に向かった」
辺境伯の顔に怒りが浮かぶ。
「結果は捕縛」
「そして一族郎党まとめて処刑だ」
高校生たちが息を呑んだ。
「レイモンド領は王領となった」
「さらに以前より重い税が課せられている」
「そして今、そのレイモンド領にも魔物が侵攻しているとの報告が届いている」
辺境伯は一度言葉を切った。
「だが国軍が動いたという話は聞かぬ」
沈黙。
その後、辺境伯は吐き捨てるように言った。
「そんな状況でありながら――」
怒りが滲む。
「王都では側妃が第二王女を産んだとして盛大な祝賀パレードが開催される」
「各領主は祝いの品を持参し参列せよとの命令まで届いた」
辺境伯の拳が震えていた。
「三つの領地が滅びかけているというのに」
「何を考えているのだ、王宮は」
誰も口を挟まない。
辺境伯の怒りが本物だと分かったからだ。
やがて彼は大きく息を吐いた。
「そんな折、一人の文官が古い文献を持ってきた」
「異世界人召喚の術について記された文献だ」
高校生たちがざわつく。
辺境伯は続ける。
「文献によれば、召喚された異世界人には神より特別な能力が与えられる」
「その力は一騎当千」
「ある者は軍勢を薙ぎ払い」
「ある者は無数の民を癒すという」
「ただし与えられる力は一人につき一つ」
「故に複数人を召喚することが望ましいと記されていた」
そして辺境伯は俺たち全員を見渡した。
「さらに、その文献にはこうも書かれていた」
一拍置く。
「五百年前、この世界を救った勇者たちもまた異世界人であった、と」




