04 怒り
剣聖と拳聖の能力を持つと告げられた二人の高校生が、一歩前へ出た。
「役立たずってどういうことだ! おい、おっさん!」
「いきなりこんなところに連れてきて、言うに事欠いて役立たずだと!? 何様だ、お前!」
怒りを隠そうともしない。
おそらく二人とも、「役立たず」と言われたのが自分たちではないことくらいは理解しているだろう。
それでも怒っている。
突然見知らぬ場所へ連れて来られたことへの怒り。
そして同じように召喚された者が侮辱されたことへの怒り。
若いな。
俺も二十代の頃なら、同じように怒鳴っていたかもしれない。
その隣では、槍聖と告げられた高校生も無言のまま一歩前へ出ている。
何も言わないが、その目は二人と同じように辺境伯を睨みつけていた。
対して俺は、その場から動かず周囲を見渡した。
騎士たちが武器へ手を伸ばしている。
辺境伯の後ろに控える護衛らしき男も、腰の剣へ手をかけていた。
まずい。
状況が分からない今、敵対行動は得策ではない。
広間の出口らしき扉は遠い。
その周辺にも武装した騎士が立っている。
仮に逃げようとしても成功するとは思えなかった。
女性陣は青ざめた顔で成り行きを見守っている。
小学生の少女など、今にも泣き出しそうだ。
そもそも男だけだったとしても、この人数差で突破できるとは思えない。
ならば――。
俺は高校生たちへ向き直った。
「失礼な態度を取ってはいけません」
突然の言葉に、高校生たちが驚いた顔でこちらを見る。
「アニストン辺境伯様に対して無礼です」
彼らは目を丸くしていた。
俺はわずかに目配せを送る。
今は引け。
そう伝わればいい。
そして辺境伯へ向き直った。
「失礼いたしました、アニストン辺境伯様」
そう言って、その場に跪く。
「我々は異世界人。こちらの礼儀作法も知らぬ者ばかりです。今回の非礼、どうかお許しいただけないでしょうか」
頭を下げる。
しばらく沈黙が続いた。
辺境伯は驚いたように目を見開いた。
異世界人が跪くとは思っていなかったのかもしれない。
やがて納得したように頷いた。
「よい」
短く言う。
「そなたの謝罪を受け入れよう」
周囲の空気がわずかに緩む。
「元より異世界人に礼儀など求めておらぬ」
辺境伯は続けた。
「我らが求めているのは力だ」
そして言い放つ。
「戦いの中で結果を示してくれれば、それでよい」
その言葉と同時に、武器へ手をかけていた騎士たちが手を離した。
護衛の男も剣の柄から手を外す。
どうやら最悪の事態は避けられたらしい。
もっとも――。
気付けば俺は、召喚された異世界人たちの代表のような立場になっていた。
望んだわけではないのだが。
俺は小さく息を吐く。
そして辺境伯へ問いかけた。
「ありがとうございます」
一礼する。
「ところで辺境伯様。先ほど『戦いの中で』と仰いましたが、その戦いとはどのようなものでしょうか」
辺境伯が眉を上げる。
俺は言葉を続けた。
「我々は皆、戦いとは無縁の世界で暮らしていた者ばかりです」
いや、高校生たちは分からんけどな。
「突然戦えと言われましても、何が何やら分かりません」
辺境伯はしばらく俺を見つめていた。
やがて一度頷く。
「そうであるか」
そして玉座の方へ向き直った。
「ならば、まずは、そなたらをこの世界へ呼んだ経緯から説明しよう」




