03 なんか言われてるんだけど
戸惑う俺たちを前に、アニストン辺境伯は落ち着いた口調で言葉を続けた。
「そなたたちにも色々と思うところはあるだろう。しかし今は、大司教殿による確認を受けてもらう」
確認?
俺が首を傾げていると、シルビア大司教が静かに前へ進み出た。
まず最初に向かったのは、先ほど声を上げた高校生の青年だった。
大司教は青年の前に立つと、その顔へ向けて手をかざす。
しばらく目を閉じた後、静かに告げた。
「剣士。そして剣聖の能力をお持ちです」
その瞬間、広間のあちこちから歓声が上がった。
騎士たちがざわめき、辺境伯も満足そうに頷いている。
高校生の青年自身は状況を理解できていないのか、ぽかんとした顔をしていた。
続いて隣の女子生徒。
「巫女。そして聖なる力の能力をお持ちです」
先ほど以上の歓声が響く。
どうやらこちらの方が価値の高い能力らしい。
その後も鑑定は続いた。
「騎士。そして槍聖」
「武闘家。そして拳聖」
「魔導士。そして全知の系譜」
告げられるたびに周囲は沸き立つ。
まるで当たりくじでも引いたかのような反応だった。
次に呼ばれたのは小学生くらいの少女だった。
少女は怯えた様子で大司教の前へ進み出る。
シルビア大司教が手をかざした瞬間、その眉がわずかに動いた。
ほんの一瞬。
だが見間違いではない。
そして告げられた。
「運搬屋。そして神速の宅配師の能力をお持ちです」
広間の空気が変わった。
先ほどまでの歓声ではない。
「え?」
そんな戸惑いの声があちこちから漏れる。
少女は俯き、さらに小さく身を縮めた。
辺境伯は露骨に大きな溜息を吐く。
そして気を取り直すように言った。
「次だ」
続いてスーツ姿の女性。
「斥候。そして千眼の先見」
今度は再び歓声が上がる。
どうやらこちらは当たりらしい。
そして最後。
俺の番だった。
シルビア大司教が近づいてくる。
手がかざされる。
数秒の沈黙。
やがて大司教は静かに口を開いた。
「商人。そして万物の理の能力をお持ちです」
辺境伯が露骨に顔を顰めた。
まるで不快なものでも見るかのような視線が俺に突き刺さる。
周囲の反応からしても俺はイマイチのようだ。
それにしても商人?
思わず眉をひそめる。
俺はシステムエンジニアだ。
営業部門との折衝はやるが、売買そのものに関わったことはほとんどない。
それに――万物の理?
名前だけ聞けば大層だが、何を意味するのかまるで分からない。
俺が最後だったからか、何とも言えない沈黙が広がっている。
そんな空気の中、辺境伯が口を開いた。
「実に素晴らしい!」
広間に響く大声。
「今回召喚された者たちは皆、優れた能力を持っている!」
そこで一度言葉を切る。
そして、わずかに口元を歪めた。
「――二人ほど、役に立たぬ者が混じっているようだがな」
広間の空気が冷えた気がした。
二人?
小学生の少女と俺のことだろう。
それにしても初対面の相手を役立たず呼ばわりか。
辺境伯とやらは、ずいぶん立派な人格者らしい。




