68 冒険者ギルドでの相談
冒険者ギルドへ入り、買い取りカウンターへ向かうと、ちょうどヨーゼフさんがいた。
「ヨーゼフさん、お久しぶりです」
そう挨拶すると、ヨーゼフさんは豪快に笑った。
「おー、久しぶりだな。元気してたか?」
「ええ、おかげさまで」
軽く言葉を交わした後、俺は本題に入る。
「早速ですが、今日も買い取りをお願いしに来ました」
「おう。そんな用事でもないと、ここには来ねぇよな」
そう言いながらヨーゼフさんは腕を組む。
「で、買い取り品は?」
その言葉を合図に、マナがリュック――本当は≪次元収納≫だが――から次々と品物を取り出していく。
事前に三人で相談し、素材の一部だけを売却することにしていた。
今後何があるか分からない。
素材はある程度ストックしておこうという結論になったのだ。
今回の買い取り品は以下の通りだった。
* 薬草×250
* 毒消し草×200
* ルナリーフ×100
* ワーラットの皮×200
* ワーラットの前歯×200
* 角うさぎの角×100
* グレートボアの皮×50
品物を見たヨーゼフさんは額を押さえた。
「おいおい……またとんでもねぇ量だな」
「査定に相当時間がかかるぞ」
そして大きく息を吐く。
「夕方までには終わらせておく。悪いが、その頃にまた来てくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」
俺たちは頭を下げて、その場を後にした。
ふとギルドカウンターへ目を向けると、エリーナさんがこちらを見ている。
俺は軽く手を上げて挨拶し、そのままカウンターへ向かった。
「ご無沙汰してました、エリーナさん」
するとエリーナさんは少し困ったような笑みを浮かべる。
「本当にご無沙汰でしたね、皆さん」
「また凄い量の買い取り依頼を出していたようですけど……」
そう言って首を傾げた。
「あれは前回の買い取りから今日までに集めた物なんですか?」
「ええ、まあ。妻と娘が頑張ってくれました」
そう答えると、エリーナさんは微妙な表情になった。
「毎日ギルドへ顔を出せとは言いません」
「ですが、もう少し頻度を上げてください」
「ギルドへ顔を出すことには、生存確認の意味もあるんです」
俺たちは黙って耳を傾ける。
「確かに冒険者登録だけして、冒険者稼業を辞めてしまう人もいます」
「ですが、あの買い取り量を見る限り、皆さんはしっかり活動しているのでしょう?」
「それなら無事であることを周囲へ知らせることも大切ですよ」
そして少し笑って続けた。
「ユリウスさんやカミルさんも心配していましたから」
優しい口調だったが、完全に注意されていた。
四十六歳にもなって、二十代前半くらいの女性に叱られるとは……。
俺が少し落ち込んでいると、隣から雪乃さんが小さく脇腹をつついてきた。
「ほら、あなた」
そう言いながら、なぜか顔を赤くしている。
「聞きたいことがあったでしょう?」
横を見ると、マナが必死に笑いを堪えていた。
最近、この二人は何だか妙だ。
そう思いつつも、俺はエリーナさんへ向き直る。
「あの、商業ギルドってどこにあるんですか?」
するとエリーナさんは意外そうな顔をした。
「商業ギルドに何かされたんですか?」
思っていた反応と違う。
俺は慌てて首を振った。
「いえ、そういう訳じゃなくてですね」
「実は商売を始めようと思っているんです」
「それで、製造工程に秘匿性のある商品を扱う予定なので、情報保護について相談したいなと」
そう説明すると、エリーナさんは即座に答えた。
「それでしたら、商業ギルドは何もしてくれませんよ」
「むしろ邪魔をしてきます」
俺たち三人は同時に目を瞬かせた。
「え?」
エリーナさんは苦笑する。
「商業ギルドは公的機関ではありません」
「ならず者たちが勝手に名乗っている団体です」
「商人を保護する名目でお金を集めていますが、実態は違います」
さらに続ける。
「売上の二割を納めるよう要求されるそうです」
……それ、ほぼみかじめ料じゃないか。
俺が呆れていると、エリーナさんはさらに衝撃的な話を口にした。
「目を付けた商品については、製造方法を探り、粗悪な模倣品を勝手に販売します」
「お金を払わない商人には暴力を使うこともあります」
そこで言葉を切る。
俺たちは顔を見合わせた。
そして恐る恐る尋ねる。
「それじゃ、新しい商売なんて難しいんじゃ……」
するとエリーナさんはパッと表情を明るくした。
「そこで私たち冒険者ギルドの出番です」
「え?」
「私たちは新しく商売を始める方々の支援をしています」
話を聞くと、
* 商業ギルドからの嫌がらせ対応
* 商品情報の保護
* 護衛依頼の手配
* 流通経路の安全確保
などを一括して請け負っているらしい。
「店舗保護依頼という形になりますね」
「月額銀貨三枚で対応しています」
「商売は意外と荒事が多いんですよ」
エリーナさんは苦笑した。
俺は感心する。
「出店場所なんかも相談できますか?」
「もちろんです」
エリーナさんは即答した。
「冒険者ギルドと提携している不動産屋があります」
「ご紹介できますよ」
思わず感嘆する。
冒険者ギルドって凄いな。
もはや総合商社じゃないか。
そんなことを考えていると、エリーナさんが嬉しそうに笑った。
「実は私の実家の店も、昔は別の場所にあったんです」
「今の場所へ移転できたのは冒険者ギルドのおかげなんですよ」
「商業ギルドから嫌がらせも受けましたけど、全部対応してもらいました」
「今では全くありません」
そう言って、エリーナさんは誇らしそうに微笑んだ。
俺たちは思わず顔を見合わせる。
どうやら商売を始めるなら、頼るべき相手は最初から決まっていたらしい。




