67 ゼストへの道中
ゼストへ向かう日になった。
今回はマナの、
「たまにはのんびり歩いて行きましょう」
という提案に乗ることにした。
雪乃さんの表情が少し明るくなったように見えたからだ。
準備した品々はすべてマナが≪次元収納≫にしまい込み、俺たちはゼストへ向けて歩き始めた。
道中、ふと気付く。
マナが少し後ろを歩いているのだ。
最初は偶然かと思ったが、どうやら違う。
俺と雪乃さんから少し距離を空けるように歩いている。
何か理由があるのだろうか。
そう思っていると、隣の雪乃さんが小さく呟いた。
「また、あの子、余計な気を使って……」
「え? どうしました?」
そう尋ねると、雪乃さんは肩を震わせた。
「い、いえ! なんでもありません……」
顔を真っ赤にして視線を逸らしてしまう。
何か変なことを聞いただろうか。
俺と雪乃さんが並んで歩き、その二、三歩後ろをマナがついてくる。
不思議な沈黙が続いた。
何となく気まずいような、落ち着かないような空気だ。
しばらく歩いたところで、雪乃さんが意を決したように口を開いた。
「あ、あの!」
「はい?」
「き、聞きたいことがあるんですけど……」
そう言うので雪乃さんを見る。
目が合った瞬間、雪乃さんは固まった。
そして顔を真っ赤にしながら俯いてしまう。
「どうしました? 聞きたいことって?」
「えっと……その……」
しばらく言葉を探した後、
「スキルの≪再生≫ってありましたよね?」
と尋ねてきた。
後ろから小さな溜息が聞こえた。
振り返ると、マナが額を押さえている。
何だろう。
雪乃さんはそんなマナを睨んでいた。
よく分からないが、とりあえず質問に答える。
「ああ、あれですね」
「少し試してみたんですけど、どうもリペアって感じでした」
「壊れた物を修繕するスキルみたいです」
「使い道は多そうなんですけど、今のところ出番がなくて」
そう説明すると、後ろからマナが会話に入ってきた。
「でも、再生って言葉だけ聞いたら色々ありそうですよね」
「壊れた物を直すのも再生ですし」
「人の怪我や病気を治すのも再生って言いますよね」
「あ……」
言われてみれば確かにそうだ。
人間の傷や病気を治す。
それも再生だ。
ということは、俺の≪再生≫は若葉さんの≪ヒール≫みたいなことができるのだろうか。
いや、若葉さんは確か、
『怪我は治せても病気までは治せない』
と言っていた。
もし病気まで治せるなら――。
≪ヒール≫以上の性能ということになる。
そんなことを考え込んでいると、
「佐伯さん?」
と雪乃さんに呼ばれた。
「どうしました?」
「いや、今マナに言われたことが気になって」
「もし人間の怪我や病気まで治せるなら、どこまでできるんだろうなって考えてました」
そう答えると、雪乃さんは柔らかく微笑んだ。
「私が怪我したら、佐伯さんに治してもらいたいな」
その言葉に俺は頷く。
「もちろんです」
「雪乃さんは大切な人ですから」
当たり前のことを言ったつもりだった。
だが雪乃さんは目を大きく見開いた。
そしてみるみる顔を赤くしていく。
「そ、そう……ですか……」
俯いたまま、それ以上何も言わなくなってしまった。
また何か答えを間違えただろうか。
後ろを見ると、マナが口元を押さえて肩を震わせている。
どうやら笑いを堪えているらしい。
本当に何なんだろう。
そんなことを考えているうちに、ゼストの街が見えてきた。
俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。




