63 (閑話)ヨシュアの処断
トーマスが異世界人どもに壊された。
まさしく人を壊すためのやり方だった。
あいつらは、いつの間にあそこまで強くなったんだ?
とても普通の成長速度では説明がつかない。
そもそも巫女が攻撃魔法を使えるのはなぜだ?
先日の魔物討伐でも、若葉とかいう娘が攻撃魔法を放っていた。
巫女ではなかったのか?
それに佐伯とかいう中年男。
本当に非戦闘職の商人なのか?
剣聖、拳聖、槍聖と肩を並べて前衛で戦っていたではないか。
……まあ、あの男と小娘がいなくなったのは都合がいい。
辺境伯様からも追い出せと言われていた連中だ。
斥候までいなくなったのは痛手だがな。
報告内容には少し手を加える必要がある。
そうしなければ、今度は私の立場が危うくなる。
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その夜。
ヨシュアのもとへタリス子爵夫妻が訪れた。
「ヨシュア殿、その後の報告を聞きに来た」
「辺境伯様が、なかなか成果が出ないことに苛立っておられてな」
タリス子爵がそう言うと、ヨシュアは恭しく頭を下げた。
「お喜びください」
「商人と運搬屋、二名の追放が叶いました」
「ただ、その任務の最中にトーマスが深手を負いまして」
その報告に、子爵夫妻は顔を見合わせた。
「ほう、深手とな」
「だから今日はあのクズがおらんのか」
タリス子爵は鼻で笑う。
夫人も嫌そうな顔をした。
「正直、顔も見たくない相手でしたわ」
「いないならその方が気楽ですもの」
二人とも、トーマスの身を案じる様子など微塵もない。
ヨシュアは内心で冷笑した。
そして、あえて重々しく口を開く。
「任務とはいえ、非戦闘職相手に深手を負うなど騎士の恥」
「相応の処罰を与えようと思いますが、いかがでしょうか?」
するとタリス子爵は即答した。
「使えぬ者は捨てるしかあるまい」
「処罰についてはヨシュア殿に任せる」
夫人も当然のように頷いた。
「それで追放した二人はどうなった?」
ヨシュアは表情一つ変えず答える。
「抵抗したため斬り捨てました」
「死体は山中に埋めております」
もちろん嘘だった。
だが、子爵夫妻は疑いもしない。
「そうか」
「これで異世界人は六名になったか」
タリス子爵は満足そうに頷く。
「どうだ? 順調に育っているのか?」
その質問を聞いた瞬間、ヨシュアは突然跪いた。
「申し訳ございません!」
頭を深く下げる。
予想外の行動に、子爵夫妻は目を丸くした。
「どうした?」
ヨシュアは震える声を作った。
「追放任務の最中、トーマスの失態によって斥候からも抵抗を受けました」
「任務遂行を優先した結果、斥候も斬り捨てるしかなく……」
「異世界人を一人多く失ってしまいました」
「すべては私の不覚」
「どのような罰でも受ける覚悟です」
そう言いながら涙まで浮かべる。
もちろんこれも演技だった。
しかし、タリス子爵はすっかり騙された。
「よせよせ」
「異世界人を連れてくる任務だけでも大変だったろう」
「その上で裏任務まで遂行したのだ」
「気苦労も多かったはずだ」
そう言ってヨシュアを立たせる。
「辺境伯様には私から穏便に伝えておこう」
「忠義のヨシュア殿に罰など与えられるものか」
ヨシュアは感激したように頭を下げた。
「ありがたき幸せ」
こうして報告会は終わった。
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深夜。
ヨシュアはトーマスの部屋を訪れた。
眠れずにいたトーマスは、ヨシュアの姿を見るなり笑った。
その笑顔は壊れていた。
目は虚ろで、口元だけが不自然に吊り上がっている。
「あいつらを……」
トーマスが笑う。
「あいつらを殺してください」
「そうすれば……そうすれば……」
その瞬間だった。
ヨシュアの剣が閃く。
一太刀。
それだけだった。
トーマスは何が起きたか理解する間もなく崩れ落ちる。
やがて動かなくなった。
ヨシュアはその亡骸を見下ろした。
「悪く思うなよ」
小さく呟く。
それだけ言うと、振り返ることなく部屋を後にした。
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翌朝。
ヨシュアは神代たちの前に立っていた。
「すまなかった」
開口一番、頭を下げる。
神代たちは警戒しながら彼を見ていた。
「昨夜、トーマスを尋問した」
「そこで、あの少女に嫌がらせをしていたことが判明した」
「さらに余罪も見つかった」
「よって私の判断で処刑した」
静まり返る食堂。
ヨシュアは続ける。
「あのような男を旅に同行させたのは、こちらの落ち度だ」
「謝罪だけで済む話ではない」
「だが、今回はこれで手打ちとしてもらえないだろうか」
神代は少し考えた後、口を開く。
「あの三人はどうするんですか?」
ヨシュアは即答した。
「もう我々と旅をする気はないだろう」
「残念だが、こちらから探すようなことはしないと誓おう」
そして真剣な顔になる。
「もちろん、もし彼女たちが困り果てて我々を頼ることがあれば」
「その時は、このヨシュアが命を懸けて彼女たちを守る」
「それも合わせて誓おう」
神代たちは顔を見合わせた。
あまりにも話が出来すぎている。
昨日まで茉奈に執着していたトーマスが、一晩で処刑された。
しかも、ヨシュアは自ら頭を下げている。
勇樹は違和感を覚えた。
(何か隠しているな)
(でも、それが何かまでは分からねぇ)
佐伯たちが無事に逃げたことは間違いない。
ならば今は下手に刺激しない方がいい。
勇樹はそう判断する。
「分かりました」
「今回の件は、それで納得します」
そう答えると、ヨシュアは静かに頷いた。
だが勇樹は気付いていた。
ヨシュアの目が、一度も笑っていないことに。
互いに本心を隠したまま。
その場だけの平穏が成立していた。
ヨシュアが去った後。
漣が小さく舌打ちした。
「絶対なんか隠してるだろ」
真紀も腕を組む。
「隠してるわね」
「トーマスを切ったのも本当か怪しいわ」
太陽が苦笑する。
「でも証拠がない」
若葉が静かに呟いた。
「佐伯さんたちが無事なら、それで良いと思います」
勇樹は頷く。
「ああ」
「ただ、ヨシュアだけは信用するな」
「あいつはトーマスより危ねぇ」
五人は無言で頷き合った。




