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63 (閑話)ヨシュアの処断

トーマスが異世界人どもに壊された。


まさしく人を壊すためのやり方だった。


あいつらは、いつの間にあそこまで強くなったんだ?


とても普通の成長速度では説明がつかない。


そもそも巫女が攻撃魔法を使えるのはなぜだ?


先日の魔物討伐でも、若葉とかいう娘が攻撃魔法を放っていた。


巫女ではなかったのか?


それに佐伯とかいう中年男。


本当に非戦闘職の商人なのか?


剣聖、拳聖、槍聖と肩を並べて前衛で戦っていたではないか。


……まあ、あの男と小娘がいなくなったのは都合がいい。


辺境伯様からも追い出せと言われていた連中だ。


斥候までいなくなったのは痛手だがな。


報告内容には少し手を加える必要がある。


そうしなければ、今度は私の立場が危うくなる。


☆★☆★☆★☆★☆


その夜。


ヨシュアのもとへタリス子爵夫妻が訪れた。


「ヨシュア殿、その後の報告を聞きに来た」


「辺境伯様が、なかなか成果が出ないことに苛立っておられてな」


タリス子爵がそう言うと、ヨシュアは恭しく頭を下げた。


「お喜びください」


「商人と運搬屋、二名の追放が叶いました」


「ただ、その任務の最中にトーマスが深手を負いまして」


その報告に、子爵夫妻は顔を見合わせた。


「ほう、深手とな」


「だから今日はあのクズがおらんのか」


タリス子爵は鼻で笑う。


夫人も嫌そうな顔をした。


「正直、顔も見たくない相手でしたわ」


「いないならその方が気楽ですもの」


二人とも、トーマスの身を案じる様子など微塵もない。


ヨシュアは内心で冷笑した。


そして、あえて重々しく口を開く。


「任務とはいえ、非戦闘職相手に深手を負うなど騎士の恥」


「相応の処罰を与えようと思いますが、いかがでしょうか?」


するとタリス子爵は即答した。


「使えぬ者は捨てるしかあるまい」


「処罰についてはヨシュア殿に任せる」


夫人も当然のように頷いた。


「それで追放した二人はどうなった?」


ヨシュアは表情一つ変えず答える。


「抵抗したため斬り捨てました」


「死体は山中に埋めております」


もちろん嘘だった。


だが、子爵夫妻は疑いもしない。


「そうか」


「これで異世界人は六名になったか」


タリス子爵は満足そうに頷く。


「どうだ? 順調に育っているのか?」


その質問を聞いた瞬間、ヨシュアは突然跪いた。


「申し訳ございません!」


頭を深く下げる。


予想外の行動に、子爵夫妻は目を丸くした。


「どうした?」


ヨシュアは震える声を作った。


「追放任務の最中、トーマスの失態によって斥候からも抵抗を受けました」


「任務遂行を優先した結果、斥候も斬り捨てるしかなく……」


「異世界人を一人多く失ってしまいました」


「すべては私の不覚」


「どのような罰でも受ける覚悟です」


そう言いながら涙まで浮かべる。


もちろんこれも演技だった。


しかし、タリス子爵はすっかり騙された。


「よせよせ」


「異世界人を連れてくる任務だけでも大変だったろう」


「その上で裏任務まで遂行したのだ」


「気苦労も多かったはずだ」


そう言ってヨシュアを立たせる。


「辺境伯様には私から穏便に伝えておこう」


「忠義のヨシュア殿に罰など与えられるものか」


ヨシュアは感激したように頭を下げた。


「ありがたき幸せ」


こうして報告会は終わった。


☆★☆★☆★☆★☆


深夜。


ヨシュアはトーマスの部屋を訪れた。


眠れずにいたトーマスは、ヨシュアの姿を見るなり笑った。


その笑顔は壊れていた。


目は虚ろで、口元だけが不自然に吊り上がっている。


「あいつらを……」


トーマスが笑う。


「あいつらを殺してください」


「そうすれば……そうすれば……」


その瞬間だった。


ヨシュアの剣が閃く。


一太刀。


それだけだった。


トーマスは何が起きたか理解する間もなく崩れ落ちる。


やがて動かなくなった。


ヨシュアはその亡骸を見下ろした。


「悪く思うなよ」


小さく呟く。


それだけ言うと、振り返ることなく部屋を後にした。


☆★☆★☆★☆★☆


翌朝。


ヨシュアは神代たちの前に立っていた。


「すまなかった」


開口一番、頭を下げる。


神代たちは警戒しながら彼を見ていた。


「昨夜、トーマスを尋問した」


「そこで、あの少女に嫌がらせをしていたことが判明した」


「さらに余罪も見つかった」


「よって私の判断で処刑した」


静まり返る食堂。


ヨシュアは続ける。


「あのような男を旅に同行させたのは、こちらの落ち度だ」


「謝罪だけで済む話ではない」


「だが、今回はこれで手打ちとしてもらえないだろうか」


神代は少し考えた後、口を開く。


「あの三人はどうするんですか?」


ヨシュアは即答した。


「もう我々と旅をする気はないだろう」


「残念だが、こちらから探すようなことはしないと誓おう」


そして真剣な顔になる。


「もちろん、もし彼女たちが困り果てて我々を頼ることがあれば」


「その時は、このヨシュアが命を懸けて彼女たちを守る」


「それも合わせて誓おう」


神代たちは顔を見合わせた。


あまりにも話が出来すぎている。


昨日まで茉奈に執着していたトーマスが、一晩で処刑された。


しかも、ヨシュアは自ら頭を下げている。


勇樹は違和感を覚えた。


(何か隠しているな)


(でも、それが何かまでは分からねぇ)


佐伯たちが無事に逃げたことは間違いない。


ならば今は下手に刺激しない方がいい。


勇樹はそう判断する。


「分かりました」


「今回の件は、それで納得します」


そう答えると、ヨシュアは静かに頷いた。


だが勇樹は気付いていた。


ヨシュアの目が、一度も笑っていないことに。


互いに本心を隠したまま。


その場だけの平穏が成立していた。


ヨシュアが去った後。


漣が小さく舌打ちした。


「絶対なんか隠してるだろ」


真紀も腕を組む。


「隠してるわね」


「トーマスを切ったのも本当か怪しいわ」


太陽が苦笑する。


「でも証拠がない」


若葉が静かに呟いた。


「佐伯さんたちが無事なら、それで良いと思います」


勇樹は頷く。


「ああ」


「ただ、ヨシュアだけは信用するな」


「あいつはトーマスより危ねぇ」


五人は無言で頷き合った。


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