62 (閑話)神代たちの時間稼ぎ
時は少し遡る。
佐伯一樹、鈴木雪乃、御厨茉奈の三人がセル村から≪テレポート≫で姿を消した翌朝。
神代勇樹が食堂へ向かうと、高校生たちは一か所に固まって席についていた。
その近くには、あの不快な男――トーマスとヨシュアの姿もある。
どうやら朝から慌ただしいらしい。
勇樹は仲間たちのもとへ歩み寄った。
「バレたみたいだな」
小声でそう言うと、漣と太陽が肩を竦める。
「ああ。どうやらな」
「朝から大騒ぎだよ」
勇樹は小さく頷いた。
「じゃあ、予定どおり動くか」
四人が静かに頷く。
勇樹はヨシュアへ向き直った。
「何かあったんすか?」
わざと聞こえるように尋ねる。
するとヨシュアは苦々しい表情を浮かべた。
「あなた方のお仲間の三人が行方不明とのことです」
その言葉を聞いた瞬間、勇樹たちは顔を見合わせた。
そして――。
「あー、トーマスさんが茉奈ちゃんにちょっかい出してましたからね」
「相当怖がってたしな」
「あんな小さい子に手を出そうとしたんだろ?」
「どうしようもないクズだな」
「そりゃ逃げるわ」
遠慮なく煽り始める。
するとトーマスが顔を真っ赤にした。
「うるさい!」
「お前らは俺たちの指示に従っていればいいんだ!」
「行き場のないお前らを面倒見てやってるのは俺たちなんだぞ!」
食堂中に響く怒鳴り声。
勇樹は内心ほくそ笑んだ。
(お、乗ってきた)
だが表情は冷たいままだ。
「勝手にこっちの世界へ呼んでおいて、その言い草か」
「この変態野郎」
その一言でトーマスの理性が吹き飛んだ。
武器を抜き、叫びながら突進してくる。
だが――。
漣が一瞬で前へ出た。
目にも止まらぬ速さで拳が走る。
数発の打撃が顔面へ叩き込まれ、トーマスは吹き飛んだ。
そこへ真紀の火球。
さらに太陽の槍が足元を貫く。
悲鳴が響く。
直後、若葉が聖魔法を発動した。
傷が消える。
意味が分からないという顔をしたトーマスへ、漣が再び拳を振り下ろす。
真紀の火球。
太陽の槍。
若葉の回復。
その光景を見て、食堂は静まり返った。
ヨシュアも騎士たちも誰一人動けない。
やがて勇樹はヨシュアの前へ歩み出た。
「さっきトーマスさんが言ったこと」
「それって、あんたたちの総意なのか?」
睨みつけながら尋ねる。
ヨシュアは慌てて首を横に振った。
勇樹は続ける。
「俺たちは元の世界に帰りたい」
「だから基本的には協力するさ」
「でもな」
「舐めた態度を取るなら、それなりの覚悟で来い」
「俺たち、手加減ってあんまり知らないからさ」
ヨシュアは何度も頷いた。
勇樹は仲間たちへ視線を向ける。
「あとワンセットで終わらせてやってくれ」
「了解」
「分かった」
「もう終わり?」
「いい練習になったのに」
それぞれ好き勝手な返事が返ってくる。
そして最後の一回が終わった。
トーマスは床に転がっていた。
失禁している。
怪我は回復している。
だが、勇樹たちを見る目には明らかな恐怖が浮かんでいた。
勇樹はヨシュアを見る。
「まぁ、仕方ないよな」
「俺たちも腹に据えかねてるものがあるんだ」
「そこは理解してくれよ」
ヨシュアは無言で頷いた。
勇樹は周囲の騎士たちへ視線を向ける。
「あのゴミ、片付けてくれるか?」
騎士たちは慌ててトーマスを担ぎ上げ、そのまま食堂を後にした。
静かになった食堂で、勇樹はふと天井を見上げる。
――佐伯さん。
――雪乃さん。
時間稼ぎにはなりそうだよ。
そして心の中で、もう一人へ語りかけた。
――茉奈ちゃん。
――敵は取ったよ。




