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60 市場調査

「それにしても、そんな悪政を敷いている辺境伯が、よく自治区なんて認めましたね」


俺がそう尋ねると、今度はカミルが笑いながら答えた。


「そりゃそうさ。町長は辺境伯の腹違いの兄、ニストン・ギルモア様だからな」


そう言って、自分の頭を指差す。


「元々、出来が違うんだよ」


「領民からの支持はニストン様の方が圧倒的だったんだけどな。辺境伯家を継いだのは直系だった今の辺境伯だ」


「辺境伯からすれば、邪魔だったんだろうよ。ニストン様を追い出したかったんだ」


ユリウスも苦笑しながら続ける。


「結果として自治区を作らせたわけだが、人も物も今じゃ自治区の方に集まってる」


「辺境伯からすりゃ、追い出したはいいが頭痛の種が増えただけってことだな」


二人は声を上げて笑った。


俺はなるほどと頷く。


確かに、あの辺境伯と会った時の第一印象は良くなかった。


人を見下しているような態度だったし、独善的な印象も受けた。


少なくとも、今聞いた話はその印象と矛盾しない。


富国強兵政策を止めたのも、おそらく異世界人召喚へ方針を切り替えたからだろう。


どんな手段を使ったのかは知らないが、異世界から強力な戦力を呼び出せるなら、徴兵より効率的だと考えたのかもしれない。


だが、そのために巻き込まれた人々の気持ちまで考えているようには思えなかった。


少なくとも今の俺には、そう感じられた。


俺たちはユリウスとカミルに礼を言い、また会うことを約束してギルドを後にした。


市場へ向かう途中、雪乃さんが口を開く。


「それにしても、衝撃的な話でしたね」


「辺境伯は思っていた以上に問題のある人物なのかもしれません」


俺と茉奈ちゃんは揃って頷いた。


「神代君たちが心配だな」


そう呟くと、空気が少し重くなる。


すると茉奈ちゃんが明るく言った。


「神代のお兄ちゃんたちは強いですから」


「きっと自分たちで何とかしますよ」


「私とは違います」


少しだけ自虐が混じっていた。


俺は苦笑しながら言う。


「いやいや、茉奈ちゃんも十分すごいよ」


「今日だって、茉奈ちゃんの弓に何度助けられたと思ってるんだ」


すると茉奈ちゃんは頬を膨らませた。


「茉奈ちゃんじゃありません」


「マナです!」


「あ、そうだった」


「ごめん、マナ」


そう言うと、マナは満足そうに笑った。


「えへへ」


そんなやり取りをしているうちに市場へ到着する。


雪乃さんが尋ねてきた。


「佐伯さんは何を仕入れるつもりなんですか?」


「油とコショウ、それに樽かな」


するとマナが不思議そうな顔をする。


「樽?」


「ヤマブドウでワイン作りに挑戦してみようと思ってね」


そう答えると、雪乃さんの目が輝いた。


「私もやってみたいです」


「じゃあ、一緒に挑戦しよう」


笑いながらそう言うと、


「はい」


雪乃さんは短く答え、なぜか少し顔を赤くして視線を逸らした。


……何か変なことを言っただろうか。


その時、マナが周囲を見回しながら言う。


「そもそも、この市場には何が売ってるんでしょうね?」


「それも含めて市場調査だな」


俺たちは市場を見て回ることにした。


市場には肉、野菜、果物、雑貨など様々な品が並んでいた。


ただ、魚だけは見当たらない。


店の人に聞いてみると、


「海が遠いからな」


「入荷する日もあれば、しない日もある」


とのことだった。


今日は入荷していないらしい。


少し残念だ。


パン屋も見つけたので覗いてみる。


並んでいるのは、俺たちがいつも食べているあの固いパンばかりだった。


「他のパンはないんですか?」


そう聞くと、店主は怪訝そうな顔をした。


「パンはパンだろ?」


「他のパンがあるなら、むしろ見てみたいもんだ」


どうやら本当に存在しないらしい。


(パン作りが成功したら商売になるかもしれないな)


そんなことを考えながら歩いていると、大きな雑貨屋を見つけた。


中へ入ると調味料や日用品まで幅広く扱っている。


俺は小麦粉とバターを選び、購入を申し出た。


ついでに店員へ尋ねる。


「砂糖とコショウ、それから食用油と樽も欲しいんですが」


すると店員は首を振った。


「砂糖とコショウはないね」


「というか、この町じゃ手に入らないよ」


「上級貴族か王族くらいしか持ってない」


予想外だった。


だが油はあるらしい。


見せてもらうと品質は今ひとつに見えたが、これでも良い品とのことだった。


俺は油を大量に購入し、さらに樽を二つ買う。


合計で金貨一枚。


想像以上の出費だが、必要経費だ。


(もしかして冒険者って結構稼げるのか?)


そんなことを考えていると、店員が笑った。


「兄ちゃんたち、冒険者だろ?」


「冒険者は景気が良くて羨ましいよ」


俺は苦笑いで返した。


買い物を終えた俺たちは市場を離れる。


雪乃の≪気配察知≫で周囲を確認し、人目のない場所へ移動する。


そしてマナが≪テレポート≫を発動した。


視界が揺らぎ――。


次の瞬間には、俺たちの拠点である廃村へ戻っていた。


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