58 帰る場所
その後、俺たちは魔物狩りと素材採取を続けた。
角うさぎ、ワーラット、グレートボアなどを十数匹討伐し、途中ではワイルドシープという魔物にも遭遇した。
もちろん、それも瞬殺だったが。
「ワイルドシープって、銀級冒険者向けの討伐依頼が出ていたよな」
俺がそう言うと、雪乃さんが頷く。
「しかも、私たちは苦戦どころか瞬殺でした」
「そう考えると、銀級以上の実力はあるのかもしれませんね」
茉奈ちゃんも大きく頷いた。
「いやいや、さすがにそれは言い過ぎだろ」
俺は苦笑しながら答え、ワイルドシープの死体に聖水を振りかける。
黒い靄が霧散したのを確認し、≪分解≫を発動した。
すると、肉と綿が素材として残る。
≪分析≫によれば、この綿は上質な繊維素材として重宝されるらしい。
三人で次の行動を相談しながら、ゼストの冒険者ギルドへ戻ることにした。
「ゼストに泊まる予定でしたけど、私の≪テレポート≫で村に帰って、明日また来れば良くないですか?」
茉奈ちゃんの提案に、俺は思わず足を止めた。
確かにその通りだ。
すると雪乃さんが小さく笑う。
「私もそう思っていたんですけどね」
「佐伯さんは街に泊まる気満々だったので、何か理由があるのかと思っていました」
そう言ってこちらを見る。
俺は慌てて首を振った。
「いやいや、そんな理由じゃない」
「単純にテレポートのことを考えてなかっただけだよ」
「そうですか」
雪乃さんはそう言うと、どこか安心したように微笑んだ。
その横で、茉奈ちゃんがニヤニヤしている。
「佐伯さんも大変ですね」
「何がだよ」
俺が聞き返しても、茉奈ちゃんは笑うだけだった。
さらに雪乃さんは頬を少し赤くしながら茉奈ちゃんを睨んでいる。
何だかよく分からないが、二人とも楽しそうだ。
俺は妙な空気を振り払うように頭を振った。
「よし。今日の収穫をギルドで売却して、それから市場で買い物だ」
「その後、テレポートで村へ帰ろう」
二人は嬉しそうに頷く。
帰る場所がある。
それは思っていた以上に心地の良いことだった。
☆★☆★☆★☆★☆★
冒険者ギルドの素材買い取りカウンターへ向かう。
今日の収穫をヨーゼフさんへ渡した。
問題はフロッガーの皮だ。
あのぬるぬるした皮が、本当に売れるのか自信がない。
「こんなのも買い取ってもらえるんですか?」
恐る恐る聞くと、ヨーゼフさんが目を剥いた。
「馬鹿野郎!」
「こいつは高級品だぞ!」
「高値で買い取るに決まってるだろうが!」
思わぬ反応に俺たちは顔を見合わせる。
聞けば、防水性に優れているため、建築資材や野営道具、衣服など幅広く使われているらしい。
思っていた以上に有用な素材だったようだ。
査定には少し時間がかかるとのことで、俺たちは待つことになった。
ふとギルドカウンターを見ると、エリーナさんの姿があった。
俺たちは近づき、声をかける。
「紹介していただいた武具屋、とても良い店でした」
「おかげで武器と防具を新調できました」
そう言って新しい装備を見せる。
エリーナさんは嬉しそうに笑った。
「それは良かったです」
「少しはサービスしてくれましたか?」
「少しどころじゃありませんでした」
「ご実家だったんですね」
そう言うと、エリーナさんは苦笑する。
「ああ、やっぱり分かりましたか」
「実はギルドでは、なるべく実家を紹介しないようにしているんです」
「身内びいきだと言われることもありますから」
「でも皆さんなら大丈夫だと思いましたので」
柔らかな笑顔だった。
俺は少しだけ視線の置き場に困ってしまう。
女性慣れしていないのが、こういう時に出てしまう。
情けない話だ。
すると隣から妙な視線を感じた。
振り向くと、雪乃さんがじっとこちらを見ている。
……何だろう。
俺、何かしただろうか。
そんなことを考えているうちに、ヨーゼフさんの豪快な声がギルド内に響いた。
「おーい! 査定が終わったぞ!」
俺たちは慌てて買い取りカウンターへ向かうのだった。




