56 ジャック武具店
武具屋へ入ると、店番をしていた気の良さそうな女性がこちらを見た。
俺は軽く頭を下げる。
「武器と防具の購入を考えているのですが。それと、今身につけている装備の下取りもお願いしたくて」
すると女性は俺たちの装備を見るなり眉をひそめた。
「あんたら、辺境伯の手の人間じゃないだろうね?」
「辺境伯の手先なら、この辺の人間は取引しないよ」
どうやら冒険者ギルドで言われた通りらしい。
俺は慌てて首を横に振った。
「違います。この装備は偶然手に入れた物なんです」
「辺境伯とは何の関係もありません」
「むしろ私たちも迷惑しているくらいでして」
女性は訝しげな目を向ける。
「本当かい?」
するとマナが一歩前へ出た。
「本当です!」
「私たち、本当に困ってるんです!」
女性はマナを見てしばらく黙ったあと、大きくため息を吐いた。
「こんな可愛い子に妙な物を着せるんじゃないよ」
「あんたも父親なら、もう少ししっかりしな!」
思わぬ説教に俺は苦笑するしかない。
女性は奥へ向かって大声を張り上げた。
「あんた! 客だよ!」
すると奥から髭を生やした体格の良い男が現れた。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
「俺は忙しいんだ。お前が相手すればいいじゃないか」
不機嫌そうに言う男に、女性は即座に言い返す。
「売れもしない武器を作ってるのが仕事っていうのかい?」
「仕事ってのは金を稼ぐことだよ」
「金を稼がない武器作りは遊びって言うんだよ」
男は「ぐぬぬ……」と唸った。
どうやら夫婦らしい。
俺は慌てて口を挟む。
「すみません、お忙しいところ」
「装備の買い替えをお願いしたくて」
すると男は苦笑した。
「気にするな」
「こいつの口が悪いのは今に始まったことじゃねぇ」
「で、武器は何だ?」
俺は自分たちの武器を説明した。
「俺が棍棒」
「妻が小剣」
「娘が弓です」
「防具は軽めの胸当てとブーツを探しています」
「予算はあまり多くありません」
すると男の目が急に輝いた。
「棍棒だって!?」
「ちょっと待ってろ!」
男は奥へ駆け込んでいく。
女性は天を仰いでいた。
やがて男は大きな武器を抱えて戻ってきた。
見た目は棍棒というより、大型のハンマーに近い。
「試してみろ」
俺は受け取り、軽く振る。
その瞬間、違和感がなかった。
むしろ今まで使っていた棍棒よりしっくりくる。
「これ、いいですね」
そう言うと男は満面の笑みを浮かべた。
「だろう!」
「今までの棍棒は木を太くしただけだった」
「だがこいつは鉄を芯に使って重量を増やしてる」
「その分、破壊力も段違いだ」
興奮気味に語る男に、女性が呆れ顔を向ける。
「だから誰も使えないって言ってるだろうに」
「そんな重たい武器」
「この人は気に入ってくれたじゃねぇか!」
男は俺を見た。
「なあ、頼む」
「その棍棒、使ってくれねぇか?」
「もちろん金は取らん」
俺は目を瞬かせた。
「え?」
男は続ける。
「試作品なんだ」
「使い心地を教えてくれ」
「もし良かったら他の冒険者にも薦めてほしい」
なるほど。
試作品の評価が欲しいのか。
それなら納得できる。
「分かりました」
「喜んで使わせてもらいます」
男は嬉しそうに笑った。
その後、雪乃とマナの武器も見てもらう。
「新品は高いぞ」
「だが倉庫に試作品や売れ残りならある」
そう言って持ってきた小剣と弓は十分実用的だった。
雪乃もマナも気に入ったらしい。
値段を聞くと、
「合わせて銀貨五枚でいい」
と男は言った。
「倉庫の肥やしになるより使ってもらった方がいい」
ありがたい話だった。
続いて胸当てとブーツを選ぶ。
こちらは新品らしく、しっかり代金がかかる。
最終的に、
・棍棒……試作品のため無償提供
・小剣と弓……銀貨五枚
・胸当て三つ
・ブーツ三足
で、合計銀貨十五枚となった。
俺は思わず聞き返す。
「本当にこの値段でいいんですか?」
すると女性が笑った。
「あんたら、エリーナの紹介なんだろ?」
「あの子はうちの自慢の娘だからね」
「それに亭主の試作品まで引き受けてくれるんだ」
「これでも十分儲けは出てるよ」
男も頷く。
「むしろ感謝してるくらいだ」
「棍棒の感想だけは忘れるなよ?」
「もちろんです」
俺が答えると、男は満足そうに笑った。
そこで改めて自己紹介をする。
男の名はジャック・ニコラウス。
女性はエリス・ニコラウス。
店の名前は――ジャック武具店。
俺たちも名乗り、辺境伯の装備は下取りではなく処分という形で引き取ってもらうことになった。
店を出たあと、俺は新しい棍棒を肩に担ぐ。
武器と防具の新調が銀貨十五枚で済むとは思わなかった。
エリーナさんにも感謝しなければならない。
今度会ったら、きちんと礼を言おう。
そう思いながら、俺たちは次の目的地へ向かうのだった。




