55 冒険者ギルドでの素材売却
「家族で冒険者とは珍しいな」
ヨーゼフと呼ばれた老人が、ニヤリと笑いながら言った。
「そのうえ、三人揃って良い目つきをしてやがる」
見た目は完全に老人だが、その身体は現役の戦士のように逞しい。
俺は曖昧に笑いながら答えた。
「旅をしている最中なので、冒険者になっておけば何かと都合が良いと言われまして」
「そうかい。旅をするなら冒険者が一番だな」
ヨーゼフさんは豪快に笑ったあと、急に真剣な表情になる。
「で、買い取る品物は何だい?」
俺はマナに合図を送る。
マナはリュック――実際は≪次元収納≫だが――から薬草を百本、角うさぎの角、ワーラットの素材、グレートボアの毛皮などを次々と取り出し、カウンターへ並べていった。
その量を見たヨーゼフさんは目を丸くした。
「……これ全部か?」
「できれば、お願いします」
そう答えると、ヨーゼフさんは苦笑した。
「査定に少し時間がかかるぞ。ちょっと待ってな」
そう言って素材を奥へ運んでいく。
すると、先ほど受付から案内してくれた女性が話しかけてきた。
「グレートボアの毛皮がありましたけど……もしかして討伐されたんですか?」
「はい。私たち三人で」
何気なく答えると、彼女は驚いた表情を見せた。
「三人で、ですか……」
何やら小声で、
「鉄級なのに……」
「銀級相当じゃ……」
などと呟いている。
俺にはよく分からなかったので軽く会釈し、その場を離れた。
査定を待つ間、俺たちは依頼掲示板を見に行く。
鉄級向けは薬草採取や角うさぎ討伐。
銅級になるとワーラットやゴブリン討伐。
銀級ではグレートボアやワイルドシープ討伐が並んでいた。
グレートボアはすでに俺たちの敵ではない。
実力だけなら銀級相当なのかもしれない。
だが、冒険者としては新人だ。
勝手も分からない以上、鉄級から始めるのが無難だろう。
そんなことを考えていると、周囲から妙な視線を感じた。
隣を見ると、マナが少し怯えた表情を浮かべている。
雪乃も警戒するように周囲を見渡していた。
俺は二人の前に立ち、視線の主たちを見回す。
すると、赤い短髪の男がこちらへ歩いてきた。
俺は短く尋ねる。
「何か用ですか?」
男は肩をすくめた。
「いや、用ってほどじゃねぇんだが……」
そして俺たちの装備を指差す。
「お前ら、辺境伯の配下か?」
「いや。辺境伯とは関係ない」
そう答えると、男は小さく頷いた。
「なら、その装備で街を歩くのはやめとけ」
「装備に刻まれてる紋章があるだろ?」
言われて改めて確認する。
盾と鷲を組み合わせた紋章だ。
「それ、ギルモア辺境伯家の家紋なんだわ」
俺たちは顔を見合わせた。
知らなかった。
正直、格好いいマークだなと思っていただけだ。
男は続ける。
「この辺じゃ辺境伯に恨みを持ってる奴も多い」
「そんな装備して歩いてたら、余計なトラブルに巻き込まれるぞ」
なるほど。
周囲の視線の理由がようやく分かった。
俺は深く頭を下げる。
「ご忠告、感謝する」
「気にすんな」
男は片手を上げ、そのまま去っていった。
装備は買い替えた方が良さそうだ。
思わぬ出費である。
それにしても――。
領民からここまで恨まれる辺境伯とは、一体何をしたんだ?
そんなことを考えていると、奥から声が飛んできた。
「査定終わったぞ!」
ヨーゼフさんだ。
俺たちは急いでカウンターへ戻る。
結果は金貨一枚。
中でもグレートボアの毛皮が高値で売れたらしい。
思っていた以上の収入だ。
今後はグレートボア狩りも有力な選択肢になるかもしれない。
肉も美味かったし、一石二鳥だ。
などと考えているとヨーゼフに
「鉄級が一日で金貨一枚か」
ヨーゼフさんは呆れたように笑う。
「家族三人なら一か月は食っていける額だぞ」
と豪快に笑われる
俺は、照れ笑いを浮かべつつ、査定を終えたあと、俺は受付の女性に尋ねた。
「武具屋を探しているんですが」
「ああ、それでしたら――」
女性はにこやかに道を教えてくれる。
「ここを出て左へ少し進んだところです」
「私、エリーナと言いますので、名前を出していただければ少しくらいはサービスしてくれると思いますよ」
「それは助かります」
礼を言うと、エリーナさんは嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは冒険者ギルドを後にし、武具屋へ向かうのだった。




