53 ゼストへの道中
今、私たち三人は、いつものように素材を集めながらゼストの街へ向かっている。
私は素材回収担当だ。
この世界へ連れてこられたばかりの頃の私は、何もできなかった。
そんな私に役割をくれたのが佐伯さんだった。
私の能力がどれだけ役に立つのか、佐伯さんは何度も言葉にしてくれる。
雪乃さんも、とても優しい。
私が不安になった時、いつも優しい言葉をかけてくれて、隣にいてくれる。
だから私は、この二人についてきて本当に良かったと思っている。
最初は怖そうに見えた佐伯さん。
最初は少し冷たく見えた雪乃さん。
でも実際は違った。
二人が私を気にかけてくれたからこそ、私は「この世界でも生きていこう」と思えるようになった。
戦闘だってそうだ。
二人がいなければ、私は何もできないままだったと思う。
今の私の役割は後衛。
先制攻撃と援護射撃を任されている。
それも二人が与えてくれた役目だ。
佐伯さんと雪乃さんは強い。
二人だけでも大抵の魔物は倒せてしまう。
それでも私に役割をくれる。
だから私は、自分もこの二人と一緒にいていいんだと思える。
そんなことを考えながら歩いていると、昨日の夜の出来事を思い出した。
夕食の後、雪乃さんからこっそり相談を受けたのだ。
「家族設定、本当にあれでいいのかな?」
私は意味が分からず首を傾げた。
すると雪乃さんは少し困ったように笑う。
「茉奈ちゃんには本当のお父さんとお母さんがいるでしょう?」
「なのに私たちのことを、お父さん、お母さんって呼ばせていいのかなって思って」
「それに、私は茉奈ちゃんのことを茉奈って呼び捨てにしないといけないし」
「嫌じゃないかな?」
そう言われて、私は改めて思った。
本当に雪乃さんは優しい。
そんなことまで気にしてくれていたんだ。
だから私は首を横に振った。
「全然嫌じゃないです」
そう答えてから、少し照れくさくなったけれど続ける。
「私、佐伯さんのことをお父さんみたいに思っていますし」
「雪乃さんのことも、お母さんみたいに思っています」
言い終わると、雪乃さんは何も言わず私をぎゅっと抱きしめてくれた。
その温もりがとても心地良かった。
雪乃さんに抱きしめられると、なぜだか安心する。
そして、その時ふと思い出した。
夕食の時の雪乃さんの反応を。
私は少し気になって聞いてみた。
「雪乃さんって、佐伯さんのこと好きなんですか?」
すると雪乃さんは顔を真っ赤にした。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「む、む、昔から知ってるだけで!」
「す、好きとか、そういうんじゃないから!」
見事なまでに噛みながら否定する。
その様子が可愛くて、私はつい笑ってしまった。
そして少しいたずらしたくなる。
「そうなんですね」
「安心しました。ライバルになるかと思っちゃいました」
そう言った瞬間――
雪乃さんが固まった。
「え?」
「い、今なんて言ったの?」
「冗談よね?」
「う、嘘でしょう?」
大慌てである。
私は思わず吹き出しそうになりながら答えた。
「冗談です」
「だって佐伯さんはお父さんですから」
すると雪乃さんは頬を膨らませた。
「大人をからかうものじゃありません」
その姿がなんだか可愛らしい。
雪乃さんは本当に可愛い人だと思う。
なのに、その可愛さを佐伯さんの前では全然見せない。
いつも格好つけている。
でも佐伯さんは、どう見ても鈍感だ。
雪乃さんの方から行かないと、たぶん気付かない。
そんなこと、私にだって分かる。
それなのに雪乃さんは、佐伯さんに「できる女」だと思われたいみたいだ。
これはもう、私が仲を取り持つしかないのかもしれない。
私の裏ミッションだな。
そんなことを考えながら歩いていると、前方に大きな門が見えてきた。
石壁に囲まれた立派な街。
人の出入りも多い。
私は思わず足を止める。
「あれが……ゼスト」
新しい出会いと、新しい生活の始まり。
そんな予感を胸に抱きながら、私は二人の後を追って歩き出した。




