51 肉の味
食材や薬草を集めながら、三人で賑やかに村へ戻っていた。
すると突然、雪乃さんが足を止めた。
「大勢の敵が来ます!」
緊張した声に、俺たちは反射的に周囲へ視線を向ける。
雪乃さんが見据える先を見ると、ワーラットの群れがこちらへ向かって走ってきていた。
数は二十体ほど。
俺はすぐに声を張る。
「迎え撃つぞ!」
「はい!」
「了解です!」
返事と同時に、茉奈ちゃんが弓を引き絞る。
「≪アローレイン≫!」
放たれた矢は空中で幾筋にも分かれ、雨のように降り注いだ。
先頭を走っていたワーラットたちが次々と倒れる。
しかし全ては仕留めきれず、生き残った群れが左右に分かれて突撃してきた。
「右は俺がやる!」
俺は棍棒を握り締め、そのまま右側の群れへ飛び込む。
「≪大車輪≫!」
勢いよく振り回した棍棒がワーラットたちを次々となぎ倒した。
一方、左側の群れには雪乃さんが飛び込む。
「≪韋駄天≫!」
姿がぶれたかと思うほどの速度で駆け抜け、小剣が閃くたびにワーラットが倒れていく。
数秒後。
立っているのは俺たち三人だけだった。
「……強くなったな、俺たち」
思わずそう呟く。
雪乃さんと茉奈ちゃんも顔を見合わせ、少し照れたように笑っていた。
戦闘後、俺はワーラットの死体へ聖水を振りかける。
黒い靄のようなものがふわりと浮かび上がり、そのまま消えていった。
続いて≪分解≫を発動する。
すると死体は崩れ、素材だけが残った。
皮と前歯だ。
さすがに肉は取れなかったらしい。
「茉奈ちゃん、回収お願い」
「はい!」
素材は次々と≪次元収納≫へ収められていく。
その後も薬草や果実を採取しながら村へ向かった。
改めて思う。
茉奈ちゃんの≪次元収納≫がなければ、とんでもない荷物になっていただろう。
「茉奈ちゃんのおかげで、本当に助かってるな」
俺がそう言うと、
「そうですね」
雪乃さんも笑顔で頷く。
茉奈ちゃんは少し照れたように笑った。
「えへへ……」
そんな会話をしているうちに、小屋へと戻ってきた。
俺はさっそく角うさぎの肉を切り分け、焼き始める。
香ばしい匂いが広がる。
焼き上がった肉を一切れ口に運ぶ。
噛んだ瞬間、驚いた。
柔らかい。
そして旨い。
「悪くないどころじゃないな」
「今まで食べた肉の中でも、かなり美味しいぞ」
俺は二人にも勧める。
雪乃さんと茉奈ちゃんは恐る恐る口に運んだ。
次の瞬間、二人の目が大きく見開かれる。
「柔らかい!」
「すごく美味しいです!」
予想以上の反応に思わず笑ってしまう。
二人とも明らかにおかわりが欲しそうな顔をしていた。
仕方ない。
俺は追加で肉を焼いてやる。
「これで最後ですよ」
「晩ご飯が入らなくなりますからね」
「はーい!」
「わかってます!」
そう言いながらも、二人は渡された肉をあっという間に平らげてしまった。
その様子を見ていると、不思議な満足感が胸に広がる。
その後、俺は夕食作りに取りかかった。
今日の献立はポトフだ。
収穫したばかりの野菜と肉を鍋に入れ、香草と午前中に作った塩で味を整える。
本来のポトフとは程遠いかもしれない。
だが、今の俺たちにできる最高の料理だった。
出来上がった料理を三人で囲む。
一口食べるたびに感想が飛び交う。
「美味しい!」
「体が温まりますね!」
「野菜も甘い!」
自分たちで集めた食材。
自分たちで作った料理。
だからこそ格別なのだろう。
その笑顔を見ていると、また胸の奥が温かくなった。
考えてみれば、料理は長い独身生活の趣味だった。
誰かに食べてもらうためではなく、自分のためだけに作ってきた。
だからだろうか。
こうして誰かが美味しそうに食べてくれることが、こんなにも嬉しいものだとは知らなかった。
俺は鍋を囲む二人を見ながら、静かに笑みを浮かべた。




