47 食後のひととき
食事を終えた後も、机の上にはパンと燻製肉がそのまま残っていた。
三人でそれを見つめ、思わず笑い合う。
「こっちの世界に来て、初めて美味しいと思える食事だったよ」
俺がそう言うと、雪乃さんが大きく頷いた。
「本当にそうですね」
「毎食、正直うんざりしていましたから」
眉をひそめながら言う雪乃さんに、茉奈ちゃんも何度も頷いている。
俺はそんな二人を見て苦笑した。
「実はさ、俺、独身生活が長くてね」
「料理が趣味なんだ」
その言葉に、二人の目が少し輝く。
「だから強く思ってることがある」
「食事を何とかしたいんだよ」
そう言いながら、俺は手つかずのパンを指差した。
「まずはこのパンだな」
「食べられないわけじゃない。でも、美味しくない」
二人とも真剣な顔で聞いている。
「俺たちの知っているパンを作るには、足りないものがいくつかある」
「でも、その大半は何とかなりそうなんだ」
そう言って説明を始める。
果物から酵母を起こせること。
甘い果実からシロップが作れそうなこと。
そして――
「塩に関しては、実はもう材料を確保してる」
そう言うと二人は首を傾げた。
「前に雪乃さんに集めてもらった、木から染み出していた白い液体があっただろ?」
雪乃さんが思い出したように声を上げる。
「ああ、あれですか」
「なんで集めるんだろうって不思議でした」
「水に溶かして乾燥させれば塩になるんだ」
その言葉に二人は目を丸くした。
俺は残ったパンを手に取る。
「それに、このパンにはわずかだけどバターの香りがする」
「つまり、この世界にもバターはある」
「形から見て小麦もある」
「だったらゼストで材料を集めれば――」
そこで俺は大きく頷いた。
「俺たちの知ってるパンは作れる!」
その瞬間。
二人の顔がぱっと明るくなった。
「パンが食べられる目途がついた!」
「さすが佐伯さん!」
「最高です!」
二人の反応に思わず笑ってしまう。
しばらく盛り上がった後、俺は咳払いをした。
「それで相談なんだけど」
二人がこちらを見る。
「今日の午前中、俺は酵母の仕込みと塩、それからシロップ作りをやろうと思う」
「茉奈ちゃんには手伝ってもらいたい」
「はい!」
茉奈ちゃんは元気よく返事をした。
俺は続ける。
「雪乃さんには周辺の警戒と情報収集をお願いしたい」
すると雪乃さんの表情が少し曇った。
「……はい」
どこか元気がない。
俺は首を傾げた。
「何かやりたいことがありました?」
「それなら、そっちを優先してもらっても構いませんよ」
すると雪乃さんは少し恥ずかしそうに笑った。
「いえ……」
「私もお手伝いしたかったなって」
その言葉に思わず苦笑する。
どうやら仲間外れにされたと思ったらしい。
「違います違います」
「警戒と情報収集は雪乃さんにしかできない大事な仕事です」
「決して仲間外れにしようとか、そういう話じゃありませんから」
慌てて説明すると、
雪乃さんは数秒考えた後、急に胸を張った。
「そういうことでしたら任せてください!」
さっきまでの落ち込みはどこへ行ったのか。
その切り替えの早さに俺は思わず笑ってしまう。
人の気持ちというのは本当に難しい。
そんなことを思いながら、俺たちはそれぞれの役割を確認し、行動を開始することになった。




