46 ≪テレポート≫した先で
これから、佐伯、雪乃、茉奈の新生活が始まります
夜の廃村に、静寂が戻る。
視界が白から黒へと切り替わった。
一瞬、≪テレポート≫の副作用かと思ったが、すぐに違うと分かる。
茉奈ちゃんが生活魔法≪火≫を使い、小さな灯を生み出してくれたからだ。
淡い明かりが周囲を照らし出す。
そこは見覚えのある場所だった。
雪乃さんが周囲を見回しながら言う。
「ここ、召喚された広間ですよね?」
俺は頷いた。
「そのようですね」
すると茉奈ちゃんが顔を輝かせる。
「じゃあ、≪テレポート≫成功ですね!」
その嬉しそうな声に、俺も自然と笑みがこぼれた。
「茉奈ちゃん、ありがとう」
「おかげで安心安全に移動できたよ」
「ここから新しい生活を始めるっていうのも、なかなか趣があるね」
そう言ったものの、すでに日は落ちている。
今から廃村を探索するのは危険すぎる。
三人で相談した結果、今日はこのまま休息を取ることになった。
茉奈ちゃんが宿から持ってきた毛布を取り出し、一人一枚ずつ配ってくれる。
俺たちはそれに包まり、広間の隅で横になった。
静かな時間が流れる。
しばらくして、雪乃さんがぽつりと呟いた。
「そういえば私たちって、なんでこの世界の言葉が分かるんでしょうね?」
「日本語じゃないはずなのに、普通に話せますし、文字も読めます」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開いた。
言われてみればその通りだ。
あまりにも自然すぎて、今まで疑問にすら思わなかった。
茉奈ちゃんも続ける。
「言葉もですけど、私たちの能力もすごすぎませんか?」
「普通じゃないですよね?」
確かにそうだ。
俺たちのスキルも能力も、どう考えても常識の範囲を超えている。
なぜ、こんな力を与えられたのか。
なぜ、俺たちが召喚されたのか。
考えれば考えるほど疑問は増えていく。
俺は苦笑しながら言った。
「根本的な謎が山ほど残ってるね」
「それも明日から少しずつ調べていこう」
二人も頷く。
そのまま会話は途切れ、俺たちは眠りについた。
その夜――
不思議な夢を見た。
何もない空間。
果てしなく続く白い世界。
そこに、一人の女性が立っていた。
年齢も分からない。
顔立ちもはっきり見えない。
ただ、柔らかな光に包まれたその姿は、どこか懐かしく、安心感を覚えさせるものだった。
女性は何も語らない。
ただ静かにこちらを見つめている。
その視線には不思議と温かさがあり、見ているだけで心が落ち着いていく。
どこかで見たことがあるような気もする。
けれど思い出せない。
俺はその女性に近づこうと一歩踏み出した。
すると女性は微かに微笑んだように見えた。
その瞬間――
意識が浮上した。
☆★☆★☆★☆★
目を開けると朝だった。
広間の窓から差し込む朝日が、女神像を照らしている。
俺はしばらくの間、その像を見上げていた。
夢の女性と似ている気もする。
ただ、それが本当に似ているのか、それとも寝る前に見た女神像の印象が夢に出てきただけなのか、自分でも分からなかった。
「考えても仕方ないか」
小さく呟き、俺は女神像の前へ歩み寄った。
教会で教わった通り、胸の前で手を組み、静かに祈りを捧げた。
ここまで無事に来られたことへの感謝を込めて。
しばらくすると雪乃さんと茉奈ちゃんも起きてきた。
二人も同じように女神像へ祈りを捧げている。
何気なく昨夜の夢の話をすると、
驚いたことに二人も似たような夢を見ていたらしい。
「不思議なこともあるもんですね」
そう言って三人で笑い合った。
その後、朝食の準備を始める。
買っておいた保存パンと燻製肉。
そして俺は茉奈ちゃんに頼み、≪次元収納≫から緑色の木の実を取り出してもらった。
「モンペアっていう果物です」
「日本だとサルナシって呼ばれてますね」
「濃厚な甘みと爽やかな酸味が特徴らしいですよ」
そう説明しながら一口かじる。
瞬間、
思わず目を見開いた。
甘い。
この世界に来てから食べた物の中で、一番味が濃い。
爽やかな酸味と強い甘みが口いっぱいに広がる。
気付けば二つ目に手を伸ばしていた。
そんな俺を見て、雪乃さんと茉奈ちゃんも恐る恐るかじる。
そして次の瞬間。
「あまーい!」
「本当だ! キウイみたいな味がします!」
二人の顔がぱっと明るくなった。
そこからは早かった。
三人とも夢中になって食べ続ける。
気が付けば用意していたパンも燻製肉もそのまま。
朝食はモンペアだけで終わってしまったのだった。




