43 教会
道行く人にエルニア教の教会の場所を尋ねる。
どうやら市場からは少し離れた場所にあるらしい。
俺たちは教えられた方向へ向かって歩き出した。
しばらく進むと、大きな石造りの建物が見えてくる。
近づくにつれ、その威容に圧倒された。
高く伸びた尖塔。
磨き上げられた白い石壁。
決して派手ではないが、見る者に神聖さを感じさせる佇まいだ。
思わず足を止めて見上げていると、
「どうかなさいましたか?」
穏やかな声がかけられた。
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
年齢は三十代後半ほどだろうか。
落ち着いた雰囲気をまとい、優しげな笑みを浮かべている。
俺は軽く頭を下げた。
「いえ、失礼しました」
「私たちは旅の者でして、旅の無事を祈らせていただこうと思い、立ち寄らせていただいたのです」
もちろん半分は嘘だ。
本当の目的は教会と聖水について調べることにある。
しかし女性は疑う様子もなく微笑んだ。
「左様でございましたか」
「エルニア様のご慈悲は、どなたにも分け隔てなく注がれます」
「あなた方に神の祝福がありますように」
「どうぞ中へお入りください」
そう言って教会の扉を開いてくれる。
俺たちは礼を述べ、その後に続いた。
中へ入ると、空気が変わったような気がした。
床も壁も綺麗に磨かれており、静寂が支配している。
そして奥には巨大な女神像が据えられていた。
その姿を見た瞬間、俺は目を見開く。
廃村で見た女神像と同じだった。
女性は女神像へ一礼すると、俺たちへ向き直る。
「いつもよりエルニア様のお顔が柔らかく見えますね」
そう言いながら、女神像の前へと案内してくれた。
俺たちは言われるまま進む。
だが、そもそも祈り方など知らない。
そこで俺は女性に尋ねた。
「お恥ずかしい話ですが、私たちはこの国に来たばかりでして」
「こちらでのお祈りの作法を存じ上げません」
「よろしければ教えていただけませんか?」
女性は少しだけ不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに微笑んだ。
「そういうことでしたか」
そして丁寧に作法を教えてくれる。
胸の前で手を組む。
軽く頭を下げる。
目を閉じる。
ただそれだけらしい。
俺たちは教わった通りに祈りを捧げた。
目を閉じた瞬間――
ほんの一瞬だけ、不思議な感覚が身体を包んだ気がした。
暖かな何かに見守られているような感覚。
だが、それもすぐに消える。
祈りを終え、俺は女性へ向き直った。
「ほんの気持ちですが、エルニア様への感謝の気持ちです」
そう言って銀貨五枚を差し出す。
女性は驚いたように目を瞬かせた後、深々と頭を下げた。
「温かいお心遣いをありがとうございます」
「エルニア様への信仰活動のため、大切に使わせていただきます」
銀貨を受け取った女性は、さらに続けた。
「こちらに聖水がございます」
「ご入用でしたら、どうぞご自由にお持ちください」
示された先を見る。
そこには小さな泉があり、澄み切った水が満ちていた。
俺たちは近くに置かれていた容器を借り、その水を汲む。
そして再び一礼して教会を後にした。
建物を出て少し歩いたところで、俺は容器を見つめる。
聖水。
後で≪鑑定≫と≪分析≫を試してみよう。
何か分かるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか昼を大きく回っていた。
俺は二人に振り返る。
「買い出しも終わったし、少し遅いけど昼飯にしようか」
「その後で宿に戻ろう」
そう言うと、雪乃さんと茉奈ちゃんは顔を見合わせ、嬉しそうに頷いた。




