44 新しい旅立ち
昼食は市場の食堂で取ることにした。
少し柔らかいパン。
ほどよく塩が振られた骨付き肉。
そして野菜がたっぷり入った温かいスープ。
それで一人前銅貨十枚。
この世界に来て初めて、心から美味しいと思えた食事だった。
もちろん日本の料理には遠く及ばない。
それでも十分に美味しい。
この店を選んだのは大正解だった。
雪乃さんも茉奈ちゃんも自然と笑顔になっている。
食事を終えた俺たちは宿へと戻った。
宿の前にはトーマスの姿があった。
だが、茉奈ちゃんが俺と一緒にいることに気付くと、露骨に顔を逸らし、そのまま建物の陰へと引っ込んでいく。
思わず苦笑する。
やはりあいつは、自分より弱い相手にしか強く出られない小物なのだろう。
ヨシュアも、おそらく辺境伯自身も大したことはない。
問題はギルモア辺境伯軍の規模と戦力だ。
その情報だけは決定的に足りない。
これから先、生き残るためにも情報収集は欠かせない。
そんなことを考えながら宿へ入り、俺たちは雪乃さんたちの部屋へ向かった。
部屋に入るなり雪乃さんが吹き出した。
「さっきのトーマス、情けなかったですね」
「佐伯さんを見た瞬間、慌てて逃げていきましたよ」
そう言って笑い出す。
その姿につられ、俺と茉奈ちゃんも顔を見合わせて笑った。
重苦しい空気ばかりだったここ数日で、久しぶりに肩の力が抜けた気がする。
窓の外を見ると、日もだいぶ傾いていた。
俺は教会から持ち帰った聖水を取り出し、≪鑑定≫を使う。
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聖水
エルモア神の特別な恵みが与えられた水。神水。
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さらに≪分析≫を発動する。
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素材:聖水
飲むことで状態異常を回復し、体力回復の効果を得られる。
聖なる力を宿しており、使用することで瘴気を除去することができる。
薬を作成する際に、この水を使用することで高い薬効を得られる。
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「聖水、めちゃくちゃ有用じゃないか……」
思わず声が漏れる。
結果を伝えると、二人も目を輝かせた。
「すごい!」
「めちゃめちゃ有用じゃないですか!」
俺は頷く。
「これを定期的に手に入れる方法が必要ですね」
すると雪乃さんが考え込むように言った。
「廃村の召喚広間にも、今日の教会と同じ女神像がありましたよね」
「ということは、あそこもエルニア教に関係する施設だったのではないでしょうか?」
「もしかしたら、聖水が湧く泉もあるかもしれません」
その言葉に俺は笑顔になる。
「確かに、その可能性はありますね」
「まずは廃村で探してみましょう」
「無ければ、その時また別の方法を考えればいい」
雪乃さんも嬉しそうに頷いた。
その後、それぞれ荷造りを済ませる。
そして最後の夕食を取るため食堂へ向かった。
食堂には神代君たち高校生組が集まっていた。
俺は軽く手を上げる。
神代君たちも手を上げて応えてくれた。
互いに余計な言葉はない。
それでも十分だった。
食事は静かに終わった。
そして俺たちが食堂の出口へ向かった、その時だった。
「佐伯さん!」
若葉さんが突然立ち上がり、こちらへ駆けてくる。
「おい! 若葉!」
太陽君が慌てて呼び止める。
だが若葉さんは止まらない。
そのまま俺に抱きついた。
肩が小さく震えている。
「ありがとうございました……」
涙声だった。
俺は苦笑しながら答える。
「ここから先も大変だろうけど、お互い頑張ろうね」
若葉さんは顔を上げ、
「はい……!」
と力強く頷いた。
そして俺から離れ、高校生たちの元へ戻っていく。
戻った途端、今度は太陽君に泣きながら抱きついていた。
太陽君は困ったような顔をしながら、こちらへ軽く頭を下げる。
俺も手を上げて応えた。
これが最後になるかもしれない。
それでも、不思議と後悔はなかった。
部屋へ戻ると、茉奈ちゃんが荷物を≪次元収納≫へ収めていく。
全ての準備が終わったのを確認し、俺は二人を見た。
「さて――行きましょうか」
二人は力強く頷く。
俺たちは手をつないだ。
茉奈ちゃんが静かに≪テレポート≫を発動する。
視界が白く染まる。
セル村での出来事。
出会った人々。
高校生たち。
その全てを置いて。
俺たちは新たな一歩を踏み出した。
新しい旅の始まりだった。
いつも読んでもらって、ありがとうございます!
1,000PVを超えたようです
初めての作品で、こんなに多くの方に読んでいただけたこと、感謝しています
まだまだ続きますので、続けてのご愛読、よろしくお願いします
なお、ここまでで一区切りになります
次回以降、佐伯、雪乃、茉奈の三人での新生活が始まります
お楽しみください




