42 分析
廃村での生活を考えた場合、俺たちはかなり茉奈ちゃん頼りになる。
食事の支度や夜に必要な火起こしは、茉奈ちゃんの生活魔法≪火≫が頼りだ。
生きていくために欠かせない水も、生活魔法≪水≫で確保できる。
ゼストへ向かう際には、収納系スキルのおかげで荷物を持ち歩く必要がない。
そのうえ、生活魔法≪清≫があれば、野営生活でもある程度は身ぎれいに過ごせる。
歩きながらそんな話をすると、茉奈ちゃんは慌てたように首を振った。
「そんなことないです」
「廃村で暮らすなら、魔物とか色んな危険があると思います。でも、雪乃さんの≪気配察知≫があれば避けられるかもしれませんし……」
「生活資金だって、佐伯さんの≪鑑定≫があるから目途が立ったんです」
「私、一人だったら追放されて、そのまま死ぬしかなかったと思います」
「でも、お二人が生き残る方法を考えてくれて、希望をくれました」
「本当に感謝しています」
そこまで一気に言い切ると、茉奈ちゃんの目に涙が浮かんだ。
すると雪乃さんが優しく微笑む。
「そうね」
「私たちは、この三人だったから旅立とうと思えたのよ」
「ここを離れても、きっとやっていけるって思えた」
俺も大きく頷く。
「そうだな」
「一人じゃできないことでも、俺たち三人なら乗り越えられるさ」
そう言うと、二人も笑顔になった。
そんな話をしながら歩いていると、素材の解体や加工を行っている店の前にたどり着く。
店の奥には魔物の死体が並べられていた。
俺は何気なく、その一体に≪鑑定≫を使ってみた。
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角うさぎの死体 E級魔物
四足歩行で頭部に生えた角で攻撃してくる魔物の死体
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情報が流れ込んでくる。
そこで俺は、昨晩手に入れた新しいスキル≪分析≫を試してみることにした。
すると、さらに別の情報が表示された。
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素材:角
角はナイフなどの素材となる。
※なお、肉はこのままでは食用不可。
聖なる力で清めることで食用可となる。
食すことで数分間、敏捷性がほんの少し上昇する。
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思わず足を止める。
角うさぎの肉は食べられるらしい。
しかも、ただ食べられるだけではない。
敏捷性上昇という効果まである。
だが――。
なんで、この世界の人間は知らないんだ?
俺たちは最初に、
「魔物の肉は食べられない」
と説明を受けている。
そして≪分析≫には、
「聖なる力で清めることで食用可」
と書かれている。
聖なる力とは何だ?
生活魔法≪清≫なのか?
それとも若葉さんの使う聖魔法なのか?
あるいは別の方法が存在するのか?
考えても答えは出ない。
俺は二人に向かって口を開いた。
「ちょっと気になることがあるんだ」
「あの角うさぎに≪分析≫を使ったら、聖なる力で清めれば食べられるって出た」
「しかも食べると少しだけ敏捷性が上がるらしい」
二人は揃って目を見開く。
「えっ!?」
「本当ですか?」
俺は頷いた。
「たぶん、この世界の人たちは知らないと思う」
「知っていたら、最初から魔物の肉は食べられないなんて説明しないだろうし」
「だから気になったんだ」
「聖なる力って何なんだろうな?」
すると茉奈ちゃんが少し考えてから答えた。
「聖なる力ですか……」
「生活魔法≪清≫とは別物だと思います」
「≪清≫は汚れを落とすだけの魔法ですから」
「清めるっていうなら、若葉さんの聖魔法の方が近い気がします」
「私なら、そっちを想像しますね」
なるほど。
確かに魔法を使う本人の意見には説得力がある。
すると今度は雪乃さんが思い出したように口を開いた。
「そういえば、宿の主人が宿の前に水を撒いていたんです」
「何をしているんですかって聞いたら、『聖水を撒いている』って言ってました」
俺は眉を上げる。
「聖水?」
「はい」
「教会で配られているありがたい水らしいです」
「それで、『聖なる力で清められた水なんだ』って説明してくれました」
俺と茉奈ちゃんは顔を見合わせた。
雪乃さんはさらに続ける。
「その教会はエルニア教っていうらしいです」
「この世界で一番信者が多い宗教で、慈悲深い女神様を信仰しているんだとか」
エルニア教――。
聞いたことのない名前だ。
俺が知っている宗教はアルステア教だけだ。
あの大司教シルビアが信奉していた宗教。
では、
エルニア教とアルステア教は何が違う?
両者はどんな関係なのか?
聖なる力とは、その宗教に関係しているのか?
新しい謎が次々と増えていく。
だが、今は考えていても仕方がない。
俺は二人に向かって言った。
「とりあえず、そのエルニア教の教会に行ってみよう」
二人も頷く。
こうして俺たちは、新たな情報を求めて教会へと向かうのだった。




