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38 セル村の宿にて④

俺の説明に、藤堂君たち高校生は一応納得してくれたようだった。


しばらく沈黙が続いたあと、神代君が口を開く。


「トーマスのことは、俺らも注視しておきます」


「茉奈ちゃんに近づかないよう、できる限り気を配ります」


そう言ってから、一度言葉を切り、真っ直ぐ俺を見る。


「それと、佐伯さんたちが行動を起こすことを止めたりはしません」


その言葉に、若葉さんが目を見開いた。


神代君はさらに続ける。


「でも、行くときは一言ほしいです」


「短い間でしたけど、一緒に旅した仲間ですし……」


「俺らのこれからの方向性を示してくれた恩人でもありますから」


少し涙ぐみながらそう言う神代君に、俺は静かに頷いた。


「もちろんだよ」


短い言葉だったが、自分でも驚くほど力がこもっていた。


その返事を聞いた若葉さんは、とうとう涙を流し始める。


真紀さんも唇を噛み締め、今にも泣き出しそうな表情をしていた。


藤堂君は相変わらず怒りが収まらないらしく、腕を組んだまま険しい顔をしている。


太陽君だけが、どこか安心したような、優しい目で俺を見ていた。


それぞれの想いを胸に抱えているのだろう。


俺はそんな彼らを見回し、小さく笑った。


「じゃあ、今日はもう休もう」


そう言って部屋を後にする。


廊下を歩きながら、胸の奥が少しだけ重くなるのを感じていた。


まだ旅を抜けると決まったわけではない。


だが、こうして口にした以上、もう後戻りはできないだろう。


俺は静かに自室へと戻った。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★


場面は変わり、雪乃と茉奈の部屋。


鈴木雪乃は、布団に横になっても怒りが収まらなかった。


隣では茉奈が静かな寝息を立てている。


その小さな寝顔を見つめるたびに、胸の奥から怒りが湧き上がってきた。


幼い茉奈ちゃんが受けた恐怖。


体格に恵まれた成人男性が、幼い少女を力づくで自分の欲望のはけ口にしようとしたこと。


しかも注意されたにもかかわらず反省するどころか、悪態までついて去っていった。


そして何より――。


その場に居合わせながら、自分は怯える茉奈ちゃんを抱きしめることしかできなかった。


守れなかった。


その事実が雪乃自身を激しく責め立てていた。


怒りと悔しさが入り混じり、拳に自然と力が入る。


ふと隣を見る。


茉奈は眠っている。


だが、どこか不安そうに眉を寄せていた。


その表情を見た瞬間、雪乃の中で一つの決意が固まる。


佐伯さんは協力してくれる。


そう信じて相談した。


そして実際に、佐伯一樹は自分が思っていた以上に強い危機感を抱いていた。


茉奈を守るための具体的な方針まで示してくれた。


それは、自分自身も危険な立場になることを理解したうえでの決断だった。


佐伯さんは信頼できる。


ならば、自分はその後ろについていくだけでいいのか。


雪乃は首を横に振る。


違う。


最初に佐伯とまともに話したとき、自分は情報収集を申し出た。


ならば、自分も役割を果たさなければならない。


守られるだけでは意味がない。


茉奈を守るためにも。


三人が生き残るためにも。


必要な情報は、自分が集める。


雪乃は静かに身体を起こした。


茉奈を起こさないよう毛布を整える。


そして小さく呟いた。


「大丈夫だからね」


返事はない。


それでも、その言葉は自分自身への誓いでもあった。


雪乃は《気配遮断》を発動する。


存在感が薄れ、気配が周囲に溶けていく。


音を立てないよう部屋を出る。


向かう先は一つ。


ヨシュアたち騎士の部屋だった。


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