38 セル村の宿にて④
俺の説明に、藤堂君たち高校生は一応納得してくれたようだった。
しばらく沈黙が続いたあと、神代君が口を開く。
「トーマスのことは、俺らも注視しておきます」
「茉奈ちゃんに近づかないよう、できる限り気を配ります」
そう言ってから、一度言葉を切り、真っ直ぐ俺を見る。
「それと、佐伯さんたちが行動を起こすことを止めたりはしません」
その言葉に、若葉さんが目を見開いた。
神代君はさらに続ける。
「でも、行くときは一言ほしいです」
「短い間でしたけど、一緒に旅した仲間ですし……」
「俺らのこれからの方向性を示してくれた恩人でもありますから」
少し涙ぐみながらそう言う神代君に、俺は静かに頷いた。
「もちろんだよ」
短い言葉だったが、自分でも驚くほど力がこもっていた。
その返事を聞いた若葉さんは、とうとう涙を流し始める。
真紀さんも唇を噛み締め、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
藤堂君は相変わらず怒りが収まらないらしく、腕を組んだまま険しい顔をしている。
太陽君だけが、どこか安心したような、優しい目で俺を見ていた。
それぞれの想いを胸に抱えているのだろう。
俺はそんな彼らを見回し、小さく笑った。
「じゃあ、今日はもう休もう」
そう言って部屋を後にする。
廊下を歩きながら、胸の奥が少しだけ重くなるのを感じていた。
まだ旅を抜けると決まったわけではない。
だが、こうして口にした以上、もう後戻りはできないだろう。
俺は静かに自室へと戻った。
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場面は変わり、雪乃と茉奈の部屋。
鈴木雪乃は、布団に横になっても怒りが収まらなかった。
隣では茉奈が静かな寝息を立てている。
その小さな寝顔を見つめるたびに、胸の奥から怒りが湧き上がってきた。
幼い茉奈ちゃんが受けた恐怖。
体格に恵まれた成人男性が、幼い少女を力づくで自分の欲望のはけ口にしようとしたこと。
しかも注意されたにもかかわらず反省するどころか、悪態までついて去っていった。
そして何より――。
その場に居合わせながら、自分は怯える茉奈ちゃんを抱きしめることしかできなかった。
守れなかった。
その事実が雪乃自身を激しく責め立てていた。
怒りと悔しさが入り混じり、拳に自然と力が入る。
ふと隣を見る。
茉奈は眠っている。
だが、どこか不安そうに眉を寄せていた。
その表情を見た瞬間、雪乃の中で一つの決意が固まる。
佐伯さんは協力してくれる。
そう信じて相談した。
そして実際に、佐伯一樹は自分が思っていた以上に強い危機感を抱いていた。
茉奈を守るための具体的な方針まで示してくれた。
それは、自分自身も危険な立場になることを理解したうえでの決断だった。
佐伯さんは信頼できる。
ならば、自分はその後ろについていくだけでいいのか。
雪乃は首を横に振る。
違う。
最初に佐伯とまともに話したとき、自分は情報収集を申し出た。
ならば、自分も役割を果たさなければならない。
守られるだけでは意味がない。
茉奈を守るためにも。
三人が生き残るためにも。
必要な情報は、自分が集める。
雪乃は静かに身体を起こした。
茉奈を起こさないよう毛布を整える。
そして小さく呟いた。
「大丈夫だからね」
返事はない。
それでも、その言葉は自分自身への誓いでもあった。
雪乃は《気配遮断》を発動する。
存在感が薄れ、気配が周囲に溶けていく。
音を立てないよう部屋を出る。
向かう先は一つ。
ヨシュアたち騎士の部屋だった。




