36 セル村の宿にて②
「あの……」
それまで黙って話を聞いていた茉奈ちゃんが、おずおずと手を挙げた。
俺と雪乃さんは同時に視線を向ける。
「どうしたの?」
そう促すと、茉奈ちゃんは少し緊張した様子で口を開いた。
「もし廃村へ行くなら……私、みなさんの力になれるかもしれません」
その言葉に俺と雪乃さんは顔を見合わせる。
「力になれる?」
雪乃さんが聞き返すと、茉奈ちゃんは大きく頷いた。
「《テレポート》っていう魔法を覚えたみたいなんです」
「行ったことのある場所を思い浮かべると、その場所へ移動できるみたいで……」
「だから廃村にも行けるんじゃないかなって」
一瞬、言葉を失った。
テレポート。
聞き間違いでなければ、とんでもない魔法だ。
雪乃さんも驚いたように目を見開いている。
「それ、本当なの?」
「たぶんです。何となく使い方が分かるというか……そういう感覚があるんです」
茉奈ちゃんは少し不安そうに答えた。
この世界に来てから何度も見てきた。
スキルや魔法は、ある日突然『使い方が分かる』ことがある。
だから嘘ではないのだろう。
むしろ問題は、その効果が本当なら俺たちの計画を大きく前進させることだった。
そんな中、茉奈ちゃんが少し照れたように笑う。
「それと……他にも色々変わったみたいなんです」
「良ければ佐伯さんに見てもらえませんか?」
俺は思わず笑みを浮かべた。
「もちろんだよ」
「じゃあ見てみようか」
そう言って《鑑定》を発動する。
すぐに情報が流れ込んできた。
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名前:御厨 茉奈 年齢:11歳
職業:運搬屋 能力:神速の宅配師
レベル:5
固有スキル:次元収納、念動収納
受動スキル:なし
武器スキル:弓
(チャージショット、アローレイン)
魔法スキル:時空魔法
(テレポート)
生活魔法
(清、火、水)
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思わず苦笑する。
なんだか、とんでもないことになっていた。
数日前に見た時はレベル2だったはずだ。
それが今ではレベル5。
武器スキルも増え、魔法まで習得している。
そして何より《テレポート》。
本当に記載されている。
俺は内容をそのまま伝えた。
すると茉奈ちゃんは嬉しそうに声を上げた。
「生活魔法は若葉さんと真紀さんに教えてもらったんです!」
「あっ! 弓の技も増えてる!」
「やったー!」
年相応の無邪気な笑顔だった。
そんな茉奈ちゃんの隣で、雪乃さんがじっとこちらを見ている。
何か言いたそうな視線だ。
「雪乃さんも見ます?」
そう聞くと、
「えっ、本当にいいんですか?」
と、予想以上に食いついてきた。
しかも満面の笑みである。
俺は思わず苦笑しながら《鑑定》を発動した。
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名前:鈴木 雪乃 年齢:28歳
職業:斥候 能力:千眼の先見
レベル:10
固有スキル:気配察知、気配遮断、韋駄天
受動スキル:千里眼、電光石火
武器スキル:小剣
(カットイン、ホークブレイド、ソニックピアス)
魔法スキル:なし
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こちらも驚いた。
固有スキルが増えている。
《韋駄天》。
どう考えても移動系のスキルだろう。
固有スキルは増えないものだと思っていたが、どうやら違うらしい。
結果を伝えると、雪乃さんは納得したように頷いた。
「やっぱりそうなんですね」
「最近、さらに身体が軽くなった感覚があったんです」
「今なら壁くらい走れそうな気がします」
さらっと凄いことを言い出した。
壁を走るって何だ。
忍者か。
だが、この世界なら本当にできるのかもしれない。
そして俺はふと思い立ち、自分にも《鑑定》を使ってみる。
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名前:佐伯 一樹 年齢:46歳
職業:商人 能力:万物の理
レベル:19
固有スキル:鑑定、分解、分析
受動スキル:経験値倍化、異相共鳴
武器スキル:棍棒
(連撃、兜砕き、大車輪、乱打)
魔法スキル:なし
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「おお……」
思わず声が漏れた。
レベルは十九。
そして固有スキルが増えている。
《分析》。
名前からすると《鑑定》の発展系だろうか。
さらに武器スキルも増えていた。
《大車輪》。
《乱打》。
どちらも攻撃技であることは間違いない。
今度の戦闘で試してみる必要がありそうだ。
俺が結果を伝えると、二人とも《分析》という言葉に興味を示した。
「それ、便利そうですね」
「どんなことが分かるんでしょう?」
茉奈ちゃんが首を傾げる。
だが現時点では俺にも分からない。
「明日、色々試してみようか」
そう提案すると二人とも頷いた。
こうして今後の方針を再確認したところで、この日の話し合いは終わりとなった。
部屋を出ていく二人を見送りながら、俺は改めて考える。
《テレポート》。
《韋駄天》。
《分析》。
俺たちは確実に強くなっている。
そして少しずつだが、この世界で生き残るための力を手に入れ始めていた。




