33 谷本若葉の真の力②
休憩を終え、俺たちは再びセル村へ向けて歩き始めた。
しばらく進んだところで、ゴブリンの群れが姿を現す。
数は七体。
いつものように戦闘態勢へ移行した。
普段なら真紀さんと茉奈が先制攻撃を行い、その間に若葉さんはさらに後方へ下がる。
だが今日は違った。
真紀さんの火球が飛ぶ。
茉奈の矢が続く。
そして――若葉さんが杖を前へ突き出した。
「《サンダーウィップ》!」
杖の先から青白い雷が迸る。
その雷は一本の鞭となって空中を走り、先頭のゴブリンへ絡みついた。
バチバチッ!
激しい放電音が響く。
雷の鞭は一体だけでは終わらなかった。
絡みついたゴブリンから隣のゴブリンへ。
さらにその隣へ。
まるで鎖のように次々と繋がっていく。
「ギギャァァァ!」
悲鳴が重なる。
雷撃に貫かれたゴブリンたちの身体が硬直した。
動きが止まる。
完全に足を止められた。
その瞬間だった。
「行くぞ!」
神代君が地面を蹴る。
《横一文字》。
巨大な斬撃が横薙ぎに走った。
身動きの取れないゴブリンたちをまとめて薙ぎ払う。
三体が吹き飛んだ。
残るゴブリンたちは混乱し、逃げようとする。
だが雷の鞭はまだ消えていない。
逃げようとした一体の足へ再び絡みつく。
転倒。
そこへ太陽君の槍が突き刺さる。
藤堂君の拳が炸裂する。
俺も棍棒を振り下ろした。
最後の一体が後方へ逃げようとした瞬間。
雪乃さんの姿が掻き消える。
次の瞬間にはゴブリンの背後にいた。
閃く短剣。
ゴブリンが崩れ落ちる。
戦闘終了。
わずか数十秒の出来事だった。
静まり返った戦場の中央で、若葉さんだけが呆然としている。
自分が何をしたのか理解できていないような顔だった。
だが次の瞬間、高校生たちの歓声が上がる。
「若葉、すげぇ!」
「今の何だよ!」
「ゴブリン全員止まってたじゃん!」
「めちゃくちゃ戦いやすかったぞ!」
若葉さんは顔を真っ赤にした。
そして照れ臭そうに笑いながら、そっと杖を抱きしめた。
不意に俺の方を見る。
小さく頭を下げた。
礼のつもりなのだろう。
俺は苦笑しながら軽く手を振った。
すると、それを見ていた高校生たちも次々とこちらへ手を上げてくる。
俺も手を上げて応えた。
隣で雪乃さんが微笑む。
「若葉さん、本当に良かったですね」
俺も頷いた。
「ああ」
「やっと自分の力に気付けたんだろうな」
そんな俺たちとは対照的に、騎士たちは驚愕の表情を浮かべていた。
特にヨシュアの反応は分かりやすい。
一瞬だけ焦りの色が見えた。
だが、すぐに咳払いをして表情を整える。
「ま、ゴブリン相手なら、この程度は当然でしょう」
どこか無理のある口調だった。
「セル村まではもう少しです」
「気を緩めず進みましょう」
そう言って行軍を再開させる。
若葉さんが攻撃魔法を使えるなど、ヨシュアたちは想定していなかったのだろう。
いや、それだけではない。
神代君も。
茉奈も。
そして俺たち全員が。
彼らの予想を超える速度で成長し始めている。
だからこそ焦っているのかもしれない。
もし俺たちが強くなりすぎれば、彼らは俺たちを制御できなくなる。
そうなれば、彼らが持つ優位性は一つしか残らない。
――元の世界へ帰る方法を知っていること。
その一点だけだ。
だからこそ俺は思う。
いつか、その唯一の切り札すら必要としない方法を見つけたい。
俺たち自身の力で元の世界へ帰る道を。
そのためにも、もっと情報を集めなければならない。
俺は前を歩くヨシュアの背中を見つめながら、改めて決意を固めた。




