28 初野営②
起こされた。
どうやら焚き火の番の時間らしい。
俺は神代勇樹君とともに焚き火の前へ向かい、並んで腰を下ろした。
昼間は暖かかったが、夜になると少し冷える。
この世界の季節は、日本で言えば秋くらいなのだろうか。
揺れる炎を眺めながら、俺は神代君に声をかけた。
「意外と夜は冷えるんだね。寒くない?」
神代君は笑いながら薪を焚き火へ放り込む。
「いや、大丈夫ですよ」
「昼間は結構暑かったですし、今くらいがちょうどいい感じです」
ぱちり、と薪が弾ける。
俺は周囲へ目を向けた。
聞こえるのは皆の寝息と、焚き火の燃える音だけ。
魔物の気配もなく、静かな夜だった。
「神代君」
「君たちは今の状況をどう思っているのかな?」
そう尋ねると、彼は一瞬きょとんとした顔をした。
だがすぐに焚き火へ視線を戻し、少し考えてから口を開く。
「うーん……正直、まだよく分からないです」
「いきなりこっちの世界に連れて来られた時は、さすがに腹も立ちましたけど」
そう言って苦笑する。
「でも、なんだかんだやれてますし」
「飯が不味いのはかなりキツいですけどね」
思わず俺も笑ってしまった。
確かにあの食事は厳しい。
神代君は続ける。
「それに、レベルアップすると本当に強くなってる実感があるんですよ」
「最初より明らかに体が軽いですし」
「このまま成果を上げていけば、元の世界へ帰るのも夢じゃないかなって」
まっすぐな言葉だった。
この子たちは本当にヨシュアたちの言葉を信じ、前へ進もうとしている。
そう実感する。
すると今度は神代君の方から質問してきた。
「佐伯さんって、スキル使えるようになったんですか?」
思わず表情が固まった。
それを見て神代君が笑う。
「あ、やっぱりそうなんですね」
「佐伯さんたちのこと、結構見てましたから」
嫌な予感がする。
「佐伯さんが何かを見た後、雪乃さんに目配せするじゃないですか」
「すると雪乃さんの気配が急に消えるんですよ」
「あれ、《気配遮断》ですよね?」
俺は黙って聞く。
「それで雪乃さんが茉奈ちゃんに何かを渡したと思ったら、その渡した物が消える」
「何回も見てたら、さすがに気付きますって」
どうやら俺たちの行動は思っていた以上に筒抜けだったらしい。
だが神代君は続ける。
「でも安心してください」
「ヨシュアさんたちには気付かれてないと思います」
「太陽が『三人が何か隠してるのには理由があるはずだ』って言うんで」
「佐伯さんたちが動いてる時は、俺たちが騒いでヨシュアさんたちの気を逸らしてましたから」
そう言って笑った。
どうやら知らないうちに助けられていたらしい。
正直ありがたかった。
俺は少し考えた後、自分の考えを正直に話した。
辺境伯たちを信用していないこと。
何か裏があると感じていること。
ただし、元の世界へ帰る方法や、使い潰されるかもしれないという懸念については口にしなかった。
話を聞き終えた神代君は、意外そうな顔をすることもなく頷いた。
「やっぱり、そうですよね」
「俺たちも単純には信用してないですよ」
焚き火の炎を見つめながら呟く。
「だって、これってどう考えても犯罪じゃないですか」
その言葉に思わず苦笑する。
確かにその通りだ。
誘拐どころの話ではない。
異世界への拉致だ。
神代君は苦い顔を浮かべた。
「でも俺たちには、今のところ他に方法がないんです」
「もし本当に元の世界へ帰る方法を知ってるなら、従うしかない」
「悔しいですけどね」
その表情を見て胸が痛んだ。
俺もまた、別の方法を見つけているわけではない。
だからこそ、彼らを否定できなかった。
彼らは今分かっている唯一の希望へ向かって進んでいる。
俺は別の可能性を探している。
どちらが正しいのかは分からない。
だが、どちらが間違っているとも思えなかった。
しばらく焚き火を見つめた後、俺は神代君へ声をかける。
「少し違和感を感じると思うんだけど、俺のスキルで神代君を見てもいいかな?」
「たぶん、君の助けになると思うんだ」
神代君は首を傾げた。
「俺を、ですか?」
「うん」
そう答えると、彼は不思議そうな顔をしながらも頷いた。
「分かりました」
その返事を聞きながら、俺は静かに《鑑定》を発動した。




