27 初野営①
その後も幾度となく魔物との戦闘を重ねながら、俺たちはセル村へ向けて歩みを進めた。
廃村からルト村へ向かう道も酷かったが、セル村への道も負けず劣らず荒れている。
まるでオフロードレースに使われるような悪路が延々と続いていた。
正直なところ非常に歩きにくい。
だが、不思議と足は動く。
周囲を見渡しても、騎士たちはもちろん、高校生たちも平然と歩いている。
昨日までなら文句の一つも出ていただろうが、今は騒ぐ元気すら残っているようだ。
これはレベルアップの効果なのだろうか。
そう思う場面は他にもあった。
魔物との戦闘だ。
最初のゴブリン戦では、戦いが終わった後に強い疲労感を覚えた。
だが今は違う。
戦闘回数が増えたにもかかわらず、疲労はそこまで感じない。
実戦経験による慣れもあるだろう。
しかし、それだけでは説明がつかない気がする。
おそらくこれもレベルアップの恩恵なのだろう。
そんなことを考えながら、俺は道中で《鑑定》を使い続ける。
役立ちそうな植物や素材を見つけるたびに雪乃さんへ目配せする。
雪乃さんは《気配遮断》を使って回収し、それを茉奈へ渡す。
茉奈は《念動収納》で収納する。
最初はぎこちなかった連携も、今ではかなりスムーズになっていた。
こう言っては何だが、二人とも思っていた以上に頼りになる。
だからこそ、俺も《鑑定》で少しでも役立つものを探そうと、より真剣に周囲へ目を向けた。
そうこうしているうちに日が傾き始める。
するとヨシュアが声を上げた。
「もうしばらく進めば開けた場所があります」
「今夜はそこで野営を行います」
さらにしばらく歩くと、木々が途切れた広場へ辿り着いた。
どうやらここが今夜の宿らしい。
騎士たちは荷馬車から次々と道具を降ろし、手際よく野営の準備を始める。
俺たちも指示を受けながら手伝うことになった。
だが、やはり現代日本でイメージするキャンプとは勝手が違う。
まず中央へ太い木材を組み上げる。
その周囲を囲むように三張りのタープを設営する。
そして最後に焚き火の準備だ。
火を点けたのは真紀さんだった。
いつも戦闘で放つ火球とは違い、指先から小さな火を生み出している。
まるでライターの火のような穏やかな炎だ。
あれは生活魔法というやつだろうか。
ふと茉奈へ目を向ける。
彼女は目を輝かせながら、その様子を食い入るように見つめていた。
やはり気になるらしい。
俺は茉奈のそばへ歩み寄った。
「真紀さんに少し話を聞いてみるか?」
「一人だと緊張するなら、俺か雪乃さんも一緒に行くけど」
そう言うと、茉奈はぱっと顔を輝かせた。
「お願いします!」
弾けるような笑顔だった。
きっと『魔法を知る』という目標への道筋が見えたのだろう。
その日の夕食は、残念ながら昨日以上に厳しいものだった。
具のほとんど入っていない薄いスープ。
そして相変わらず固いパン。
パンをスープへ浸して柔らかくしながら、なんとか完食する。
日本という食に恵まれた国で育った俺たちにとっては、なかなか苦しい食事だった。
ふと今日集めた植物のことを思い出す。
中にはハーブと思われるものもあった。
あれを少し加えるだけでも味は大きく変わるだろう。
食用になりそうな木の実も見つけている。
添えるだけでも見栄えは良くなるはずだ。
だが今は能力を隠している状況だ。
説明できない行動は慎むべきだろう。
そう判断し、黙って食事を続けた。
食後は特にやることもなく、それぞれ休む準備を始める。
ただし焚き火の火を絶やさないため、夜通し見張りを立てるらしい。
二、三人ずつ交代で火の番を行うとのことだった。
俺は神代勇樹君と同じ組になった。
雪乃さんと茉奈は真紀さんと三人で担当するらしい。
俺は雪乃さんへ生活魔法の件を伝える。
雪乃さんは小さく頷き、茉奈を呼び寄せた。
おそらく後で真紀さんへ話を聞くつもりなのだろう。
それぞれが思い思いの準備を始める中、最初の火の番を担当するのはヨシュアと騎士二人だった。
焚き火の炎が揺らめく。
森の奥から聞こえる虫の声。
そして時折吹き抜ける夜風。
異世界へ来てから三度目の夜が、静かに更けていった。




