18 ルト村に向かって
旅は徒歩での移動となった。
隊列の中央には馬に引かれた荷馬車が二台。
一台には食料や予備装備などの物資が積み込まれている。
だが、もう一台は空だった。
不思議に思い近くの騎士へ尋ねる。
「あの空の荷馬車は何に使うんですか?」
騎士は当然のように答えた。
「討伐した魔物を運ぶためです」
なるほど。
魔物にも換金できる素材があるらしい。
ゲームみたいな話だな。
そんなことを考えながら、ふと思いついた疑問を口にした。
「魔物の肉はどうするんですか?」
すると騎士が怪訝そうな顔をする。
「魔物の肉ですか?」
何か変なことを言っただろうか。
「魔物の肉は瘴気に汚染されています」
「食用にはなりません」
「素材を回収した後は焼却するか埋葬します」
「放置すれば他の魔物を呼び寄せる原因になりますので」
当たり前のことを説明しているような口調だった。
俺は一応頭を下げる。
「失礼しました」
正直なところ、昨日この世界へ来たばかりだ。
この世界の常識など知るはずもない。
すると別の騎士が興味深そうに尋ねてきた。
「あなた方の世界では違うのですか?」
「魔物を討伐した後、肉を利用するのですか?」
俺は苦笑した。
「そもそも魔物が存在しません」
騎士たちが目を丸くする。
「存在しない?」
「ええ」
「魔物は架空の存在です」
「物語の中にしか出てきません」
騎士たちは顔を見合わせた。
そして感心したように言う。
「平和な世界なのですね」
俺は曖昧に笑った。
確かに魔物はいない。
だが戦争も犯罪も存在する。
平和かと言われれば微妙なところだ。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて視界が開けた。
広々とした草原だった。
ヨシュアが隊列を止める。
「ここでしばらく休憩します」
馬車を引いていた馬たちが止まる。
騎士たちも手際よく準備を始めた。
そしてヨシュアが続ける。
「その間、皆さんには戦闘訓練を受けてもらいます」
ようやく始まるらしい。
だが――。
各騎士が担当する異世界人へ声をかけていく中、ヨシュアは俺と茉奈を一瞥しただけでどこかへ行ってしまった。
見事な放置である。
俺と茉奈は顔を見合わせる。
「どうします?」
「見学かな」
そんな結論になった。
二人並んで草原へ腰を下ろし、他の面々の訓練を眺める。
しばらくすると若葉さんの手が淡く白く光り始めた。
担当騎士が何かを教えている。
どうやら回復系のスキルらしい。
少し離れた場所では真紀さんの杖の先に火が灯る。
次の瞬間、小さな火球が飛び出した。
「おおっ!」
本人が一番驚いている。
藤堂君は拳を構えた。
その瞬間、拳がぶれたように見える。
いや。
違う。
速すぎて見えないのだ。
神代君は剣を振る。
すると空気が裂けたような音が響いた。
草が帯状に揺れる。
太陽君が槍を横薙ぎに振る。
周囲の草が一斉になぎ倒された。
皆、少しずつだがスキルを使い始めているようだった。
「すごいですね……」
隣で茉奈が呟く。
「そうだね」
俺も頷く。
そして空を見上げた。
さて。
俺はどうしたものか。
スキルの気配すらない。
商人だから戦えない。
そんなことはないと思うのだが。
何か見落としているのだろうか。
そんなことを考えていた、その時だった。
離れた場所で集中していた雪乃さんが、突然顔を上げた。
そして鋭い声を上げる。
「何かいる!」
草原の空気が一瞬で変わった。
騎士たちが反射的に武器へ手を伸ばす。
俺も思わず立ち上がった。
雪乃さんは草原の奥を睨みつけている。
「こっちに向かってきます!」
その声と同時に――
草むらの向こうで何かが動いた。




