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17 旅立ちの朝

酷く長く感じた一日が終わり、朝を迎えた。


朝食として出された固いパンをかじりながら身支度を整え、俺は谷本太陽君と共に召喚された広間へ向かう。


相変わらずパンは固かった。


味も薄い。


朝から気分が上がるような代物ではない。


だが、今日から旅が始まる。


そんなことを考えていると、隣を歩く太陽君が明るい声を上げた。


「いよいよですね」


昨日からずっとやる気に満ちている。


俺は苦笑しながら答えた。


「今日から本番だね。谷本君、よろしく頼むよ」


すると太陽君は首を振った。


「佐伯さん、僕のことは太陽でいいですよ」


「若葉も谷本ですし、ややこしいですから」


なるほど。


確かにその通りだ。


「じゃあ太陽君で」


「はい!」


元気よく返事が返ってくる。


若いな、と少し羨ましくなった。


昨夜、高校生たちは「成果を上げて元の世界へ帰る」という目標で意見をまとめたらしい。


迷いがない。


不安がないわけではないだろう。


それでも前を向いている。


四十六歳の俺には眩しく見えた。


広間へ入ると、すでに何人かが集まっていた。


太陽君は俺へ軽く会釈すると、そのまま高校生たちの輪へ向かっていく。


俺は周囲を見回し、鈴木さんの姿を探した。


すぐに見つかる。


だが、その隣には御厨茉奈さんがぴったりとくっついていた。


昨夜とは別人のようだった。


時折笑顔すら見せている。


どうやら雪乃さんとうまく話せたらしい。


俺は少し安心した。


「おはようございます」


声をかけると、


「おはようございます」


二人同時に返事が返ってくる。


俺が雪乃さんを見ると、彼女は小さく頷いた。


それだけで十分だった。


昨夜の話はうまくいったらしい。


俺は茉奈さんへ向き直る。


「御厨さん、改めてよろしくね」


「これから色々大変だと思うけど、一緒に頑張ろう」


そう言って微笑むと、茉奈さんは少し緊張した様子で頭を下げた。


「雪乃さんから色々聞きました」


「ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」


そして顔を上げる。


「私のことは茉奈と呼んでください」


「雪乃さんにもそうお願いしていますから」


なるほど。


少し距離を縮めようとしているらしい。


俺は考えた末に笑った。


「じゃあ俺のことは佐伯おじちゃんで」


「……長いか」


茉奈が目をぱちくりさせる。


そして少しだけ笑った。


「佐伯さんって冗談を言うんですね」


「もっと厳しい人かと思っていました」


すると雪乃さんが横から口を挟む。


「佐伯さんは仕事には厳しいですけど、普段は優しい人ですよ」


フォローなのか暴露なのか分からない。


さらに雪乃さんが続ける。


「あ、私のことも雪乃でお願いしますね」


そう言って笑った。


その後、雪乃さんから茉奈のスキルについて相談を受けた。


「《次元収納》というスキルなんですけど……」


「かなり特殊なんですよ」


言葉を選ぶように続ける。


「イメージとしては、四次元ポケットみたいな感じです」


「四次元ポケット?」


「ドラえもんの?」


俺が聞き返すと、雪乃は真顔で頷いた。


茉奈も小さく頷いている。


四次元ポケットを思い浮かべながら、俺は腕を組んだ。


正直、便利どころの話ではない。


戦闘能力以上に価値がある。


しばらく考えた後、俺は二人へ告げた。


「当面は秘密にしておいた方がいい」


二人が真剣な顔になる。


「相手がどういう連中か、まだ分からない」


「便利な能力だと知られれば、都合よく使われる可能性がある」


そして茉奈を見る。


「だから今は、俺と同じでスキルが使えないことにしておこう」


茉奈は即座に頷いた。


雪乃も同意する。


どうやら二人も同じ結論に達していたらしい。


そんな話をしていると、広間の前方へヨシュアが姿を現した。


全員が自然と視線を向ける。


ヨシュアは周囲を見渡し、大きな声で告げた。


「皆さん、揃いましたね」


広間の空気が引き締まる。


「これよりルト村へ向けて移動を開始します」


「到着まではおよそ一日」


「道中、皆さんには戦闘訓練を受けてもらいます」


そして少し表情を厳しくした。


「当然ですが、魔物と遭遇する可能性もあります」


「気を引き締めてください」


騎士たちが一斉に返事をする。


高校生たちも緊張した顔で頷いた。


俺は腰に下げた棍棒へ視線を落とす。


異世界に召喚されて二日目。


そして――


俺たちの旅が、ようやく始まった。


ここまでで一つの区切りかな、と思っていたので、一気に投稿してみました

今後は投稿ペースは落とすことになります

ご承知おきください


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