16 事実
佐伯たちが眠りについた頃。
広間にはまだ灯りが残っていた。
そこには辺境伯、シルビア大司教、ヨシュアの姿があった。
さらに見慣れない男女が二人。
辺境伯は椅子に深く腰掛けたまま笑う。
「さて、そろそろ出るか」
ヨシュアが尋ねた。
「本当に今夜のうちに領都へ向かわれるのですか?」
辺境伯は鼻を鳴らす。
「あの異世界人どもと旅をして何になる」
「特にあの若造どもは目障りだ」
シルビア大司教も同意した。
「昼間の態度は実に無礼でしたね」
「神に選ばれた身とは思えません」
ヨシュアが苦笑する。
「まあ、問題ないでしょう」
「あの商人が上手く抑えてくれますよ」
「もし手に余るようなら、こちらで対処します」
辺境伯は満足そうに頷いた。
「レイモンドの件も上手くいった」
「まさか自ら王宮へ飛び込むとはな」
その言葉に見知らぬ男が口を開く。
「レイモンド領への誘導工作も完了しております」
女も続けた。
「王都にはまだ全ての情報が届いておりません」
辺境伯が笑う。
「結構」
「これで邪魔者は消えた」
「後は異世界人どもを使うだけだ」
シルビア大司教が酒杯を傾ける。
「そのために四万人もの信徒を捧げたのですから」
空気が一瞬だけ重くなる。
ヨシュアですら表情を変えなかった。
「しかし、まさか八人とは」
大司教が苦笑した。
「一人五千人」
「神の奇跡も安くはありませんね」
辺境伯が声を上げて笑う。
「だが価値はあった」
そして不意に表情を消した。
「それよりも」
「運搬屋と商人だ」
広間の空気が変わる。
「使えぬなら処分しろ」
「邪魔になるなら追放でも構わん」
「どうせ長くは生きられん」
ヨシュアが静かに頭を下げた。
「承知しております」
シルビア大司教も微笑む。
「神の選別ということでしょう」
辺境伯は満足そうに立ち上がった。
「国を手に入れた後のことも忘れるな」
「もちろんです」
大司教が答える。
「アルステア教を国教に」
「国軍大隊長の座は私に」
ヨシュアも続いた。
辺境伯は大きく頷く。
「無論だ」
三人は笑う。
その笑い声だけが、静かな夜の広間に響いていた。




