14 大人たちの見方②
俺と鈴木さんの話は続いた。
「それで、佐伯さんは今後どうされるおつもりですか?」
雪乃さんが真剣な表情で尋ねる。
「今は行動を起こすべきではない、というお話は理解できました」
「ですが、何もしないわけにもいかないのではありませんか?」
俺は頷いた。
「もちろんです」
少し考えてから答える。
「まずは旅に同行します」
「何をするにしても、この世界で生き残る力が必要です」
「レベルだのスキルだの、半信半疑な部分はありますが、少なくとも彼らはそう説明している」
「だったら利用できるものは利用します」
雪乃さんも静かに頷く。
俺は続けた。
「その上で情報収集ですね」
「滅ぼされたという領地のこと」
「この国のこと」
「ギルモア領のこと」
「王族や魔族のこと」
「何が真実なのか確認したいと思っています」
すると雪乃さんが微笑んだ。
「情報収集なら私もお役に立てると思います」
「なんせ“斥候”らしいですから」
その言葉に俺も少し笑う。
「それなら私は商売でもしながら情報を集めましょうか」
「なんせ“商人”ですから」
二人で小さく笑った。
だがすぐに表情を引き締める。
「情報共有は密にしていきましょう」
俺がそう言うと、雪乃さんも真顔で頷いた。
「お願いします」
協力関係は成立した。
その後、俺は自分の懸念をいくつか共有することにした。
まず一つ目。
スキルの件だ。
「実は私、スキルを使える感覚が全くないんです」
その言葉に雪乃さんは少し驚いた顔をした。
「私はありますよ」
そう言って教えてくれたのは、《気配察知》と《気配遮断》という二つのスキルだった。
試しに《気配遮断》を使ってもらう。
すると奇妙な現象が起きた。
目の前に雪乃さんはいる。
姿も見えている。
それなのに認識できない。
まるで意識から存在だけが抜け落ちたような感覚だった。
「……不思議ですね」
思わず呟く。
「私も最初は驚きました」
雪乃さんは苦笑した。
どうやって使うのか尋ねると、
「何となくイメージが浮かんできたんです」
という答えだった。
残念ながら、その感覚も俺にはない。
「そのうち使えるようになるんじゃないでしょうか」
雪乃さんにそう言われたので、ひとまずそう思うことにした。
二つ目は高校生たちのことだった。
「彼らは辺境伯たちの話を信じています」
俺は率直に言う。
「そして前向きです」
「何より結束が強い」
幼馴染五人組。
兄妹もいる。
誰か一人を説得しても意味はないだろう。
意見を変えさせるなら全員を納得させる必要がある。
しかも今は情報が足りない。
下手なことを言えば警戒されるだけだ。
「今の段階で私たちの考えを共有するべきか迷っています」
すると雪乃さんは即答した。
「放置しておきましょう」
俺は少し意外に思った。
だが雪乃さんは続ける。
「悪い意味ではありません」
「今は彼らにも判断材料がありません」
「そんな状況で不安だけを与えるのは得策ではないと思います」
「やる気があるなら、そのまま頑張ってもらった方がいいでしょう」
俺も同意見だった。
「そうですね」
この件は保留にすることにした。
そして三つ目。
御厨茉奈のことだった。
「彼女は危ういと思います」
そう言っただけで、雪乃さんは察したらしい。
静かに頷く。
十一歳。
しかも突然の異世界召喚。
恐怖で押し潰されてもおかしくない。
「どうフォローするべきか悩んでいるんです」
俺がそう言うと、雪乃さんは少し考えた後で答えた。
「私が同室です」
「まずは話をしてみます」
その言葉に俺は安堵した。
正直、俺より雪乃さんの方が適任だろう。
「お願いします」
そう頭を下げると、
「任せてください」
と彼女は微笑んだ。
話はそこで一区切りとなった。
俺は谷本太陽君を呼びに向かう。
雪乃さんも自室へ戻っていった。
明日から始まる十日間の旅。
その前夜は、静かに更けていった。




