12 大人たちの見方①
食事を終えると、ヨシュアから部屋割りが告げられた。
部屋は二人一組。
俺の同室は谷本太陽君だった。
高校生たちはさっそく集まり始めている。
若い連中は順応が早い。
そんなことを思いながら部屋へ向かおうとした時だった。
「佐伯さん」
背後から声をかけられる。
振り返ると、鈴木雪乃さんが立っていた。
「お久しぶりです」
そう言って軽く頭を下げる。
「少しお話ししたいのですが、お時間よろしいでしょうか」
幸いなことに向こうから来てくれた。
俺も彼女と話したいと思っていたところだ。
「鈴木さんでしたか」
俺は苦笑する。
「申し訳ありません。お顔に見覚えはあるのですが、どちらでお会いしたのか思い出せなくて」
「その辺りも含めて、ぜひお話を伺いたいと思っていました」
すると雪乃さんは一瞬だけ視線を太陽君へ向けた。
「できれば二人でお話ししたいのですが……」
太陽君は察したように頷く。
「それなら僕は勇樹たちの部屋に行っています」
そう言って笑った。
「話が終わったら呼んでください」
俺たちは礼を言い、部屋へ向かう。
部屋に入ると、雪乃さんが静かに口を開いた。
「やはり覚えていらっしゃいませんか」
少しだけ苦笑している。
「無理もありません。私は一方的にお世話になっただけですから」
話を聞くと、雪乃さんは以前、俺の勤めていた会社で営業をしていたらしい。
四年前に退職しているとのことだった。
新人時代、何度か同じ案件を担当したことがあるという。
「私にとっては大きな案件でした」
雪乃さんは懐かしそうに笑う。
「でも佐伯さんは複数の案件を抱えていましたし、覚えていなくても当然だと思います」
言われてみればそんなこともあったかもしれない。
だが正直なところ、記憶にない。
プロジェクトが終われば営業担当との関係も終わる。
俺は昔から、仕事相手と必要以上に踏み込まない主義だった。
「それは失礼しました」
俺は頭を下げる。
「どうも記憶力が良い方ではなくて」
すると雪乃さんが小さく笑った。
「失礼な言い方になるかもしれませんが、存じています」
「仕事でお会いするたびに、初対面のような対応をされていましたので」
俺も苦笑するしかなかった。
事実だからだ。
ひとしきり昔話を終えたところで、本題へ入る。
「それで、お話というのは?」
雪乃さんの表情が真剣なものへ変わった。
「佐伯さんは、辺境伯様やヨシュアさんのお話をどう受け取られましたか?」
やはりそこか。
俺は少し考えてから答えた。
「辺境伯の話が事実ならば、この国の状況はかなり深刻でしょう」
雪乃さんが頷く。
だが俺は続けた。
「あくまで事実ならば、です」
彼女の眉がわずかに動く。
「現時点で私たちが聞いたのは、当事者の一方的な主張だけです」
「まだ何も確認できていません」
「第三者の意見も聞かずに判断するのは危険だと思います」
雪乃さんは大きく頷いた。
どうやら考えは同じらしい。
俺はさらに続ける。
「だからこそ、今の段階で何か行動を起こすべきではないと思っています」
「少なくとも情報が足りません」
「そして間違えれば、命に関わります」
その言葉に雪乃さんが目を見開いた。
「命に関わる、ですか……」
「ええ」
俺は静かに頷く。
「彼らは私たちを本人の意思とは無関係に召喚しました」
「拒否権も与えず、戦うことを求めています」
「さらに成果を上げれば帰還させるとも言っています」
そこで言葉を切る。
「ですが、その約束を信用する根拠はありません」
雪乃さんが静かに言葉を引き継いだ。
「私も同じことを考えていました」
彼女は真っ直ぐこちらを見る。
「戦力として期待している人間を、わざわざ手放すでしょうか」
「功績を上げれば上げるほど、むしろ必要とされる気がします」
「仮に王族との争いが終わったとしても、魔物や魔族との戦いは続くのでしょうし」
「帰還方法が存在したとしても、本当に私たちへ使うとは思えません」
俺は頷いた。
まったく同意見だった。
「結局のところ」
俺は小さく息を吐く。
「彼らと私たちでは前提となる価値観が違います」
「彼らにとっては神に選ばれた勇者なのでしょう」
「ですが、日本の価値観で考えるなら、私たちは同意なく連れて来られた被害者です」
そして静かに結論を口にする。
「これは脅迫を伴う拉致監禁です」
「こんな行為を当然だと思っている人たちです」
「自分たちの意に沿わない人間に、どこまで寛容でいてくれるか分かりません」
「だから私は、最悪の場合は命の危険もあると考えています」
部屋に沈黙が落ちた。
雪乃さんはゆっくり頷く。
「やっぱり……」
小さな声だった。
「私だけがおかしいのかと思っていました」
その言葉に、俺は少しだけ肩の力を抜いた。
どうやら、この違和感を覚えていたのは俺だけではなかったらしい。




