11 自己紹介②&異世界で初の食事
谷本若葉さんが、場の空気を変えるように口を開いた。
「佐伯さん」
俺へ向かって頭を下げる。
「広間での対応、ありがとうございました。本当に助かりました」
続けて兄へ視線を向ける。
「お兄ちゃんたちが怒るのは分かるけど、あの態度はないって!」
「正直、すごくヤバかったよ!」
若葉さんに言われ、神代君たちは揃って気まずそうな顔をした。
俺は苦笑する。
そしてヨシュアがいることを意識しながら答えた。
「大事にならなくて何よりでした」
「辺境伯様の寛大なご対応に感謝ですね」
辺境伯が寛大だった。
そういうことにしておく。
これ以上面倒事を増やすつもりはなかった。
すると今度は藤堂君がぽつりと呟く。
「親父たち、心配してるだろうな……」
その言葉に場が静かになる。
皆、それぞれ家族の顔が脳裏をよぎったのだろう。
俺には、その感覚は少し遠い。
でも、彼らの気持ちは分かる。
もう会えないかもしれない。
そんな気持ちが頭をよぎったのだろう。
そこで、俺はわざと明るい声を出した。
「でも帰れるみたいじゃないですか」
皆の視線がこちらへ向く。
「功績を上げれば、ですけどね」
肩をすくめる。
「だったら、さっさと成果を出して帰りましょう」
「やることやって、元の世界に戻る。それが一番ですよ」
神代君たちの表情が明るくなる。
「そうだな!」
「帰れるなら頑張るしかないか!」
単純と言えば単純だが、若さゆえの前向きさでもある。
少し羨ましかった。
ふと視線を感じた。
御厨茉奈さんだった。
青い顔のまま、こちらを見ている。
戦う。
魔物。
実戦。
俺が軽く言った言葉を、彼女は現実として受け止めているのだろう。
十一歳の少女には酷な話だ。
だが今の俺には、気の利いた言葉が思いつかなかった。
視線を逸らす。
すると今度は鈴木雪乃さんと目が合った。
神代君たちが明るくなる中、鈴木雪乃さんだけは笑っていなかった。
彼女は訝しげな表情でこちらを見ている。
俺の考えを見透かしているような目だった。
やはり一度話をした方がいいかもしれない。
この場で違和感を覚えているのは、俺だけではない気がする。
そんなことを考えていると、ヨシュアが声を上げた。
「それでは時間も遅くなりました」
「食事にしましょう」
ほどなくして食事が運ばれてくる。
固いパン。
薄いスープ。
そして焼いただけらしい肉。
パンは見た目通り固かった。
スープは驚くほど味が薄い。
肉も塩気すらほとんどない。
正直、美味しくない。
ただ腐っているわけではない。
味付けが極端に少ないだけだ。
保存性と携行性を重視した兵士用の食事なのだろう。
周囲を見れば、皆似たような顔をしていた。
どうやら俺だけではないらしい。
――これは食事改善も必要かもしれないな。




