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116 再会

神代君に促されるまま、俺たちは家の中へ入った。


室内は綺麗に片付けられていた。


だが、あまりにも殺風景だった。


あるのは古びたテーブルと椅子だけ。


生活感らしいものがほとんどない。


神代君たちの置かれている状況を、そのまま表しているようだった。


その時、奥の扉がゆっくり開く。


中から一人の女性が姿を現した。


「えっ……?」


真紀が思わず声を漏らす。


俺も一瞬、誰なのか分からなかった。


若葉さんだった。


以前の面影は残っている。


だが、頬は痩せこけ、髪にも艶がない。


何より表情から生気が失われていた。


若葉さんは俺たちを見ると、力なく微笑んだ。


そして次の瞬間、ぽろりと涙をこぼした。


胸が締め付けられる。


だが今は感傷に浸っている場合ではない。


俺はすぐに神代君、太陽君、若葉さんへ《再生》を使った。


淡い光が三人を包む。


傷や痣はみるみる消えていく。


神代君たちは驚いたように自分の身体を見下ろした。


だが、それだけだった。


痩せ細った身体は変わらない。


栄養不足は魔法では治せない。


食べるしかないのだ。


「茉奈、頼む」


「はい!」


茉奈が《次元収納》から次々と食べ物を取り出していく。


おにぎり。


卵焼き。


クッキー。


そして保存していた様々な料理。


それを見た神代君たち三人は目を見開いた。


漣が俺の視線に気付き、小さく頷く。


そして笑顔で言った。


「全部、佐伯さんたちが準備してくれたんだ」


「遠慮しないで食べてくれよ」


神代君がおにぎりを手に取る。


震える手で一口食べた。


そして――。


涙が溢れた。


「米だ……」


掠れた声だった。


太陽君もおにぎりを口に運ぶ。


「本当に米だな……」


若葉さんも小さく頷いた。


「間違いなく、お米です……」


三人とも涙を流しながら食べている。


その姿を見ているだけで胸が痛くなる。


どれだけ飢えていたのか。


どれだけ苦しかったのか。


想像するだけで苦しくなる。


それでも俺は笑顔を崩さなかった。


今は悲しい顔を見せる時じゃない。


三人に安心してもらう時だ。


その思いは伝わったのだろう。


雪乃さんも。


茉奈も。


漣も。


みんな穏やかな表情で三人を見守っていた。


しばらくして落ち着いた頃。


神代君と太陽君が改めて頭を下げた。


「ありがとうございます」


「本当に助かりました」


俺は苦笑する。


「おいおい、やめてくれ」


「仲間なんだからさ」


二人は目を丸くした。


若葉さんは再び涙ぐんでいた。


俺は茉奈へ声をかける。


「茉奈、奥の部屋に《ゲート》を」


「それと《ヴェール》も頼む」


「はい!」


設置が終わる。


その直後。


俺たち八人は《テレポート》で廃村へ戻った。


景色が一瞬で切り替わる。


神代君たち三人は何度も周囲を見回していた。


まだ理解が追いついていないらしい。


俺は苦笑しながら言う。


「あそこでゆっくり話はできないだろ?」


神代君は少しだけ笑った。


「そうですね」


その笑顔を見て安心する。


ようやく神代君らしい表情が戻ってきた。


だが次の瞬間だった。


漣と真紀が神代君たちへ飛びついた。


「馬鹿野郎……!」


「心配したんだからね!」


二人とも涙声だった。


神代君たちも堪え切れなかった。


抱き合ったまま泣き出す。


誰も止めなかった。


高校生たちが異世界に放り込まれてから三か月。


それぞれが必死に耐えてきた。


ようやく再会できたのだ。


今くらいは泣いてもいい。


俺たちは静かに見守った。


しばらくして全員が落ち着く。


特に疲弊しているように見えた若葉さんは、先に休んでもらうことにした。


真紀が付き添うと言い、二人で奥の部屋へ向かう。


扉が閉まるのを見届けてから、俺は神代君と太陽君へ向き直った。


「何があったんだい?」


二人の表情が一変する。


怒りを押し殺そうともせず、これまでの出来事を語り始めた。


軍団長が若葉さんを監禁し、乱暴しようとしたこと。


それを見た太陽君が激怒し、軍団長を叩きのめしたこと。


その結果、軍団長が死亡したこと。


その責任を押し付けようとした兵士たちと神代君が衝突したこと。


若葉さんが心に深い傷を負い、治療さえ拒むようになったこと。


兵士たちとの信頼関係が完全に崩壊したこと。


その後、食事を減らされ、毒まで盛られるようになったこと。


毒に気付いたため食事を取れなくなり、衰弱していったこと。


そして今日。


弱り切ったところへヨシュアたちが現れ、暴行を加えていたところに俺たちが来たらしい。


話を聞き終えた頃には、部屋の空気が重くなっていた。


漣は拳を握り締めて震えている。


雪乃の目には冷たい怒りが宿っていた。


茉奈は青ざめた顔で口元を押さえている。


反応は違う。


だが全員が怒っていた。


俺は静かに尋ねた。


「若葉さんの心の傷は?」


太陽君が答える。


「今は少し落ち着いています」


「でも、夜中に悲鳴を上げて起きることがあります」


「まだ安心はできません」


俺は頷いた。


「しばらくは真紀と一緒にいてもらった方がいいな」


そして雪乃と茉奈を見る。


「雪乃」


「茉奈」


「若葉さんのケアと、真紀のフォローを頼めるか?」


二人は迷わず頷いた。


「承知しました」


「任せてください!」


力強い返事だった。


その時、神代君が漣へ視線を向ける。


「漣」


「お前は大丈夫だったか?」


漣は笑った。


「ああ」


「俺は大丈夫だ」


「佐伯さんたちと偶然会えてさ」


「毎日楽しくやってる」


神代君は安心したように息を吐いた。


「そうか」


「お前が無事なら安心した」


太陽君も静かに頷く。


すると漣の表情が崩れた。


「馬鹿野郎……」


声が震える。


「お前たちがそんな姿になってるの見て……」


「俺が平気でいられるわけねぇだろ……」


そう言って二人を抱き締めた。


神代君も。


太陽君も。


何も言わず、その腕を受け入れる。


俺はただ黙って、その光景を見つめていた。


ようやく仲間たちは再会できた。


だが、本当に取り戻さなければならないものは、まだたくさん残っている。


そう強く感じていた。


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