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111 エドワードへ向かう旅

《テレポート》した先は、見覚えのある森の中だった。


周囲を見回した漣が目を輝かせる。


「これが《テレポート》か!」


「すげぇな! 一瞬じゃねぇか!」


真紀も感心したように辺りを見回している。


「移動した感じが全然しないんだけど……」


「本当に便利ね」


二人の反応を見て、茉奈が少し得意そうに胸を張った。


俺は苦笑しながら雪乃さんへ視線を向ける。


「雪乃さん」


「エドワード領の方角は分かるかな?」


雪乃さんは目を閉じて周囲の気配を探る。


しばらくして静かに口を開いた。


「エドワード領そのものの位置までは分かりません」


「ですが、ここから北西方向に大勢の人の気配があります」


「さらにその先、北側にも大きな人の集団を感じます」


それを聞いていた真紀が頷いた。


「たぶんパールの街ね」


「私たちが領都へ向かった時も、そのルートを通ったわ」


「パールの街からさらに北へ行くと領都ギルセニアだったはず」


俺は全員を見回した。


「よし」


「まずは北西へ向かおう」


「目標はパールの街だ」


「ただし無理はしない」


「もし辿り着けなくても、茉奈の《テレポート》で廃村へ戻ればいい」


「焦らず慎重に進もう」


全員が頷いた。


俺は茉奈の肩に軽く手を置く。


「頼りにしてるよ」


茉奈は胸を叩いた。


「任せてください!」


その笑顔に思わず笑ってしまう。


こうして俺たちは進み始めた。


道中、何度も魔物と遭遇した。


漣の話では、この辺りから領都までの間に特別強力な魔物はいないらしい。


ただし数が多い。


強い魔物はさらに北へ進んだ先に現れるという。


実際、その言葉通りだった。


一体一体は大したことがない。


だが遭遇頻度が異常に高い。


ゼスト周辺とは比べ物にならなかった。


冒険者ギルドが存在しない地域だからだろう。


討伐が追いついていないのかもしれない。


戦闘のたびに俺は《分解》を使う。


目的は素材ではない。


魔石だ。


もし魔石を埋め込まれた魔物がいるなら警戒しなければならない。


自治区長の話が本当なら、それは単なる魔物では済まない。


だが今のところ見つからない。


俺が分解した素材は、次々と消えていく。


初めて見る光景に漣が驚いていた。


「なんだそのスキル?」


「素材が全部消えていくんだけど」


茉奈が楽しそうに答える。


「《念動収納》です」


「便利ですよね」


本当に便利だ。


素材の運搬を一人でこなしてしまう。


改めて考えても、とんでもない能力だった。


隊列は決まっている。


先頭が俺と雪乃さん。


少し後ろに真紀と茉奈。


最後尾が漣だ。


雪乃さんが《気配察知》で周囲を警戒する。


何かを察知すると全員を止める。


相手が旅人や小動物ならそのまま通過。


魔物なら先制攻撃だ。


真紀と茉奈が魔法で攻撃し、その隙に俺と漣が突撃する。


雪乃さんは少し遅れて戦場へ入り、逃げた敵や討ち漏らしを処理する。


かなり安定した戦い方だった。


しばらく進むと視界が開けた。


広い草原だ。


俺は雪乃さんへ確認する。


「どうかな?」


雪乃さんは周囲を見回した。


「ここなら休憩できそうです」


その言葉で昼食を取ることにした。


茉奈が《次元収納》から昼食を取り出す。


塩むすび。


唐揚げ。


卵焼き。


昨日作ったものだ。


だが収納していたおかげで出来立てそのままだった。


俺たちは思い思いに手を伸ばす。


一口食べる。


うまい。


本当にうまい。


思わず頬が緩んだ。


すると塩むすびと唐揚げを持った漣が笑う。


「佐伯さんと二人旅だったら、こんな美味い飯は無かったな」


「真紀と茉奈が先制攻撃してくれるから戦闘も楽だし」


「雪乃さんのおかげで先に敵を見つけられるしな」


「ほんと、みんなで来て良かったよ」


雪乃さんたち三人が嬉しそうに笑う。


俺も大きく頷いた。


「その通りだな」


「みんながいるから出来てる旅だ」


昼食を終え、再び歩き出す。


しかし進めば進むほど魔物の数が増えていった。


正直、不安になる。


この辺りの住民は本当に生活できているのだろうか。


冒険者の姿もない。


騎士の巡回も見かけない。


まるで放置されているようだった。


ギルモア領の現状を考えると嫌な想像ばかり浮かんでくる。


神代君たちは本当に大丈夫なのだろうか。


俺は無意識に拳を握り締めた。


気付けば辺りは暗くなっていた。


俺は立ち止まる。


「今日はここまでにしよう」


そして茉奈へ視線を向ける。


「あそこの草むらに戻って来られるか?」


茉奈は草むらを見つめる。


数秒後に頷いた。


「可能です」


「よし」


「じゃあ帰ろう」


茉奈が《テレポート》を発動する。


景色が揺らぐ。


次の瞬間。


俺たちは廃村の広間へ戻っていた。


何度体験しても反則みたいな能力だ。


夕食を囲みながら真紀さんがしみじみと言う。


「普通なら野営よね」


「それが一瞬で帰宅できるんだから最高じゃない」


俺も頷く。


「本当にそうだな」


「茉奈のおかげで、普通の旅より遥かに楽をさせてもらってる」


茉奈は照れ臭そうに笑った。


すると漣がぼやく。


「あとは風呂だな」


「風呂さえあれば完璧なんだけど」


その瞬間。


雪乃さんが勢いよく頷いた。


「それです!」


「本当にそれ!」


思わず全員で笑ってしまう。


確かに生活魔法のおかげで清潔ではある。


だがそれと風呂は別問題だ。


日本人としては、一日の終わりに湯に浸かりたい。


そんな話をしていると、茉奈が手を挙げた。


「この旅が終わったら、お風呂作りませんか?」


全員が茉奈を見る。


「だって、この村は私たちの村になったんですよ?」


「お風呂があっても良いじゃないですか」


その提案に俺は即答した。


「よし!」


「神代君たちを救出したら風呂を作ろう!」


すると全員が拳を突き上げる。


「おおおお!!」


広間に歓声が響いた。


エドワード領へ向かう旅は始まったばかりだ。


不安もある。


危険もある。


だが、その先には仲間との再会がある。


そして――風呂もある。


新たな目標を胸に、俺たちは明日へ向けて休むことにした。


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