110 仲間を救う旅へ
レストランの開店日になった。
俺たちが手掛けた店だという話は、すでに街中へ広まっていたらしい。
開店前にもかかわらず、店の前には長い行列ができていた。
俺と雪乃さんは、開店準備中の店内を見回っていた。
従業員たちは慌ただしく動いている。
料理人は調理場で仕込みを進め、給仕担当はテーブルを整え、注文票や食器の確認を行っていた。
その様子を見ながら雪乃さんが満足そうに頷く。
「皆さん、しっかり覚えてくれましたね」
「そうだね」
「予想以上だ」
教育した通りに動いている。
しかも想像以上に飲み込みが早い。
これなら問題なく営業できそうだった。
レストランのメニューは色々取り揃えている。
魔物肉ステーキ。
魔物肉の唐揚げ。
魔物肉と野菜の味噌炒め。
魔物肉のハンバーグ。
魔物行肉を使った料理から
オムライス。
コロッケ。
シチュー。
など、俺たち日本人に馴染み深い料理。
そして、一番の目玉商品が――カレーだった。
ルーは俺の《等価召喚》で取り寄せたものだ。
本当なら一から作りたかった。
だが時間が足りなかった。
だから今回は妥協した。
それでも試食会の時は大騒ぎだった。
特に漣と真紀。
二人とも涙ぐみながら食べていた。
「カレーだ……」
「日本の味だ……」
などと言いながら食べていた姿を思い出す。
少し笑ってしまった。
やがて開店セレモニーが始まった。
自治区長とゼシカさんも参加してくれる。
簡単な挨拶が終わり、いよいよ開店となった。
扉が開く。
そして――。
あっという間に満席になった。
店内は一気に活気に包まれる。
俺は従業員たちの動きを確認した。
注文。
配膳。
会計。
片付け。
どれも問題ない。
「よし」
思わず小さく呟く。
すると見覚えのある顔が目に入った。
ユリウスさんだ。
迷いなくカレーを注文している。
あの様子なら、きっと気に入ってくれるだろう。
近頃、漣と真紀は冒険者として積極的に活動していた。
理由は単純。
俺の《等価召喚》だ。
魔物素材をポイント化し、そのポイントでレトルト食品や缶詰を手に入れる。
その楽しさに完全に目覚めてしまったらしい。
「今日はパインの缶詰狙いだ!」
「私はレトルトハンバーグ!」
そんなことを言いながら毎日のように魔物狩りへ出掛けている。
おかげで大量の素材が集まっていた。
茉奈はというと、最近は店番ばかりしている。
仕込みの時以外は、ほとんど店にいる。
「私たちがいなくなってる間に、お客さんが離れたら困りますから」
真剣な顔でそんなことを言っていた。
俺と雪乃さんは顔を見合わせる。
「もう立派な店長だね」
「ですね」
二人で笑ってしまった。
仕込みも順調だった。
正直、《等価召喚》があるので無理に作り置きをする必要はない。
だが雪乃さんは違う考えだった。
「こちらの世界の食材で作った方が美味しいんです」
「たぶん水が良いんでしょうね」
「だから作れるものは手作りしましょう」
そう言われた。
実際、食べ比べてみると明らかに違う。
こっちの食材で作った方が美味い。
だから俺は素直に従っている。
不思議なものだ。
雪乃さんに言われると、妙に納得してしまう。
そんなことを考えていると――。
近くにいた真紀が、じっとこちらを見ていた。
嫌な予感がする。
「佐伯さん」
「なんだい?」
「惚れた相手の意見ばかり聞いてないで、たまには他人の意見も聞きなさい」
意味が分からない。
反論しようとした瞬間。
漣が肩を叩いた。
「まあまあ」
なぜか宥められる。
さらに雪乃さんと茉奈まで笑い始めた。
納得いかない。
俺はこんな扱いを受ける人生じゃなかったはずだ。
……はずなのだが。
不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ心地良い。
そんな穏やかな日々が続いた。
そしてレストラン開店から二日後。
俺たちは冒険者ギルドを訪れた。
明日、五人で旅立つことを伝えるためだ。
レストランは従業員たちに任せる。
だが店の方は閉める予定だった。
説明を聞いたゼシカさんが、途端に青ざめる。
「奇跡の菓子はどうなるんだ!?」
思わず叫んでいた。
俺たちは顔を見合わせる。
そして苦笑した。
「なるべく早く帰ってきます」
「それまで我慢してください」
そう伝えると、ゼシカさんは本気で泣きそうな顔になった。
本当にこの人は子供っぽい。
ギルド長としては優秀なのに。
そんなところも含めて、少し面白い人だった。
そして旅立ち前日の夜。
荷物の最終確認をしている時だった。
ふと思い出す。
「そういえば」
四人へ向き直る。
「ゴブリンキングの魔石を《分析》した時なんだけど」
「シルビア・ベネディクトって名前が出てきたんだ」
全員の表情が変わる。
「魔石に魔力を込めた人間の名前らしい」
「つまり、あのシルビア大司教だ」
雪乃さんが静かに頷く。
「やっぱりアルステア教は黒ですね」
俺も同意した。
「間違いないだろう」
「だから今後はアルステア教にも注意してくれ」
四人とも真剣な顔で頷いた。
そして翌朝。
俺たちは旅立つ前にエルニア教の教会へ向かった。
静かな礼拝堂。
祭壇の前で祈りを捧げる。
この旅の無事を。
仲間たちとの再会を。
そして真実へ辿り着けることを。
祈りを終えた後、少しだけ寄付をした。
教会を後にする。
そして廃村へ移動した。
廃村に茉奈が≪ゲート≫を設置し終えたところで、広間へ集まった五人を見渡す。
全員の表情は引き締まっていた。
いよいよだ。
俺は茉奈を見る。
茉奈が頷く。
「準備できました」
俺も頷き返した。
「それじゃあ行こう」
茉奈が手をかざす。
《テレポート》。
景色が歪む。
次の瞬間――。
俺たちはセル村近くの森へと降り立っていた。
いよいよ仲間を救うための旅が始まる。




