107 冒険者ギルドでの相談③
「信じてもらえないかと思いますが、俺たち五人は、この世界の人間ではありません」
「異なる世界から強制的にこの世界へ連れて来られました」
「元の世界にいた頃、俺たち全員が知り合いだったわけではありません」
「一部を除けば、まったく接点のない人間同士でした」
そこまで話して、俺は言葉を切った。
自治区長たちの反応を待つ。
自治区長とゼシカさんは顔を見合わせている。
ジョージさんは訝しげな表情を浮かべていた。
しばらく沈黙が続いた後、自治区長が口を開く。
「異世界人召喚の儀か……」
「まさか、あの忌まわしい儀式を行う者がいたとは……」
重い声だった。
「ゼシカさんは元王国魔術師団長でな」
「異世界人召喚の儀について知っている」
「だがジョージさんは知らぬだろう」
「元王宮の文官であっても、この件は秘匿事項だからな」
そう言われると、ゼシカさんとジョージさんは静かに頷いた。
信じてもらえたらしい。
俺は続きを話す。
「俺たちを召喚したのはギルモア辺境伯です」
「その場にはアルステア教のシルビア大司教と、ギルモア守備隊隊長ヨシュアもいました」
「召喚されたのは約三か月前です」
「その際に聞かされたのが、魔族の侵攻と王族の腐敗でした」
「俺たちの任務は魔物との戦い、そして王族との戦いです」
その瞬間。
自治区長が勢いよく立ち上がった。
「馬鹿な!」
「義弟が君たちを召喚したというのか!?」
「そのうえ王族との戦いだと!?」
「内乱を起こすつもりか、あいつは!」
拳を握り締めて震えている。
怒りを抑え切れていない。
俺は静かに答えた。
「事実です」
雪乃さんたちも頷く。
ゼシカさんが自治区長の肩へ手を置いた。
「落ち着いてください」
そう言われ、自治区長は深く息を吐いて再び椅子へ座る。
俺は話を続けた。
「その後、俺たちはギルモア騎士団と共に領都へ向かいました」
「戦闘訓練を兼ねた旅です」
「その旅の途中で色々ありまして……」
「俺と雪乃さん、茉奈の三人は離脱しました」
「漣と真紀は領都まで行ったらしいのですが――」
そこで漣が話を引き継ぐ。
「辺境伯がふざけたこと言ったんでな」
「脅したら嫌われて追い出された」
「自治区へ行けってさ」
真紀が苦笑する。
「結果的には良かったんだけどね」
漣は肩をすくめた。
「勇樹たちは残った」
「んで、エドワード領に魔物討伐で送り込まれたってわけだ」
自治区長は腕を組んだ。
「異世界人召喚の儀で八人……」
そして小さく呟く。
「ならば四万人以上か……」
俺は思わず聞き返した。
「どういう意味ですか?」
自治区長は目を閉じる。
代わりにゼシカさんが答えた。
「異世界人召喚の儀では」
「異世界人一人につき五千人の命を捧げる」
その言葉に俺たちは凍り付いた。
「神の力ではない」
「邪神――いや、悪魔の力だ」
「だからこそ、この国では禁忌とされてきた」
「長く歴史の闇に葬られていた儀式なんだ」
力なく語るゼシカさん。
俺たちは言葉を失った。
八人。
一人五千人。
つまり――。
四万人。
俺たちを呼ぶためだけに。
まったく関係のない人々が。
重苦しい沈黙が部屋を包む。
自治区長が絞り出すように言った。
「行方不明となっている避難民たち……」
「おそらく儀式の贄にされたのだろう」
「何の罪もない者たちを殺し」
「さらに別世界の人間を拉致するとは……」
自治区長の目から涙が零れ落ちた。
「なんという罪深いことを……」
誰も何も言えなかった。
やがて休憩を挟むことになった。
だが誰一人席を立とうとはしない。
皆、それぞれの思いを抱えて黙り込んでいた。
しばらくして。
漣が口を開いた。
「勇樹が危ないなら」
「俺はエドワードへ行く」
その言葉に俺は即答した。
「俺も行く」
「仲間の危機だ」
「ここでじっとしている場合じゃない」
「ただし、行く前に片付けるべきことがある」
「そう時間はかからない」
漣は力強く頷いた。
すると雪乃さんが言う。
「佐伯さんが行くなら、私も行きます」
俺は雪乃さんを見る。
そして首を横に振った。
「駄目だ」
雪乃さんの表情が固まる。
「どうして……」
涙が溢れた。
昨日、ようやく想いを伝え合ったばかりだった。
だからこそ。
俺は苦しかった。
「今回の旅は今までとは違う」
「相手はギルモア領そのものかもしれない」
「魔族が絡んでいる可能性もある」
「危険度が桁違いなんだ」
雪乃さんは唇を噛み締める。
俺も胸が痛んだ。
本当は離れたくない。
一緒にいたい。
だが――。
だからこそ守りたい。
「雪乃さん」
「俺は必ず帰ってくる」
「だから待っていてほしい」
そう言うと、雪乃さんは俯いたまま涙を流した。
隣の茉奈へ視線を向ける。
「雪乃さんを頼む」
茉奈は頷いた。
「うん……」
だが、その表情も複雑だった。
その時。
自治区長たちが戻ってきた。
会議再開である。
自治区長は真剣な表情で言った。
「君たちの事情は理解した」
「そのうえで依頼したいことが二つある」
俺たちは姿勢を正す。
「一つ目だ」
「以前話したレストラン計画を前倒しで進めてほしい」
「避難民は今も増えている」
「雇用創出が急務だ」
俺は頷いた。
「承知しました」
「教育はほぼ完了しています」
「店自体は明日からでも営業可能です」
「ただし追加教育を行いたいので二日ほどください」
「三日後の開店でいかがでしょうか」
自治区長は大きく頷いた。
「頼む」
「こちらも各業者へ協力を要請する」
ジョージさんが立ち上がった。
「では早速動いて参ります」
そう言って退室していく。
自治区長は続けた。
「二つ目だ」
「これは冒険者としての依頼になる」
自治区長の表情がさらに険しくなる。
「滅亡領域を調査してほしい」
「我々はまだ確証を得られていない」
「だが嫌な予感だけは積み上がっている」
「決定的な証拠が必要なんだ」
俺は静かに答えた。
「承知しています」
「近いうちにエドワード領へ向かいます」
「仲間の救出」
「そして調査」
「両方を行うつもりです」
「ただしレストラン計画を先に進めます」
「その点だけはご了承ください」
自治区長は大きく頷いた。
「承知した」
そして右手を差し出してくる。
俺はその手を握った。
するとゼシカさんがその上に手を重ねる。
漣。
真紀。
茉奈。
次々と手が重なった。
最後に雪乃さんも涙を拭いながら手を重ねる。
自治区長は静かに言った。
「頼んだぞ」
俺は頷く。
仲間を救う。
真実を暴く。
そして必ず帰ってくる。
その決意を胸に、俺は重ねられた皆の手を見つめていた。




