106 冒険者ギルドでの相談②
「最後に、今回の戦闘における報奨金だが――」
ゼシカさんが書類へ目を落としながら言った。
「君たちは、それぞれ金貨五十枚ずつの配当になる」
俺たちは思わず目を丸くした。
金貨五十枚。
あまりにも大きな額だ。
ゼシカさんは俺たちの反応を見て、少ないと思われたと勘違いしたのか肩をすくめる。
「他の冒険者たちは多くても金貨二十枚だ」
「それと比べれば破格だぞ」
俺は慌てて首を振った。
「いえ、逆です」
「多すぎて驚いたんです」
「一回の戦いでそんなにもらっていいのかと……」
雪乃さんたちも何度も頷いている。
すると自治区長が豪快に笑った。
「ははは!」
「冒険者も含め、それだけの活躍をしたんだ」
「ここに住む全ての民の安心と安全を考えれば妥当だろう」
「それに君たちは、その額に見合った働きをしたということさ」
そう言って微笑む。
その横で漣と真紀が盛り上がっていた。
「こんな大金、初めてだぞ!」
「私も!」
「何買おうかな?」
二人の嬉しそうな顔を見ると、俺まで嬉しくなる。
ふと隣を見る。
雪乃さんも二人を見て微笑んでいた。
可愛いな。
報奨金で何かプレゼントしたら、あの笑顔を俺だけに向けてくれるだろうか。
そんなことを考えていると――
自治区長が真顔になった。
「それで、ここからが少々込み入った話になる」
空気が変わる。
俺も表情を引き締めた。
自治区長は続ける。
「昨日の戦闘で、君たちはゴブリンキングの魔石を手にしただろう?」
俺は茉奈へ目配せした。
茉奈が《次元収納》から魔石を取り出し、テーブルへ置く。
自治区長とゼシカさん、ジョージさんは目を見開く。
俺は話を勧めたかったので、お構いなしに話す。
「これですね?」
自治区長は唖然としていたが、気を取り直して頷いた。
「そうだ」
すると今度はゼシカさんが、小さめの魔石を数個取り出した。
「これはゴブリンジェネラルとゴブリンロードから回収したものだ」
「他のゴブリンも解体したが、魔石らしいものは見つからなかった」
「そもそもゴブリン種から素材が取れること自体が珍しい」
「普通は武器類くらいだ」
そう言って溜息を吐く。
自治区長が続けた。
「この魔石だが、魔物へ植え付けることで、魔力の持ち主の意のままに操れる代物だ」
「他にも用途はあるが、今回の用途は間違いなくそれだろう」
俺は魔石へ《分析》を使った。
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素材:魔石【翻弄の石】
魔力を秘めた結晶
込めた魔力によって様々な能力を発揮する
この魔石には、魔力を込めた者の意のままに操る能力が備わっている
この魔石に込められた魔力は、シルビア・ベネディクトの魔力である
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シルビア・ベネディクト。
その名前を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。
忘れるはずがない。
俺たちを鑑定したあの大司教の名前だ。
自治区長の話は正しかった。
そして、それ以上に嫌な予感がした。
自治区長は話を続ける。
「魔物たちを統べているのは魔族だ」
「その魔族は、このような魔石を使わずとも魔物を支配できる」
「ならば誰がこれを使ったのか」
そこで一度言葉を切る。
俺たちは黙って続きを待った。
「正直、決定的な証拠はない」
「だが最近、各地へ送った密偵たちから妙な報告が集まっている」
そして一つ目の情報を語った。
アルベール。
エドワード。
レイモンド。
滅びた三領からギルモアへ避難した民の多くが行方不明になっていること。
しかも数は数万人規模。
思わず息を呑んだ。
数万人。
小さな街一つが丸ごと消えるほどの人数だ。
二つ目。
魔物侵攻が起きた地域ではアルステア教が活動していたこと。
そして、その総本山がギルモア領都ギルセニアにあること。
三つ目。
滅びた領地へギルモア軍が進出していること。
しかも魔物を討伐するのではなく捕獲していること。
「ギルモア軍には大した実力はない」
「捕獲できるのは弱い魔物ばかりだ」
「だが、魔石で操れるのであれば話は別だ」
自治区長の声が低くなる。
「今回のような脅威になり得る」
「私たちはギルモアが何か良からぬことを企んでいるのではないかと考えている」
するとジョージさんも口を開いた。
「当ギルドでも調査を行いました」
「滅びた領地以外にも、多くの人々が当自治区へ逃げ込んでいます」
「その大半がギルモア領から逃げて来られた方々です」
そして得られた情報を語る。
富国強兵政策。
その終了後の重税。
払えない者の捕縛。
老若男女を問わない強制労働。
そして送り込まれる先は滅亡した領地。
聞けば聞くほど胸糞が悪い話だった。
すると漣が顔をしかめた。
「エドワードって土地、ヤバくないか?」
ゼシカさんが頷く。
「荒れているな」
「先日も、そこの軍団長が入ってきたばかりの若手に殺されたらしい」
「もっとも、殺されるだけのことを仕出かしたようだがな」
その言葉を聞いた漣と真紀の顔色が変わる。
「若手って……」
「もしかして勇樹たちじゃ……」
俺の胸がざわついた。
エドワード領。
最悪の土地だ。
そんな場所に勇樹たちがいる。
無事でいてくれればいいが――。
だが、その呟きをゼシカさんは聞き逃さなかった。
「ユウキとは誰だ?」
鋭い視線が向けられる。
漣と真紀は慌てて口を押さえた。
だがもう遅い。
俺は小さく息を吐いた。
そして口を開く。
「ユウキは俺たちの仲間です」
「俺たちの仲間は、ユウキを含めてあと三人います」
「今はエドワード領にいます」
自治区長が目を細める。
真っ直ぐこちらを見据えた。
「前々から聞こうと思っていた」
静かな声だった。
だが重い。
「君たちは何者だ?」
「どこから、どのようにして来た?」
室内が静まり返る。
自治区長。
ゼシカさん。
ジョージさん。
全員が俺たちを見ていた。
俺は雪乃さんを見る。
雪乃さんは静かに頷いた。
茉奈も。
漣も。
真紀さんも。
みんな同じ顔をしている。
もう隠し続ける理由はない。
俺たちが何者なのか。
どこから来たのか。
そして、なぜギルモアを信用していないのか。
全てを話す時が来た。




