105 冒険者ギルドでの相談①
「疲れているところ、すまないね」
応接室へ入るなり、ニストン自治区長が穏やかな笑みを浮かべた。
「昨日のお礼と、それから少し込み入った話をしておきたくてね」
「無理を承知で来てもらったんだ」
俺は軽く頭を下げる。
「いえ、構いません」
すると自治区長は表情を引き締めた。
「まず最初に――」
「昨日は本当にありがとう」
静かな声だった。
だが、その言葉には重みがあった。
「君たちがいなければ、ゼストは落ちていた」
「街も、人も、多くを失っていただろう」
「街の代表として」
「自治区の代表として」
「心から感謝する」
そう言うと、自治区長は深々と頭を下げた。
俺は慌てて声を上げる。
「頭を上げてください」
「俺たちはこの街に住んでいる人間です」
「世話になっている人もたくさんいます」
「当然のことをしただけですよ」
そう言ってみんなを見る。
雪乃さん。
茉奈。
漣。
真紀。
四人も頷いていた。
だが自治区長は首を振る。
「それでもだ」
「命を懸けて街を守ってくれた」
「その事実は変わらない」
そして再び頭を下げた。
部屋に静寂が落ちる。
その空気を変えるように、ゼシカさんが口を開いた。
「ということでだ」
「君たちには自治区長から破格の報酬と褒章が与えられることになった」
俺たちは顔を見合わせた。
ゼシカさんは一枚の書類を取り出す。
「まず一つ目」
「冒険者ランクの昇格だ」
おお、と漣が身を乗り出す。
「昨日の戦闘における戦果」
「任務遂行能力」
「責任感」
「それらを総合的に評価した結果になる」
そしてこちらを見る。
「カズキ、ユキノ、マナの三名は金級」
「レンとマキは銀級だ」
漣と真紀が目を見開いた。
ゼシカさんは苦笑する。
「本当なら金級相当の実力があることは分かっている」
「だが流石に金級への飛び級は規則上認められなかった」
「私の力不足だ」
「申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
すると漣が慌てた。
「やめてくれよ!」
「銀級でも十分すげぇよ!」
「ちゃんと認められたってことだろ?」
「俺、めちゃくちゃ嬉しいんだけど!」
そう言って真紀を見る。
「真紀もそうだろ?」
真紀は笑顔で頷いた。
「もちろん」
「こっちに来てから色々あったけど……」
「最近は良いことばかりで逆に怖いくらいね」
その言葉に皆が笑った。
ゼシカさんは続ける。
「二つ目」
「税金についてだ」
その瞬間。
俺と雪乃さんが真顔になった。
ゼシカさんはそんな俺たちを見て少し笑う。
「君たちは今後、住民税その他の街に関する税を免除する」
「ただし冒険者素材の買い取り税だけは制度上免除できない」
「だが住民として課される税金は全て免除だ」
そしてさらに続ける。
「君たちが運営する店についても同様だ」
「人件費以外の税負担は基本的に発生しない」
俺と雪乃さんは顔を見合わせた。
そして同時に立ち上がる。
「本当ですか!?」
雪乃さんが勢いよく聞く。
「期間は!?」
自治区長が吹き出した。
「もちろん」
「君たちがこの自治区に住んでくれる限り永久だ」
その瞬間。
俺と雪乃さんは勢いよくハイタッチした。
パァン!
良い音が鳴る。
漣と真紀が呆然としている。
茉奈も目を丸くしていた。
だが俺たちにとってはとんでもない褒章だった。
税金は重い。
払う側になれば分かる。
働いた分がそのまま残る。
これほどありがたい話はない。
「ありがとうございます!」
俺と雪乃は勢いよく頭を下げる。
他の三人も慌てて続いた。
その様子を見てゼシカさんが笑う。
「次が本命だ」
俺たちは首を傾げた。
これ以上あるのか?
ゼシカさんはニヤリと笑う。
「君たちをギルニス自治区の名誉副区長に任命する」
全員の顔が曇った。
見事なまでに全員同じ反応だった。
自治区長が苦笑する。
「そんな嫌そうな顔をしないでくれ」
「仕事が増えるわけじゃない」
「この街が君たちを応援している」
「その証みたいなものだと思ってくれればいい」
なるほど。
マスコットみたいなものか。
そう理解すると少し安心した。
周囲も同じだったらしい。
ほっとした顔をしている。
ゼシカさんが呆れたように肩をすくめる。
「本当に名誉欲が無いな、お前たちは」
そして本題に入った。
「でだ」
「名誉副区長の代表者に土地を与えることになった」
俺は即座に首を振る。
「いやですよ」
「領地経営とか無理です」
するとゼシカさんが笑った。
「場所を聞いても同じことが言えるかな?」
「え?」
嫌な予感がする。
「どこです?」
ゼシカさんは口元を吊り上げた。
「ゼストの西にある廃村だ」
その瞬間。
俺。
雪乃さん。
茉奈。
三人の動きが止まった。
思わず顔を見合わせる。
漣と真紀だけが意味が分からず首を傾げていた。
自治区長が説明を始める。
「あそこは正式には第八自治区なんだ」
「ただね」
「たまに義弟――ギルモア辺境伯が勝手に使う」
嫌そうな顔をした。
「だから監視していたんだよ」
俺の背中に冷たいものが走る。
自治区長は続ける。
「すると最近、妙に良い匂いがするという報告が上がってきてね」
「密偵を送った」
完全にバレていた。
自治区長は苦笑する。
「調べてみたら君たちがいた」
「何か色々作っていた」
「しかも毎日楽しそうに食べていた」
顔が上げられない。
横を見る。
雪乃さんも俯いている。
茉奈もだ。
自治区長は笑った。
「悪いことをしていないなら放置でいい」
「そう判断した」
「実際、その料理のおかげでゼストの経済はかなり潤っているからね」
完全に把握されていたらしい。
そして自治区長は言う。
「だから昨日の戦いの褒章として」
「あの土地を君たちに与えようと思う」
俺たちは同時に顔を上げた。
自治区長が吹き出す。
「本当に現金だな、君たちは」
「ありがとうございます!」
三人で勢いよく頭を下げた。
すると真紀が不思議そうに聞く。
「そんなに嬉しいの?」
俺は即答した。
「嬉しいさ!」
「俺たちの拠点だからな!」
「最初に住んだ場所だし」
「生活基盤を作った場所だ」
「今でも色々な素材が置いてある」
「仕込み中の物も山ほどある」
興奮気味に話していると、
漣と真紀が少し引いていた。
雪乃が笑う。
「二人にとっても懐かしい場所よ」
そう言ってウインクする。
二人はますます首を傾げていた。
自治区長は満足そうに頷いた。
「喜んでもらえたなら何よりだ」
そして少し真顔になる。
「あそこを放置すると義弟がまた勝手なことをするからね」
「頼んだよ」
なるほど。
こちらだけでなく、自治区長にも利点があるらしい。
俺は頷いた。
「承知しました」
そう言って、深く頭を下げた。




